第3話「猫に小判」 Bパート

だが、重要なのはここからである。

事態は思わぬ方向へと進む。


日本国内で、ある日突然“パイオボイニャーの布”が発見される。

但し、それは“パイオビッカー”とのちに呼ばれる“超能力を得た人間”という形として。


パイオボイニャー1号の帰還からおよそ半年後。

日本に様々な不可思議な能力を使える者が出現し始めた。

人間本来の能力が大幅にパワーアップした者から、果ては現代科学では到底解明できないストレンジエスパーまで、それは多種多様、多芸多能に渡った。

因みに、超能力者はそれぞれ、個人個人によって異なるが、何かを我慢、忍耐する状態を自らに与える事によって超能力を発動する。

故にその力はいつからか“我慢ペイシェント”と囁かれるようになった。


ところが、やがて時が経つに連れ、彼らは人前で力を使うと異質者としてパイオボイニャー対策課や医師により逮捕、又は隔離されてしまうようになる。

これがもうひとつの意味である、“患者ペイシェント”である。

(表向きは確かに異質者の隔離政策であるが、実は対策局による“布”探しであるが、まさか一般人は知る由もない)

そして当然、能力者でありながら捕まりも協力もしない、野放しの者もそれなりの数いるであろう。

そう。結果的に、能力者は力を隠すように、力を持っていることを表に出さないようになったことで“布”探しが困難になったというのは皮肉な事態である。


余談ではあるが、何故、“超能力者”が“布”であると認識されたのか?

それはパイオビッカーたちを調べていく内に分かってきたことなのだが、彼ら全員が何らかの形で“布”を手に入れている者であるという事実からである。

ある者は川原や海中や山奥で拾い、ある者は空から落ちてきたと言い、ある者は他人から貰ったり、また買ったり、ある者は気付くと腹部や背部に貼り付いていたり・・・。

それらの事実から“布”が別の形に成形され直したものが、つまり“パイオビッカー”である、とされたのだ。

とは言え、拾った者の全員が、超能力を発揮する訳でもなかった。

多くの者は超能力に一切目覚めることなく「なんか変なもんひろた」程度の認識でしかない。

その違いは何なのか?

能力を手にする、しないの差はどこにあるのか?

その件については現在進行形で調査中である。

ただひとつ言えるのは、能力ペイシェントを善行の為に使える者は少ない、ということだ。


・・・建設中のビルの薄暗い部屋のひとつ。

鉄骨にもたれたり、資材に座ったり、みんな思い思いの場所で副長官の話を聞いている。

「私とオットモットは残念ですがパイオビッカーにはなれませんでした・・・」

ナーサ博士が寂しそうにつぶやく。

「人間、思い通りには行かんもんだ」

斑鳩もこぼすが、彼女は沈んでいるだけではなかった。

「ですがせめてパイオビッカーの力になろうとオットモットと誓い合ったのです」

こうしてナーサ・エライヒトから長い長いこれまでの経緯が語られ、砂姫乃、憩子、夜風、豊岡は知らなかった事実をいくつか知るのであった。

夜は更け、半月が雲間から顔を出す。

少し風が強くなってきた。


「キャー!」

「逃げろ!」

砂姫乃たちが自分たちの運命、今後の不安など入り雑じった思いに耽っていると、いきなり風に乗って町の人々の悲鳴が聞こえてきた。

ナーサ博士も斑鳩警部もパイオビッカーたちも、一斉に立ち上がる。

「何かしら?」

夜風が砂姫乃を見る。

棒術使いの少女はまだガラスの入っていない窓に走り寄り階下を覗く。

「ん~・・・山本山じゃないみたいだよ」

砂姫乃の隣に憩子が寄り添い一緒に下を見る。遅れて夜風、豊岡と斑鳩、ナーサも心配そうに見下ろし目を凝らす。

14階からの高さなのもあり判別が難しい。

その時、憩子が一歩、二歩、三歩と下がりキョロキョロと辺りを見渡す。

「ごめんなさい、私の能力ペイシェントで探ってみますね」

そう仲間たちに告げると床に落ちて固まっていた鳥だかのふんを人さし指ですくい取る。

ナーサ博士が「Oh~!?」と焦った表情をする。

「ナーサさん安心して。あれがいこいこの能力だよ」

砂姫乃が説明する。

憩子が糞を鼻先にかざす。

そして・・・クンクン・・・。


「嗅いだ糞臭ふんしゅうかぐわしき! 感度良好アニマルレーダー!」


憩子の三つ編みにした髪が銀色に輝き、頭のてぺっちょの髪ひと房が回転する。

瞳がピコーン!ピコーン!と光る。

「今ムクドリさんが見てるわ。新しいパイオビッカーがいるみたい」

三つ編み眼鏡でブレザー制服の中学生、四方方憩子しほうかた・けいこは、生き物のウンコの臭いを嗅ぐとその動物が見聞きしたものを認識できるのだ。

「Oh! 素晴らしい! これがあの捜索探査の能力!」

ナーサ博士が感動する。

その発言を夜風だけは聞き逃さない。

(あら、今、ナーサさん「あの」って言ったわ。聞いたことあるってことよね?)

ちょっと不信に思う漁火夜風をあとに砂姫乃と豊岡、斑鳩警部は階段を駆け降りる。

続いて憩子とナーサ博士、最後に裸コートの夜風がビルを出る。



夜のビジネス街は意外と暗い。

街灯に照らされている一角だけは明るいが昼間とは違う異世界にさえ見える。

ビルディングの群れも冷たく人間たちを見下ろしている。

ビジネスマンたちは先程の騒ぎのせいか誰もいなくなっていた。

そんなあるひとつの街灯の下。

砂姫乃が何者かが背をこちらに向けて立っているのに気付く。

真っ白な中国服チャンパオの様な長い裾、手にしているのは・・・なんだろう?

・・・カゴ? ・・・鳥カゴだ。

分かった。

大きな鳥カゴを持った白装束の・・・体格からすると男だ。

問題なのは、背を向けている男のこちら側でしゃがんでいる何かだ。

初めは判別できなかったが暗がりに慣れてきてそれが段だんと何かが判ってくる。

・・・鳥の頭をした女性だ。

細い腰の黒いビジネススーツ、タイトスカートに黒いパンストは美脚なのだけど、どういう訳なのか、首から上が人間の頭の大きさの黄色いカナリアなのだ。

砂姫乃の後から来た豊岡と斑鳩も20メートルほど先にいる赤口ジャックと手前の女性の異変に感付いた。

「砂姫乃さん、あれ・・・」

豊岡が恐る恐る聞く。

砂姫乃が答える。

「うん、あいつの能力だよ、きっと」

警部も恐怖で背筋が震え上がる。

「砂姫乃くん、ありゃマズイな・・・!」

人間の体にカナリア頭。

「じゃあ、あのOLさんの頭は・・・。斑鳩さん、夜風さんと憩子さんを足止めしておいてください」

豊岡が斑鳩警部にお願いする。

「おう・・・」

後ずさりし警部は引き返す。


敵パイオビッカー男の持つ鳥カゴの中、黄色いカナリアの体に小さい女性の頭をしたものが物言いたげに「ぴよぴよ」と鳴く。

「砂姫乃さん、準備は大丈夫?」

「うん。豊岡さんは?」

「僕は・・・ちょっと怖い・・・」

「実はあたしもだよ」

鳥カゴ男が振り返る。

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