第1話「犬も歩けば棒に当たる」 Aパート
夜の街。
傘を刺す人もごく少なく、秋の小雨がしめやかにぽつぽつと降り続いている。
ほんの30メートルばかり先の駅前通りにはこうしてまだ人も車も多い。
しかし、ちょっとした森林と池に囲まれたこの広めの公園に人影は無い。
全体的に陰気な雰囲気で、また、あいにくの秋雨で肌寒いせいだからでもあろうか。
そんなところどころ消えかかって明滅する蛍光灯のあかりに照らされた公園の中央広場、細く黒い鋼製ポールの5メートルほどの高さに備え付けられた愛想のない分厚く丸い屋外時計がまもなく夜8時を刻もうとしている。
雨のひと粒が文字板カバーに当たり、音も立てず滴り落ちる。
周囲にはピチョン、ピチョンと水溜まりからわずかな雨音。
と、その時、「キーン」というわずかな金属音が耳鳴りのように響き、次の瞬間、2人の少女がその塔の時計の真ん前にパッと一瞬にして現われた。
そのうち1人の少女(もしかして裸だった?)は瞬く間にフッと再び姿を消したが、もう1人の白地に紺ラインのセーラー服少女は垂直下のコンクリート床にぎこちなく着地した。
どこか妙に焦った様子が見て取れる、地面に足を着いた少女・
暗がりで判別しにくいが確かにあの林の境め辺りに人影が揺れ、姿をくらませた。
女性? 確かに女性だ。
ハッキリと判別しづらいがOL風な服装と束ねたロングヘアー。
砂姫乃は、そう、陸上部の短距離選手の女子中学生らしい素早い走りでその女性を追った。
身を隠していた女性はハッとするや追跡者から逃げ出す。
数十秒の追走。
追う砂姫乃。
盗撮しようとしていたデバガメを蹴散らし、イチャつくカップルを蹴散らし、逃亡者は走る走る!
あと10メーターほどに迫った時、逃げるOLの方角から何かがビシュッ!っと砂姫乃を目掛け狙って飛んできた。
1発! 2発! 3発!
4発目で発射された飛行体が鋭利に削られた鉛筆だと分かる。
鉛筆がまるで殺人棒手裏剣のように追ってくる者を突き刺し殺そうと飛んでくるのだ。
女子中学生は走りながらもそれらをかわす。
砂姫乃は、学生服の上下つなぎ目にチラリ見えた細い腰辺りから取り出した(どういうマジックだろうか?)7尺弱(2.1メートル)ほどの
直後、砂姫乃の棒術が敵を捕らえる攻撃範囲内にまで近付いた。
「うなる一閃、打撃羽根! たたく乙女の尿意棒!」
砂姫乃が頭上で振り回したロッドが大きく降り下ろされ敵の女性に痛烈な一撃を喰らわす!
ビシッ!
左肩を打たれ、続けざまに繰り出されたロッドが足元をすくい上げ、手裏剣OLはおもむろにひっくり返った。
草むらを転がった鉛筆の主はほどけた髪を振り乱し、しかし受け身を取りつつ砂姫乃に反撃を開始する。
「刺さる視線に頬染めし! 弾む胸からペンシルアロー!」
あぁ何と!
手裏剣OLは両の手に隠し持つ鋭利に削った木製鉛筆を自らの お、お、おっ、おっぱいに左右1本ずつ押し当てると、その弾みで矢のごとく砂姫乃に次から次へと集中砲火した!
お、おっ、おっぱいの弾力に弾みを付け発射された矢鉛筆!
だが反撃むなしくそれらは高速回転させた砂姫乃のロッドスクリューによってバラバラッと小雨に濡れた地ベタに散らばった。
同時に連続してロッドが発射待ちの鉛筆数本(4HとかHBとか)をはたき落とし、さらに左と右の腕に素早く小手を打つ!
思わぬ少女の鮮やかな棒術に戸惑いひるむ女性。
すぐさまロッドで手裏剣女をうつ伏せに捕り押さえ自由を奪う砂姫乃。
この勝負、棒使いの圧倒的な勝利で終わったようだ。
「お姉さん、肩の関節がはずれちゃうから、じっとしてて! ダメダメ! 動かないでよ!」
「痛たっ! はずれるとか怖いこと言わないで放しなさい! 小娘!」
ロッドと草むらに挟まれた鉛筆女が痛そうに叫ぶ。
「小娘じゃないよ、あたしは砂姫乃!」
「私は経理課、
「あのね、お姉さん、おっぱいで鉛筆を飛ばすなんていろんな意味で非常識だよ、危ないよ!」
「ふん! できないから悔しいの? ぺちゃぱい!」
「ぺ・ぺちゃ・・・ は、発育途中なだけだよ!」
「ふん、どうせおこちゃまスポーツブラなんでしょ?」
「くっ・・・」
図星かどうかは脱いでもらわないと視認しようがありません。
しかしさっきまでの身体を張った命のやり取りはどこへ行ったのか。
砂姫乃ももっと若さを武器にすればいいのに。
そこにエッチラオッチラ遅れて別の2人組がやって来た。
1人はサラリーマン風の運動不足な大人の男性、もう1人は砂姫乃と同じ年齢くらいで運動が苦手そうなスクールブレザーの女の子。
「砂姫乃ちゃ~ん、ごめんなさ~い」
メガネをかけた三つ編みブレザーの女の子が心配そうにそばに駆け寄る。
続けてひょろっとしたサラリーマン男が話し掛ける。
「砂姫乃さん大丈夫ですか?
砂姫乃が間髪を入れず言葉を遮る。
「豊岡さんこのおっぱいの人を封印してください!」
砂姫乃が生真面目そうな男性に向かって叫ぶ。
「??? おっぱ・・・いや、あ、分かった!」
男は肩から斜めに下げた大きなカバンからいそいそと何かを取り出した。
花瓶。高さ40センチ程度のどこにでもありそうな、ちょっと派手な瀬戸物の花瓶。
そしてそれを自分の前に、花瓶の口を手裏剣女に向けると咳払いをひとつする。
次の瞬間、その場でサラリーマンがクルクルと回り始めた。
花瓶を前に習えの姿勢で構え回転運動。
そんな奇妙な動きを待つ間、砂姫乃が力を込め犬井を押さえ直す。
そうして質問をひとつ。
「お姉さん、“パイオボイニャーの布”を渡してよ!」
「持ってないわ!」
「うそ! じゃ、どうして
「持ってないって言ってるでしょ! 知らないわ!」
「それじゃ、あとから教えてもらうよ!」
砂姫乃は豊岡さんというサラリーマンの方にちらっと目配せする。
よい歳をしたサラリーマン風の背広男が花瓶を手にまだまだクルクルクルクル回る。
「男、泪を花瓶に隠し、よろず吸い込む回転封印!」
豊岡が回転を終えフラフラしながらも踏ん張ると、花瓶から強烈な、だが細長い竜巻が起き、犬井と名乗る女性を覆い包み、掃除機よろしく吸い込み始めた!
そして砂姫乃に押さえ付けられている鉛筆手裏剣OLが悲鳴を上げる暇もなく、アレヨアレヨという内に花瓶の中にシュルシュルと吸い込まれてしまったではないか!
「あんたたち覚えてなさぃぃぃぃ・・・!」
悲鳴を上げる暇はあったようだ。
そして吸い込み終えると豊岡という40前の男は手慣れた手付きで花瓶の口にポンッとコルクでフタをする。
「よっしゃ! 封印、完了!」
花瓶からは物音ひとつ、しなくなった。
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