第二七話 強がる少年公爵
(ルオ視点)
「――っ、クソ!」
「ルオ様⁉」
俺はテーブルに強く頭を打ちつけると隣に立っているハミルトンが驚く。執務室で公爵家が抱える果樹園の経営計画書に目を通していたが先日レイラと同衾していたことを思い出してしまい、正気に戻るためにあらぬ行動に出てしまった。
「なんでもない、気にするな。とりあえず果樹園の経営者に伝えろ、目標を高くするのは良いが仕事量が増えるであろう従業員に対してのフォローが全くないとな」
「かしこまりました」
俺は経営計画書をテーブルに置き去りにして退室する。二時間後には領内の茶畑を視察しなければならない。基本的にやることしかないが、たまに妙な空き時間があると何をすればいいか分からなくなる。
気分転換に外の空気を吸いにエントランスに向かった。エントランスには、父親のジュードと騎士団長のバルザックがいた。
「父上、バルザック、ここで何を?」
「いやなに、世間話をしているだけだ」
父上は俺の疑問に答えた。
「そうですか、では」
手短にお暇を告げて外へ出ようとしたが。
「あのときの閣下の慌てっぷりは生まれて始めてみるかもしれませんな」
「それは興味深い」
俺の話か? ついつい、気になって、その場で立ち止まってしまった。
「レイラ夫人も大慌てでしたな、にしても閣下が人と一緒に同衾するとは思いませんでしたな」
「そのときの話をもっと聞かせたまえ」
待て待て待て。
俺は後ろ向きで父上の所へと戻り、振り返る。
「バルザック、そんなくだらない話をしている暇があるなら俺と手合わせでもしてもらおうか」
「閣下、殺気を抑えてくだされ」
俺は突き刺すような殺気をバルザックに放った。
「ときにルオよ。レイラはずっと館にいるが、不自由な思いはしていないかね」
「館と言っても、敷地がその辺の都市より広いですからね。訓練場にもよく顔を出していますし、ストレスは溜まっていないと思うが」
「とはいえ、たまには二人で出かけたほうがよい。明日は休息日だろう」
ふむ……俺の目から見てもレイラは館で羽を伸ばしているようにも見えるが、もしかしたら遠出したいと思っているかもしれない。俺は別にいいがレイラにその気があるなら誘ってみるか。
「では、ハミルトンに明日出かける旨をレイラに伝えるよう言うか」
「閣下、自分から誘った方がレイラが喜びますぞ」
バルザックが意気込んで言う。
面倒なこと言い出したぞ。別に俺からわざわざ言うようなことでもないだろう。
ためらっている俺を見兼ねたのかバルザックは父上に耳打ちをする。何を言ってるんだろうか。父上は妙にふむふむと頷いている。
「ルオよ。照れているのか」
「――――は?」
父上の一言で動揺してしまった。
「確かに許嫁とはいえ、意中の女性を誘うのが恥ずかしい気持ちは分かるが……」
俺は父上に向かって一歩踏み出す。
「ふふふ」
俺は肩を震わせて笑う。
「馬鹿な、父上は、俺がレイラをたかが外出に誘うのに臆しているとでも言うのですか。なら今すぐにレイラに明日出かけることを伝えてきますよ」
その足で俺はレイラの部屋へと向かった。……まんまと乗せられた気もしなくもない。
レイラの部屋のドアを叩く。するとドアが開かれ、アメリアが出迎えてくれた。
「レイラはいるか」
「はい、そちらに」
アメリアが差した手のひらの先には優雅に紅茶を飲むレイラがいた。
美しい茶器に高品質の紅茶をあでやかに飲む彼女は絵になる美しさだった。
しかし――
「渋みも苦みもなくまろやかで甘いにも関わらず、後味がしつこくありませんわ。このレイラの喉越しにぴったりですわ」
――評論家気取りでふざけた口調でふざけたことを抜かしていた。いや、口調そものには問題はないが、レイラは普段こんなにかしこまらない。
「頭大丈夫か? 喉越しにぴったりってなんだ。言ってること訳が分からんが」
「んっ!」
俺が突っ込みを入れるとレイラは喉が詰まりそうになって自分の胸部を叩いていた。それから深呼吸をして、口を開く。
「ルオ、いるなら言ってよ」
「それより今のは一体なんなんだ」
喋りながらレイラの近くに寄る。
「いつか私も人前に出るでしょ、そのときの練習してたの」
俺は哀れな目でレイラを見る。
「お前はもうレッド家の人間だ。わざわざ他の貴族の前で取り繕う必要ない、レッド家らしく取り繕わず他の貴族を恐怖に陥れろ」
「だからその思想怖いって」
「ありのままでいろって意味だ」
「ん、分かった。それより、また手合わせをしに呼びにきたの? いいよ、やろう」
戦闘狂か。俺も人の事は言えないが。
「レイラと試合をしたいのは山々だが、また今度だ」
「じゃあ、何しにきたの?」
「明日、出掛けるぞ」
「盗賊の隠れ家を見つけたから一緒に殲滅しにいこうってこと?」
何言ってんだこいつ。いや……これに関しては俺の日頃の行いが悪い、こういう印象を持たれてもしょうがない。
「その、なんだ、……普通に街に出かけてゆっくりするってことだ。まぁ、近くにアメリアや警護の騎士はいるだろうが」
俺としたことが思わず、言葉が詰まってしまった。
「ほんと?」
「本当だ」
「うん、行く!」
笑顔で答えてくれるレイラ。そんな様子を見て、俺は安心してしまった。
その後、予定通り茶畑を視察し、寝不足にならないように早めに就寝した。
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