第二一話 瞳の奥に宿る闇
(ルオ視点)
俺は館一階にある大広間で女性を集めた。全員、後ろに回させた手を縛って、膝をつかせた。身動きできず、俺の顔色も窺うことができない程、青ざめた顔で怯えている。
ちなみに、俺は縛った連中の眼前で重厚感のある椅子に座っている。
「レイラを呼べ。こいつらの処遇を決めてもらう」
右横に立っているハミルトンに指示を出すと、彼は背後にある扉から部屋を出る。
縛った連中の後方側にいるのは年端もいかない子供たちだ。そして、一番、前にいるのはとある娼館のオーナー。
――こいつらは全員、レイラに暴力を振るっていた人でなしだ。
「わ、わ、私達はこれからど、どうなって――」
「惨たらしく死ぬかもな」
「――――っ」
過呼吸気味の娼館のオーナーは俺の宣告で息を呑む。
「くっくっ……」
俺は怪しげに笑うと、女性達の顔色は青を通り越して白くなっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(レイラ視点)
自室にいるとハミルトンさんがやってきて、アメリアと一緒に一階にある大広間に向かうことになった。用件はなんですかと聞いても着いたら分かりますよと返されて、はぐらかされた。
でも、大広間に入ると、なんで呼ばれたかが分かった。
わざわざ扉の前に椅子を置いて座っている、王様気取りのルオの隣に立つ。ハミルトンさんとアメリアさんは私達の背後で立っていた。
「随分と苦労したぞ、逃げ回っているこいつらを捕まえるのは。王国の奴らが娼館街でガサ入れを始めた途端、逃亡者が続出したからな」
ルオは私と目を合わさず、目の前にいる女性達を睨み殺しそうな目つきで見ていた。
「なんでここにこの人達が……?」
私は恐る恐る尋ねた。
「言ってただろ、やり返すなら自分の手でやり返したいと」
確かに言ったけど、急すぎるし、こんなの戸惑うよ。
「あ、ああ! 気付かなかった、レイラじゃないか!」
娼館のオーナーが明らかに作った笑みで声を掛けてくる。
「私のこと覚えているでしょ、一緒に遊んでたもんね!」
「会いたかったよレイラ、飛び出したあとどこに行ったのか心配だったんだよ」
女の子たちが馴れ馴れしく話しかけてくる。
「雪の降る日、疫病が流行って両親を亡くしたお前を可哀想だと思って拾ってあげたの覚えてるだろ。あの時期の冬は寒かったよな」
オーナーは懐かしそうな顔をする――
――ああ……こいつら……浅ましい。助かりたい一心で私に縋ってきてる。
徐々に沸騰していく水のように怒りが湧いてくる。瞳の奥に闇が宿るのを感じる。
私はオーナーの前に立つ。そして髪の毛を引っ張って無理やり私と目を合わせる。
「ひっ……! レ、レイラ、可愛くなったな、そのお洋服似合って――」
「雪の降る日? 雨の日だよ。季節も秋だよ」
私はオーナーの言葉を遮る。
「い、いや」
「それに拾ってあげたってなに? 逃げる私を無理やり捕まえたよね? 死んだパパとママの遺体から無理やり離れさせたよね」
オーナーは困惑していた。尋常じゃない汗を掻いている。私を怖がっているわけじゃない、後ろにいるルオを気にしているからだ。
「ずっと後悔しているんだ。ちゃんと埋めたかったな……パパとママを」
「あ、足がああ!」
私は魔眼の力でオーナーの足を凍らせて、その氷を徐々に体を浸食させた。恐怖をゆっくり味あわせるために。
「知ってる? 私も最近知ったんだけど人間って寒さにさらされていると体が腫れて、水ぶくれがおきて、黒くなって使いもんにならなくなるんだって」
「い、嫌ああ……」
オーナーに纏わせた氷は腹部まで達していた。他の女性達は声にならない声を上げて怯えていた。
いつのまにか部屋全体に私の魔眼由来の冷気が行き渡って吹雪が吹いていた。他の女性達の体も徐々に凍っていく。
「一緒に遊んであげたってなに? もしかしてあなたの遊びって、いつも私にしてた……これのこと?」
私は女の子の頬をビンタする。
「ひ、ひぃ!」
恐怖に染まった色の目をしていた。
「や、やめっ――」
私は数回ビンタを繰り返すと女の子は目から涙を流していた。
それから私は心配してたとぬかしていた女の子に近づく。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
下半身が凍っていた彼女は不恰好ながらも頭を下げようとしていた。そんな彼女の口を片手で塞いで、触れた部位を凍らす。
「っ! っ!」
口が凍った彼女は大粒の涙を流していた。
私は溜息をついて身を翻し、ルオの下に戻る。
「短い期間で随分と魔眼をつかいこなせるようになったな」
なんでもないような態度でルオは足を組んで座っていた。吹雪に関しては無意識なので、肯定も否定もしなかった。
「殺すか?」
「殺さなくていい、でも地獄を見せたうえで解放して、顔も見たくないから」
「ふっ、いいだろ」
「お願いねっ」
鼻で笑うルオに対して私は笑顔を見せる。
こんな状況で笑うなんて私もどうかしているなー。すっかりルオの影響を受けちゃった……いや……元々私は狂気的だったのかもしれない。
「行くよ、アメリア」
「はい」
私はハミルトンさんにありがとうねと礼を言い、部屋を出る。
バタンっとドアが閉まる音が鳴ったあと私はアメリアに向かって話す。
「さっきの私怖かったかな?」
「は、はい。ルオ様みたいでした」
「私の侍女やめたくなっちゃった?」
アメリアは力強く首を横に振ってくれる。
「私も公爵家の一員です。レイラ様がどんな道を歩もうが着いて行きますよ」
彼女から強い覚悟と決心が伝わる。
「そう、ありがと」
私は自室に戻るために歩き出すと背後からアメリアが声をかけてくる。
「レイラ様、少し変わりました?」
「そうかもね」
ルオと接すれば接するほど、心の闇が表に出てきている気がする。でもそれは不思議と心地が良かった。彼といるときの自分が一番自分らしいと思ったからだ。
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