第八話 救出後②

 再び歩き出したルオに付いていきながら娼館の人たちを罰する方法を考えていると、何者かが連なっている建物の屋根の上を走っているのに気付く。


「やはりハミルトンか」


 屋根の上から、ルオの前まで降りてきたのはいつか見たおじいさんだった。ルオが呼び捨てにしているから使用人とかかな?


「騎士たちから状況は聞きました、此度はご苦労様です」


「うむ」


 おじいさんは膝をついて、ルオに頭を下げていた。改めてルオが偉い人だと思い知るし、なんで私自身、ルオと気軽に接しているのが不思議でたまらなかった。でもルオはルオだし、いきなり態度を変えるのも違和感があるからいつも通り、ルオと接しよう。


「ところでハミルトン」


 ルオは顎で私をさすと、ハミルトンさんは私の前に立って一礼をした。


「お久しぶりですお嬢さん」


「お、お久しぶりです」


 私もペコリと頭を下げた。


「そいつの身なりをどうにかしたい、頼めるか」


「分かりました、ではお嬢様またあとで」


 ルオが何かしらの指示をするとハミルトンは私に別れを告げて、屋根の上へと跳躍して姿を消す。


「わぁ、すごい。私もできるかな」


「ハミルトンは身体強化の魔法をつかっているからな。普通は重ね掛けできない魔法だが、ハミルトンは三重にも身体強化の魔法をかけれるからこそできる芸当だ」


「ルオもできるの?」


「俺は魔法を使わずとも素の身体能力でできる」


 に、人間じゃない……。レッド公爵家の人間は生まれつき人並外れた力を持つって聞いたことあるけど、そこまで凄いとは思わなかった。


 ――都市カラドロッグにある、宿屋の一室。


「手狭な部屋で済まないな。街の住民達から素性を隠して仕事をしたかったからな」


 ルオは着ているコートを脱いで、ポールハンガーに掛ける。コートの下には黒のベストに白シャツを着ていた。


 手狭な部屋と言っているが私はそう思えなかった。見たことないほど広い一室だ。さらに天井のシャンデリアによって、部屋に置かれている凝った意匠の家具が照らされてより見栄えが良くなっている。


 部屋の豪華さにしばらく呆気にとらていたが、気を取り直したあとも私は廊下と繋がる扉の前に立ったままだった。ここに来るまで私は街の人から好奇な視線を送られていた。きっと、みすぼらしい恰好をしていたからだ。酷い臭いもしていたと思うし、ルオに迷惑かけていないか心配だった。


「さっさと座ったらどうだ」


 ルオは一人掛けのソファーに座って足を組み、向かい側にあるソファーに座るよう促す。


「だって私汚いし」


「なに分かりきったこと言ってるんだ。レイラは汚いし臭いだろ」


 歯に衣着せないルオ。とりあえず、私を目を細めて無言の抗議をした。


 そのとき、背後のドアがコンコンと叩かれる。


「入れ」


 偉そうなルオの一言と共にドアが開く。私は慌てて後ろに下がる。


「ルオ様、希望のもの買ってきました」


「レイラに渡せ」


 やってきたハミルトンさんは私に木製のカゴを渡してくれた。


「なんですかこれ」


 私はカゴに入っているものについて説明を求めるとハミルトンさんは一つ一つ丁寧に説明してくれた。


 イノシシの毛で出来た歯ブラシ、香料と植物のエキスで出来た歯磨き粉、厳選されたオリーブで出来た石鹸とシャンプー、肌触りが良い絹製のタオルなどなど。


 ルオは私のためにバスケア用品を頼んでくれたんだ。


 頬を緩ませてルオの方を向く。目が合うとルオは視線を逸らして、浴室へと繋がるドアを指差す。


「さっさと入れ、お湯は浴槽の近くにある蛇口が付いている魔道具から生み出されるから使え。女物の服のことは分からないから近くに滞在しているレッド家のメイドに頼む」


「うん! ルオ! ありがと」


「あ、ああ」


 ルオは私の顔を見ながら頬を指で搔いていて、近くにいるハミルトンさんはほっほっほっと笑っていた。私はハミルトンさんにもお礼を言って浴室のドアに向かう。


 ルオに恥を掻かせないようにしっかり綺麗にしようっと。


 そのあと、私は浴室に入ってよれよれの服と下着を脱いで、体と髪を念入りに綺麗にしてからお湯に浸かった。

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