第五話 窮地と救出
(レイラ視点)
「うぅ、お腹空いたぁ」
私は袋小路の突き当りで膝を抱えて座っていた。
娼館に戻るわけにはいかない、どんな目に合うか想像がつく。それにルオから貸してもらった魔眼の力を四回も使ったせいか体が重い。
空腹と疲労感に耐えるためにじっとしていると向かい側から声が聞こえる。誰かがこっちにやって来てるみたいだった。
「どうすんだよこれから! 王国の騎士があちらこちらにいるぞ!」
「じゃあ戦えっていうのか⁉ レッド家の奴らもいるんだぞ! 逃げるしかないだろ」
「逃げるにしても資金を得る方法が欲しいな、ストロング様もストレス溜まってて手が付けられねえし」
声の種類からして三人の男がいることが分かった。
三人の男と目が会う。男達はボロボロの鎧を着ていた、そのうち一人は左目を覆い隠すように包帯をしていて、三者三様どこかしら怪我をしている。
「おい子供がいるぞ」
「あんな身なりでも売れるんじゃねぇのか」
「ストロング様のところに連れて行こうぜ」
心臓の鼓動が高まる。
額から汗が滴る。
逃げないと、逃げないと。
私は立ち上がる。
「おっと逃がさないぜ!」
一人の男が距離を詰めてくる、私は男を避けようとするけど簡単に腕を掴まれる。
燃えて! と念じて相手の腕に火を点けようとするけど火は点かない。魔力が足りないんだ。
「離し、んぐっ!」
抗議しようとすると、もう一人の男が後ろから麻縄を口に噛ませてきた。
「んー! んー!」
目尻に涙が溜まる。
怖い。娼館を飛び出すんじゃなかった。どんなに足掻いても三人の男から逃げれるわけがない。
「おら! こっちにこい」
包帯を巻いた男は私の髪の毛を引っ張って移動するよう促す。
せっかく、ルオが私をこの場所から救いだしてくれるかもしれないのに……こんな目にあうなんて。もうルオに会えないのかな。
「うっ……うっ……」
きつく目を閉じると、瞳から涙が溢れて止まらなくなっていた。
近くのボロ小屋に連れていかれると、木箱に座っているやつれた男性がいた。高級そうな白シャツと白ズボンを履いていることから身分が高い人だということが分かる。
「ど、どうなんだ! 抜け出せそうな道は見つかったか!」
白シャツの男は立ち上がって三人の男に尋ねるが、すぐに私に目を映す。
「ほぅ……なんだその子供は」
舌なめずりをしていて気持ちが悪かった。
「逃げるにしても金は必要でしょうが、そこでこいつですよ」
私は白シャツの男の前に放り出され、床に突っ伏す。
うっと呻いて顔を上げると、白シャツの男が片手で私の両頬を掴む。
「見るからにスラム街育ちの孤児だが、これは成長すれば男達が放っておかない美貌になるぞ」
この男の目つき、言葉、態度、ありとあらゆる要素が生理的に受けつけない。ほんと吐き気がする。
「その前に私が楽しみましょうか」
「ストロング様も物好きですね」
「値段が下がりますよ」
「買い取り先には黙っときましょう」
白シャツの男は私の服に手をかける。
嫌だ、嫌だ、嫌ァァァァァァァァァァァァァ――
ドンッ
――突然、大きな音が響く。すると、頭上には外と繋がっているドアが放物線を描いて通りすぎていた。
全員、音が鳴った方向を向く。
ドアがあった場所には――こめかみに青筋を立てて怒気を放ち、大きく開いている瞳孔の奥から殺意を感じさせる男――ルオがいた。
◇
(ルオ視点)
俺は娼館街の一画にあるボロ小屋のドアを蹴飛ばす。
レイラがこの近くで貸した魔眼の力を行使しようとしたのを感じ取った。魔力が足りず、発動しなかったことも分かった。つまり、差し迫った事態だということだ。
そして、俺の目に映ったのはストロング元男爵の部下三人と、レイラに襲いかかろうとしているストロング元男爵だ。
頭に血が上る。怒りの感情が猛炎の如く押し寄せてきた。
「んー‼」
猿轡をされているレイラが涙目で俺に何かを訴える。
神経が張り裂けそうだった。
「お、お前は!」
ストロング元男爵たちは青ざめた顔をする。
俺は戸惑う相手に構うことなく、小屋に足を踏み入れて近くにいる男の腹部を殴る。
「うえっ!」
腹部を覆っていた鎧を砕き直接、相手の腹部に拳が当たる。男は吐血し、お腹を押さえて倒れた。
「お、お前たち、早くそいつを殺せぇ!」
ストロング元男爵は腰を抜かして尻餅をついていた。口だけの奴だな。
「ストロング様ぁ、無茶言わんでくださいよ! こいつ馬鹿力で有名なレッド家のガキってこと知ってますよね!」
「それにこいつの魔眼――」
――俺は相手が喋り終わる前に、回し蹴りを顔面にくらわす。
相手は白目を向いて、仰向けに倒れた。
「ま、待てぇ! このガキを殺っ、うああああああああ!」
一人になったストロング元男爵の部下は床に横たわっているレイラに剣を向けたので魔眼の力で相手の両腕を燃やす。
男は猛火に耐えかね、絶叫しながらその場を走り回り、外へと飛び出した。ああなった人間が取る行動はだいたい決まっている、体の火を消すために水を求めるはずだ。
壁際まで退いたストロング元男爵を一瞥すると、ひぃ! と怯えた声を出す。
やつは後だ。
俺はレイラの猿轡を解いて、塞がれた口を自由にさせる。
「ふぅ、はぁ、はぁ……」
レイラは肩で息をしていた。
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