第5話:最後のシメはしっかりと

『ドゴォォォォン!!』

「え!?」


 マイクを付けた瞬間に響き渡った爆発音。

 私が用意した武器の中に爆発物はない。

 ということはまさかこんなにもすぐに決着が!?

 一体何が起きたんだ。


 そして、どちらが生き残っ……


 え、どっちも生き残ってる。


『え』

「あ」

「あ」


 ……爆発していたのは立花の首輪だ。


 ただし爆発させる前に鎧やバックラーのような小さめの防具を首に巻いておいた上で爆発させていた。結果、防具によって耐えられて無事に首輪を爆発に巻き込まれることなく外していた。


『……』

「……」

「……」


 状況を見るためにモニターを通して二人の様子をうかがう。

 立花は思いついたように、その場でポケットから紙を取り出し、ボールペンで紙に何かを書き始めた。


「ガリガリガリガリ!」

「ふ、藤井君どうしたの。まさか何かわかったの」


 いえ違います。多分それアンケート用紙(自前)だと思います。

 まーたこれ長いクレーム入れられるよコレ。うっかり爆発させたんだったら、ちゃんと死ねるような作りにしろととか絶対言われるよ、モー。


『ふっ、まさかそんな手を使うとはな……』

「これで賞金はもらえるんですよね!?」

『あ、あぁそうだな』


 えー生き残ったことじゃなくてお金のほうに注目するの?

 花巻さん、どんだけ金に執着してるんだよ。


 とはいえ、私の目的通り二人とも生き残れるルートを模索した結果がついてきたと思えば、これはこれでよかったと思おうか。

 ただ、企画提案時点とは展開が違うことについてはどう上層部に言い訳をしようか。


「よかったですね藤井君……」

「……」

「ど、どうしました?」


 え、なんで立花が悩んでるんだ?


「……待て」

「え」

「これは、罠だ」

「わっ、罠!?」


 罠なの!?


 いやいやいや、あとはもうその取れた首輪を扉に持ってきてくれればちゃんと鍵が開くから。別に勘ぐらなくていいよ。

 それと私が理不尽な罠とかを作らない主義だっていうのはデスゲームのヘビーユーザーのお前が一番知ってるだろ。


 ……デスゲームのヘビーユーザーってなんだよ!


「こんなに簡単にクリアできるはずがない……」

「た、たしかに」

『……』


 立花も花巻もゲームがイージーすぎて逆に疑ってる。

 すいません、もうマジでなんにもありません。あとはどうぞ煮るなり焼くなりすきにしてください。

 最後の部屋なのに一番簡単でどうもすいませんでした、ハイ。


「でも、これでクリアですから……」

「待て! まだ開けるな!」

「ど、どうしてですか」


「……ゲームマスターの言葉をひとつ忘れていた。ヤツは……「生き残るのはただ一人だけだ」と言っていたはずだ」

「う、嘘」


 ウソぉ……えぇ、私ぜったいそんなこと言ってないって。

 言ったら企画全体が壊れるから言うわけないし。

 勝手にゲームマスターよりもゲームマスターっぽい恐ろしいことを言わないでくれないかな。


「つまり、ここで殺し合うしか……」

「そ、そんな」


 ちょっと花巻さん! あのバカの言いなりにならないで!

 比較的バーサーカー思考なだけでクリアしてしまえば別に……


 ……ん、ちょっと待て……立花が今何かをしたぞ。

 改めてモニターをじっくりと見ると、立花がこちらのカメラに向かってウインクしているのがわかる。一体なんでウインクを……それとなんでいきなりこんな奇行に……


 ……はっ、わかった。


 アイツ、なんとか場を盛り上げようとしてやがる!!


『おいちょっ……ゴホンゴホン!! 貴様ら、一体なにをしようとしている!?』

「もちろん、生き残りを賭けたゲームを」

『私はそんなこと言ったのか? ふっふっふ、愚かだな貴様ら。賞金に目がくらんだというわけでもあるまい……』


 アブネー、立花は絶対に殺し合いをしようとしてた。

 デスゲームのゲームマスターなのに殺人を止めちゃったけど……


「ということは」

『げ、ゲームクリアだ、さぁ、部屋を出るがよい』

「えっ」

「えっ」


 えっ、じゃねーよ! はよ出てかんかい!


 こっちが恥ずかしいんじゃぁ!!


 _________


「……はぁーっ」


 部屋の扉が重々しく開く。そこから二人の生還者が姿を現した。

 暗い部屋に開けた扉から漏れる光が差す。まるでスポットライトのように、ゲームマスターである私のことを照らした。


「よくぞここまで来たな少年少女。最後の最後まで互いを信じて、裏切ることもなくたどり着いた者はこれが初めてだ」

「いやお前はじめt」

「ぅおっほん!! では報酬を渡すとしよう。もちろん二人とも提示額と同じだけ……あ、どうもすいませんお預かりします」


 真面目に語っている最中に立花からアンケート用紙をもらった。

 うっかり私は素に戻って受け取る。


「それで、貴様らはほかに何を求める。さらに金がほしいか、あるいは地位か殺しか?」

「……あのー」

「ほぉ、貴様、花巻と言ったか。貴様は何を求める」

「あの、これってデスゲームなんですよね?」

「……」


 えっ、そこから?

 そんなに死ぬギリギリ感味わえないほど今回のゲームが生ぬるかったの?


「吊り橋効果的なものを使ったバチェ〇ーとかあい〇りってわけでは」

「だとしたらもうちょっとマシなもの作るよ私」


 あ、いけね。普通のしゃべり方になっちゃった。


「……ん、ということはもしかして花巻さんは立花のことを……」

「え、立花? どちらですか」

「あ、えっとそれは」


「俺の偽名だ」

「え、藤井さんの偽名なんですか!?」


 話がややこしくなるから、お前は出てくんな。


「いやその、まさかこの男と結ばれたいってこと?」

「あ、それは……」

「え、マジ?」


 なんかラブコメ始まったんだけど。極限状態だとそういうことに繋がるとは聞くけど。

 だとしたら二人とも生還させるルートを優先的に取らせた私はけっこう名采配なのでは!?


「この人、年収がよかったのでいっそ玉の輿でもと」

「おい立花、この女連れてもっかいこのゲーム挑戦してこい」


 この野郎、私のトキメキを返せ。


「あぁ、花巻さんに伝えた年収も嘘だから。金ちらつかせたら来てくれるだろうと思って」

「お前もお前で最低だな」


 はよ死なねぇかなコイツ。なんでこんなカス野郎が何度も生き残っちゃうんだよ。別に立花に贔屓にしているわけじゃないのに、当たり前にクリアされるとそれはそれで癪なんだよな。


「それとゲームマスターさん、さっきこの人を立花さんと言いましたが、もしかして知り合い?」

「いや全然。ただ俺がゲーマーなだけだ」

「あ、一人称オレなんですね。本当に全部ウソだったんですね」


 ほらね花巻さん。玉の輿を狙うにしてもこんなクソ男を選ばないほうがいいから。さっきまでは、いい感じだったから応援しようとも思ったけれど、想像以上に立花の立ち回りがひっどいからもうどうでもいい。


「すまない。役にのめり込んでしまって」

「なるほど……」


 それで納得できる花巻さんも花巻さんでおかしい気もするけどさ。


「それよりもゲームマスター」

「どうしたんだよ次は。どうせクレームはもう紙に書いてるだろ」

「それとは別に言いたいことがある。なんで最後の首輪の爆発があんなに弱かったんだよ。何かで覆えば爆風が抑え込める程度ならやめたほうがいい」

「仕方ないだろ。あれ以上威力を強めたら、外す側にも被害が出るし」


 仮に殺し合いになったとしても、勝者にはそれ以上の傷を与えないようにしなくてはならない。これで勝った側が意気消沈のまま首輪を外して、うっかり爆発に飲まれて全員死亡なんてことになるのが一番つまらないのだから。


「爆発意外だとナイフを仕込むでもよかった気がするが」

「それも板一枚で解決されるだろ」

「じゃあ、もういっそ触れたら爆発するぐらいシビアな作りにするとか」

「そうするとお互いにビビって戦いどころの話じゃなくなる。だから最小限のパーツで作らないと」


 ……なぜか、立花と企画会議が始まった。


 なんでまたこんなことに……それに今回は立花を呼ぶつもりなんてなかったから余計に立花のクレームや意見に乗っかるための根気を用意していない。

 だが、たしかに初めての試みが多く、自分のミスが多かったのも事実だ。

 ここは歴戦の猛者である立花の話は聞いておいても損はないか。


 そんな中で、花巻さんが声を上げた。


「あ、あのっ!」

「え、あぁ、そうだった。ちょっと待っててくれ、今賞金を……」


「その、金属を溶かす薬品とかどうですか?」

「……」

「……」


 ……


 ……なるほどぉ〜。


「けど、一応私も薬品系は作れるけれど、毒性の調整が難しいからあんまり使えないんだよなぁ」

「その……私、もともと薬品工業に勤めていたので……いけますよ」

「……」


 ……こうして社会不適合系デスゲーム生還者『花巻』は新しい職を手に入れた。デスゲームのギミック担当である。

 彼女の作る薬品は強力なものから微弱なものまで幅広く扱えたため、ゲームマスターの新しいギミック開発の大きな転機となったのだった。


 ……マジでなんなんだコイツら。

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