第4話:二人一組系は両方生かす方向で
デスゲームにもさまざまな種類がある。
例えば某軟体動物のゲーム。
あれは大人数から数名を選ぶものであり、あっさりと脱落者が出るため、進行もある程度楽だ。
例えば某キングのゲーム。
学校を舞台に、クラスメイトが殺し合う。しかしクラスメイトということもあり、そこまで人数は多くなく、仲間意識が強いためけっこう生き残ることが前提になる。
例えば某嘘のゲーム。
選ばれた数名が知恵を絞り、生き残っていく。これは見ている側も考えさせられるため、複雑なシナリオが運営側にも求められる。
例えば某バスタブのある部屋に繋がれた男二人のゲーム。
あれはたった数人にフォーカスしているため、予算的にも時間的にも手頃なのだ。しかし、ゲーム作りがシンプルに難しい。
デスゲームなんて一括りに言ってしまうが、細分化したらさまざまだ。
もっとも、死をテーマにしなければさらに細かくなってくるものだと思ってくれて構わない。
ということで今回は意向を変えて、少人数にスポットを当てたゲームにしてみた。
わかりやすく言おう。
ようは『〇〇しないと出られない部屋』みたいなものだ。
さすがに性的なコンテンツとなるとデスゲームを専門とする私の領分から離れるため、そこはしっかりとデスゲームらしさは残してある。
参加者は男女2名のみ。
そして行うゲームも少なめ。
カジュアルにゲームに挑戦できるようにしてみたのが今回なのである。
これには理由がある。
あの謎のクレーマー『立花』だ。
アイツは事あるごとに私のゲームに参加しては意見を言って、あろうことか金も地位も何も貰わずに帰るのだ。
こちらも正直アイツの相手をするのは面倒になってきた。そこで、男女での参加という条件付きでゲームを考案したのだ。
これなら立花も参加はしないだろう。
何よりアイツは立場をわきまえるタイプだ。色々と立花のゲームを見てきたが、明らかに二人一組のようなチーム系のゲームは嫌がっていた。
さすがに無理やり一人で男女2人分になるなんて荒業までは使って……
『……』
「あ、あなたがゲームマスターですか」
『……あ、あぁそう……だ』
「おい、ふざけるな! この部屋から出せ! 花巻さんを巻き込むわけには行かないんだ!」
「だ、大丈夫よ藤井君」
「そんな、君を巻き込んだというのに……」
……立花、今日は藤井なのかぁ。
そんなわけで、私の願い虚しく立花はまたしても偽名を使って私のゲームに参加してきたのだった。
________
参加者は2名。藤井(立花)と花巻。
藤井(立花)は何度も顔を見ているから、何も思わないとして、花巻と呼んでいた彼女は一度も見たことはない。
ここまで来るのにかれこれ2つの部屋を無事に二人欠けること無く攻略している。
二人の連携はカメラを通じてよく見ていた。
その攻略スピードも尋常ではなく、まるで手に取るようにギミックを知っているかのようだった。
いや……うん。
立花がロケハンしてただけだと思うけどさ。
しかしゲームも最後の局面。二人で生き残るためには相当の決断力と頭の回転、さらにはコミュニケーションが必要になる。
『ふっふっふ、これが最後の部屋になる。貴様らの無駄なもがきはずっと見ていたぞ』
「もがきだとっ……ふざけるな! 生きるために真剣にやってることをもがきだと! こんな場所に閉じ込めやがって! ここから出たらタダじゃ」
「藤井君落ち着いてっ」
あー、なるほど。
なんとなくわかってきたぞ。
今回の立花は学生服だ。そしてこれは彼なりのファッションだと言っていた。
ということは、あれは『激情タイプの若者』を演じているんだな。あーはいはいよくいるよくいる。
『だが、この部屋はちゃんと仲良く脱出できるといいなぁ』
「何っ、なっ首輪が光りだした!?」
『そう、実はその首輪には特別な爆弾が仕掛けられていてな。外そうとしたらボーン、なんて仕様になっている』
驚愕の事実に藤井(立花)と花巻は首輪にビビってその場に立ち尽くす。
でもなぁ、立花がやってると変に演技臭く見えちゃうんだよなぁ、なんか。
「だが、この部屋の鍵はその首輪なのだよ」
「首輪が鍵?」
「そう、つまりどちらかの首輪を鍵にしなくてはならないということだ!」
「そっ、そんな!」
「さぁ、どうする!」
さぁここで出ました!
二人一組系のデスゲームあるある!
最後に相棒を殺さないといけないヤツ!
そして互いに身体能力は理解しているはず。1つ目と2つ目の部屋では二人で協力して危険な道を進むゲームだった。その際も、大きくジャンプをしたり、細い棒につかまったりとけっこうハードな運動をしてきていた。
二人は相手が何が得意かを知っている。
だからこそ、最後の殺し合いは面白くなる。
……はず。
ただアイツが絡むとなぁ……
「でも、今まで一緒に潜り抜けれたんです。二人で生き残ることができる術があるはず」
花巻が冷静に事態を分析する。
実は花巻の言葉は事実。
殺し合う必要などないのだ。
理由は簡単。首輪は鍵だといえど、センサーキーになっているだけだ。だから首輪を外さずに首本体を鍵穴に近づけるだけでいいのだが……
さて、これに気がつけるか否か。
『時間はくれてやる。その間に武器の物色でもしておくんだな。その間は首輪を外すなよ。その瞬間、二人ともボーンだからな』
「くっ」
これはいいセリフだ。
仲良くさせるため、そして殺し合うために互いの最後の会話を楽しませる目的と、結局のところはゲームマスターである私がいつでも爆弾を起動できることを示唆したセリフなのだ。
夜な夜な私のデス友(デスゲーム仲間)と考えた渾身のセリフだ。
「あ、あの」
「すまない……」
「い、いえ」
二人の短い会話を聞いておく。
どう転ぶのかもゲームマスターである私が見ておかないと。
「まさかこんなことに」
「あの、その、藤井さんはこのゲームのこと知ってたんですか?」
「……いや、知らない」
ウソつけ。
「僕もいきなりこんなイカれたゲームに花巻を巻き込むことになってしまうとは」
「本当ですよ。いきなり声をかけられたから……」
……ん?
あれ、二人とも知り合いとかじゃないの?
『えっ、ちょっ二人と……ぅおっほん! おい、貴様らはどうしてこのゲームに出たのだ。答えろ』
「僕が道で花巻さんを誘った。大金が手に入るって言って」
お前がキャッチしたのかよ!
って、いかんいかん。うっかり立花にキャラを作らずにツッコむところだった。
『ほぉ、花巻もどうしてこんなイカれた男のイカれた提案に乗ろうと』
「僕がイカれている、だと!?」
いや、まずお前はデスゲームでマルチ商法やろうとしてること事態がイカれてるし、こっちも頼んですらないからね?
あと、もう何度も言ってるけど、デスゲームのクレーマーってだけでも過去一でイカれたヤツだと思うよアンタ。
「それは私もお金がなくて。つい最近仕事をクビになり、元手がなくなったところにおいしい話が飛んできたので」
『もっと色々と考えたほうがいいぞ貴様』
花巻さん、大丈夫かな。
この人デスゲームで生き残る以前に、社会で生き残れるかが心配だな。
『お、そろそろ時間だ。せいぜい楽しむが良い』
私はマイクの音を消した。
改めて二人のいる部屋を見る。
閑散とした部屋の中央にはマチェーテやカトラスといったいくつかの武器、あるいはシールドなどの守る道具。
殺し合いにしても、緊迫した状況にするためにも、ピストルも用意していないし、ちゃんと守る道具も用意した。
そして、この道具で鍵を壊そうとしても爆弾はドカーンと爆発する仕組み。
抜かりはない。
だからこそ騙される。
騙されて殺し合ってくれるものだ。
「……本当に大丈夫かなぁ」
だだ、あの立花だからなぁ。
なにをするのかわかったものじゃない。
いつの間にか二人が画面から外れてしまった。うっかり、部屋の録音マイクを付け忘れていたな。確認のためにもマイクを……
『ドゴォォォン!!』
「え!?」
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