第2話:時間配分はけっこうシビア

「クレームがある」

「え、クレーム?」

「そうだ」

「……それはどういう」

「わからないか、お前のゲームにクレームがある」


 ……クレーム?


 いや、文句というならまだわかる。

 自分で言うのもなんだが命をもてあそぶゲームを作ったことに対して、ふざけるなといいたいのも想定が付くが。

 多分、この男が言いたいことはそういうことじゃない。


「クレーム……とは?」

「……まず第一に、お前のゲームが全般難しいんだよ!」

「いやそれは仕方ないだろ!」


 だって、ルールを簡単にしたらすぐに死んじゃうじゃん!!


「なんであんなに生存率上がるようなルールにしたんだよ!」

「お前、ガンガン殺す気だったの!?」

「じゃないと生き残れないじゃないか!」

「聞きたかったセリフだけどそうじゃないんだよなぁ……」


 えぇ、こいつこんなにバーサーカー思考だったの?


 かれこれけっこうカメラで見て来たけど全然そんなんじゃなかっただろ。


「あとは……」

「あー、待て待て待て待て。つまり……マジでクレームってこと?」

「そう言ってるだろ」

「まぁ、そうだけど……」


 この生存者の名前は『立花』という。

 高校の制服を着た青年といった見た目だが、どうしてこんなヤツが私にクレームを?

 あと、なんで生き残った挙句にやることはクレームなんだよ。

 もっと喜ぶとか悔しがるとかあるだろうに。


「それで、立花君は……」

「あとそれ偽名だから」

「偽名なの!?」


 最初に名前を聞いたけれど、なんで偽名で提出してるの!?


「それもクレームがある」

「えぇ……」

「第七の部屋で生存者の過去を探るゲームがあっただろ。そこで偽名を使った虚偽申請をしたんだぞ俺は」

「そうなの!?」

「でも何事もなく終わったじゃねーか。しかも、あんまり過去がカギになるようなギミックもなかったし。もっと参加者のバックを調べてからギミックに組み込め」

「いやぁ……そんなこと言われても……」


 だって、このゲームに呼んだのは全員適当に道を歩いていた人をさらっただけだし。一応、安全そうな人だけを選んだけれど……


「あとシンプルに部屋の数が多すぎる」

「えぇ、いやいやそれは違うだろ! だって十三はキリストでも大事な数字だからね!? それに合わせるように部屋のデザインも西洋風にしてあるし、そこは世界観合わせるってことで許してよ」

「違う、だとしても最初から49人は多いだろ」

「それは……その……『死』と『苦』で49……」

「そこも日本語から来ているし、世界観がぶれてるんだよ」

「……はい、すいません」


 それにはぐうの音も出ない。一応、さらうことができた人をいろいろと選別した結果残ったのがその人数なんだけれど、さすがに張り切り過ぎた。

 自分でも49は多すぎるとは途中で思っていた。


「いや多いのは問題ない」

「え?」

「問題なのは、それでルールが生温いことだ」

「……え? つまり」

「もっとすぱっと殺せるようにしろ」

「お前が言うの!?」


 鬼かよお前! 生還したといえ、お前もスパッと殺される側だからね!?


「それよりも……それを言うならお前にも文句がある……」

「何?」


「十三の部屋だっつってんのに、なに当たり前に十番目の部屋で全員殺しちゃうんだよ!」

「それは生き残るためだろ」

「もっと、こう……あるだろ、葛藤とかさ!」


 この立花とかいう男、十番目の部屋、通称『玉が一発だけ入った銃で誰かを殺したら出られる部屋』で、生き残った七人全員殺しちゃったんだよな。

 一人目はドンと一発。

 二人目はそいつから奪った銃で一発。

 残りは手持ちの銃という名の鈍器で撲殺。


「どうしてくれるの!? まだ部屋もあったし、なんなら一番気合い入れてたのそこから先の三つだったんだからな!?」


 そうして一人になってしまったから、ルール上クリアということで自分で残り三部屋のギミックを解除してスルーさせた。


「なるほど、だから真っ直ぐ進めと」

「そう、ネタバレけっこうあったから」

「どおりでずいぶんと指示が多いと……」


 それでもバレたギミックはけっこうあった。

 その道中で「あ、このチェーンソーのヤツは一番勇気の無かったヤツを殺すタイプだろ」と立花に聞かれたときは、何も答えなかったし、若干泣いていた。


「というか怖いよお前。あそこで全員殺す選択下せるのマジでやばいって」

「人の極限状態というのは、時に理解できないことをする。よくあるだろ」

「その割にお前は全然、極限状態でも何でもなかったじゃねーか!」


 むしろあのときのお前、全員殺れるラッキーみたいな感じだっただろ。


「だから長いんだって。変に全員生き残ったり、単純に疲れるギミックが多かったり。だから早く終わりたかっただけだ」

「結局そこかよ。え、じゃあ短めだったら全員殺さなかったの?」

「……」

「なんか言えや!」


 やっぱりお前がナチュラルバーサーカーなだけじゃねーか!


「それと、十三の部屋に合わせて十三日も使うのはやめろ。確かに最後の三つの部屋のクオリティはよかったが、そこまでに正気を保ったまま行けるような時間配分でもない」

「う、確かに」

「あとトイレも常設してくれ」

「あ、それは厳しいです」

「……そうか」


 トイレに籠もられたりするのは少しゲーム性に欠ける。

 カギを掛けなかったらいいと言っても、油断が生まれるし、袋のネズミ状態になるから結局誰も使わないのは目に見えていた。

 だから衛生上よくないにしろ、清掃をしっかりしたうえでたれ流しにしたのだ。


 うーん、確かにそれは立花の言う通り、あまり好評ではなかったな。

 次回作はちゃんと衛生面も配慮した作りにするか。


「それと食事はもっと凝ったのにしなかったのか?」

「え、でもけっこう頑張ったほうだよアレ。洋食から和食、今どきに合わせて野菜オンリーとか」

「お前は知らなかったと思うが、かなり評判良かったぞ。なんなら、参加していた太った男も飯のために生き残りたいって言ってたし」

「え、マジ?」


 頑張った甲斐があった。ゲームで死なずに、栄養失調で本調子が出せずに死ぬのは嫌だから、いろいろと栄養バランスを考えたメニューにしてよかった。

 それでいてそのために頑張ってくれたヤツがいるなんて、願ってもない嬉しい話だ。

 けど、喜ぶところそこじゃないんだよな。


「でもあれ以上に凝るって無理だろ」

「いや、それこそ最初の部屋でミキサーにかけられた人肉を使ったハンバーグとか、もっとデスゲームらしいメニューでもよかっただろ」

「あー確かに」


 でもなんかコラボカフェみたいだな、それ。

 だって料理名に『○○さんの人肉ハンバーグ』って付くんでしょ?


「それは……いや……ありといえばありだけど、醍醐味がなくなるんだよなぁ」

「醍醐味?」

「水っぽさをなくすために人肉でも血を抜かないといかないし、第一に雑食の生き物の肉質がおいしくないから」

「なるほど……」

「あと、仮においしさを考慮しないとしても、参加者の目の前でミキサーをかけることができないし、あと骨ごといっちゃうからゴリゴリしちゃうよ?」

「うーん、できればミキサーは見たいな」

「でしょ!? やっぱり目の前でやられるところは見せたいよね!?」


 ……なんか普通に企画会議始まってる。

 でもやるとしても次回作だからな!?

 一回限りのゲームなんだからアップデートもないからね!


「……一応、生還者ってことでお金もらえるけど……なんかこんなヤツにあげるのもちょっとなぁ……あんまり興が乗らないというか……」

「別にこの金は全部お前に渡す」

「え?」


「よかったゲームにはそれ相応のお金を出さないとな。スマホゲームで無課金なのにグチグチ文句を言ってる奴と同じにするな」

「あんたは一体何がしたかったんだよ」


 しかもマジで何も持たずに普通に部屋から出て行ったし。

 この金は警察とか外部への口封じのためにも、ちゃんと持っていってほしかったんだけどなぁ……

 けど、あの様子だと通報もしないよな……


「……マジでなんだったんだ」


 あの『立花』とかいう男。

 今まで主催してきたデスゲームでも一番おかしなヤツだったな。

 まだ前々回参加していた、頭がおかしくなって仲間を殺していたヤツのほうが大分マシだったなぁ。


「……ん?」


 部屋のポストに何かが入ってる。

 さっきまでなかったのに一体誰が……


・よかったところ:参加者との交流がしっかりとしていたから、ある程度の連帯感を生んでいた。そのうえで上から踏みにじって来る運営方針もブレがなくてよかった。

・悪かったところ:もっと難易度を下げてほしい。ルールがわからないまま死んでいった人もいたから、全体が数回のゲームかあるいは話し合いで全貌を把握できるものがうれしい。

・ほかの見どころポイント:二番目の部屋の……


「……」


 ……あ、アンケート用紙?


「マジでなんなんだアイツ」


 しかもめちゃくちゃ細かく書いているし。文句を垂れていたわりにはしっかりと見ているなオイ。

 それと十三の部屋全部についての批評もちゃんと書いている。


 ……あれ、意外と自分でもよくできていたと思ってた七番目の部屋は微妙だったのか。でも締め切りギリギリで作った五番目のところは微妙かと思いきや、評価はまずまずなんだな……


 ……


「……頑張るか」


 こうして、このアンケート用紙と直談判のアドバイスをもとに試行錯誤を繰り返した結果、老若男女問わずに参加ができる皆が『平等な』デスゲームになった。

 これは上層部からも好評で、デス友(デスゲーム仲間)からも評価が高かった。


 ……しかし。


「ふふふ、ようこそ我がゲームに」

「えっ、あなた何者!?」

「ははは、私はこのゲームのマスターだ……」

「うそっ、私たち、何をさせられるの!?」

「それは、見てのお楽しみだ……え?」

「どうしたの!? 何かあるの!?」


「いや、立花が……」

「え、この人はでしょ?」

「……あぁ、そうかすまないねぇ、今から死にゆく奴らの名前など憶えていないのだ私は、はっはっは」

「そんな……ひどい!」


 定期的に立花が私のゲームに参加してきたのだった。

 本当になんなんだアイツは。

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