デスゲームなのにつまらないのはおかしい!

琴吹風遠-ことぶきかざね

第1話:生き残る理由は決めておけ

 男は最後の扉に手をかける。


 ここまで来るのに何人の命が散ってきたのか。

 もう数えることもやめてしまった。


 巨大な鉄の扉が音を立てて大きく開く。

 その中は何十枚のモニターに埋め尽くされた広い部屋だった。さらには、地面にはゴミも同然に捨てられた刃物や毒物の数々。

 だが、男はそのゴミをここまで来る道中どこかで見たことがあった。


「やぁ」

「……」

「ずっと見ていたよ」

「お前が、このゲームの」

「そうだ、私がゲームマスターだ」


 モニターに囲まれた空間の中央には椅子が置かれている。

 その椅子は扉が開いたことに反応して、くるりと一回転して男の方向を向いた。


 そこに座っていた男、いや女のどちらだろうか。


 ヤツが、ヤツこそがこのデスゲームのマスターだ。

 常に男はカメラで監視され、すべての行動や会話を見られていた。そして、何かが起きるたびに、コイツからゲームのルールやヒントを与えられて男はここまでたどり着いたのだ。

 すべてはゲームマスターの手のひらの上だった。


 そしてそのマスターすらも目の前にいるというのに何者かがわからない。

 不気味な仮面をかぶり、表情一つ見せてこないのだから。


「ふっ、まさかここまでやってくるとはね。驚いたよ。それで青年、貴様が着ている制服と同じ少女が一人いたと思うが、彼女が目の前で殺されたときはどう思った」

「……」

「はは、どうしても表情を変えないのだな。あるいはここまでの十三の部屋のどこかに置いてきたのか……」

「……」

「どうした、何かいいたいことがあるのだろう。もしや、私が約束を守らないとでも思ったのか?」


 パチンとゲームマスターは指を鳴らした。

 すると天井からばらばらと紙の降り注ぐ。暗い部屋に札束の雨が降る。


「どうだ、これが欲しかったのだろう。どうだ、これが貴様の命の値段だ」

「……」

「ふっ、ははははっ! どうした、その目は、その顔は」


 男は何も言わずにゲームマスターの仮面を一心に見ている。

 誰がどう見てもわかる。恨みを纏った殺意に等しい眼光だ。


「私が憎いか! 私を殺したいか!? だが、私を殺したところで何もならないぞ。命はただひとつ、ゲームもたった一回きり、そのルールをよくわかっていたのは貴様だろう!? 私を殺したところでコンティニューができるわけがないのだからなぁ!」

「……」


 あからさまに挑発をしている。

 しかし、男はその言葉に一切揺れることはない。


「……はぁ、つまらん。貴様は本当につまらない。ゲームの時もそうだ。貴様ほどつまらない男はみたことがなかった。もっともほかの連中は感情的に、散りゆく命を前に正気を保てていなかったようだがな。あれは面白かったぞ」

「……」

「それともなんだ。私に何かいいたいことがあるというのか?」

「……ある」

「ほぉ、金でも仲間の命でも、私の命でもない……か。それは面白い!」


 仮面越しにゲームマスターはケラケラと笑った。


「いいだろう、貴様は何を望む! 貴様は一体なにを求める!」

「……俺はお前に」

「ほう!」


「クレームがある」

「……」


 ……


「……え、クレーム?」

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