第4話「ヴァン・ヘイレンとライダーキック④」

 京都府立紅葉館伏見高等学校は部活動に力を入れており、運動系は水球、弓道。文化系は吹奏楽、美術、書道が有名だ。インターハイなどの目立つ大会が無いが軽音楽部は人気がある。一番人気は吹奏楽部の89人だが、軽音楽部は56名で人数だけで言えば2番目に多い部活だ。しかし大人数で活動する吹奏楽部と違って少人数のバンド形式になる軽音楽部は指示系統が弱い。自由な反面まとまりが無いのが弱点だ。体制は、部長、副部長の下にマネージャーと呼ばれる人間が四人いて、その四人の下に各バンドが入る。部長、副部長、マネージャー、会計と書記の合わせて八人がいわゆる幹部という形だ。さまざまなコンクールや他の学校とのイベント、外部参加のライブに出るバンドは、各マネージャーからの見解や報告に基づいて幹部会と言われる会議で決められる。


「昨日の幹部会議で決まった9月4週に行われる学園祭ライブに付いて発表したい思う」

 その日の放課後、部室棟にある軽音楽部の部室で部長の長谷川はせがわ斗夢とむは教卓に立って部員たちに告げる。

「今回の学祭ライブは2日目の午後、15時から18時までの時間に体育館にて行われる事になりました」

 書記の山口悟史が部長の言う事をわかりやすいように板書していく。

「1日目は午前にコーラス部、午後イチで吹部やさかいその次やね。吹部の撤収に合わしてセッティングになります。それから今回時間が3時間やけど、一年増えた関係もあるさかい各バンド四人以上の編成にしてもらう形になったんで、ソロの弾き語りとか三人以下のバンドは追加で入れるかして四人以上にして。なるたけ部員全員に出てもらえるようにそう決めたんでお願いします」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 たまきは思わず立ち上がったが、部長の長谷川はそのまま続ける。

「それと、今回学祭のスローガンが『ことばと心を伝えよう』になったんで、各バンドともヴォーカル必須でお願いします」

「部長!」

「なんですか四方田よもださん」

 長谷川は表情を変えずに環に向かって声を掛ける。

「それ、私のせいですか……?」

 隣に座っている優里ゆうりが環の手を握る。微かに震えている環に思わず「たまちゃん……」と声が漏れる。

「お披露目ライブの件は確かに話には上がった。そやけど今回は単純に時間と人数の問題やねん。四方田も副部長の平井も謹慎三日でケリは付いたって事で済ましてる。時間的に出られないヤツを少なくする為に決めたんよ。四方田と大西んトコも出さんゆう訳やない。そう思うんやったらソロでやってるヤツメンバーに入れたってくれ。このままやと出れんひんヤツ出てまうんや」

 部長である長谷川は温厚な性格で面倒見が良く、慕っている部員も多い。その長谷川もお披露目ライブでの事件は頭を抱える程だった。

「四方田さあ、幹部が遅うまで残ってまとめたんやわ。顧問にも確認しとる。そうやって決めたのんが気に入らへんってのか? そないに弾きたかったら一人で路上でもどこでも行って弾いてこいや」

 前方に座っていた平井が環の方を向いて叫ぶ。

「やっぱしあんたか!?」

 新入生お披露目ライブの時、演奏中に文句を言ってきたのは平井の方だ。無視して演奏を続けたのにやめなかった平井にキレてライブを台無しにしたのは確かに環だ。でもそれは私だけが悪いのか? 副部長だからと自分がしたことを棚に上げるような態度に納得がいかずに環は叫んだ。平井も同じように立ち上がると続ける。

「お前の自己満演奏なんか誰も聞きたないんじゃ」

「なんやと」

 カーッとなった環が平井の方へ向かおうとするが、優里が後ろからしがみついて制止する。部員たちはざわつき、「おいおいおい」「しょうがないだろ」「やめろや」と声が上がるが環は治らない。仕方なく部長の長谷川が教卓をバンと叩き、「静かにせい」と声を荒げる。

「平井も副部長なんやさかいええ加減にせえ! 四方田もメンバー増やせばええ話やろ。今日話した事は決定事項やさかい。あとで書紀の山口からグループチャットで詳細送るからみんなちゃんと確認するように。今日はここまで、解散して」

 Aグループのマネージャー、村上かすみが「かいさーん」と大きく声を上げる。部室内がざわつく中、環は腰に抱きついている優里に「ごめんユーリ、もう大丈夫」と告げると力無く席に腰を下ろした。

「ああ、あと、とりあえず出たいバンドは7月の選抜会の前にエントリーしてな」

 かすみが部室を出ようとする部員達に向かってそう告げる。

「たまちゃん……」

 心配そうに優里が声を掛ける。

「ユーリ、絶対出ような」

 環がそう言うと、優里は黙って頷いた。

 と、その時、2人のスマホに振動が響く。軽音楽部のグループチャットで学園祭ライブの詳細が届いたようだ。優里はスマホを開いて届いたメッセージを読み上げる。

「えーと、日にちが9月28日の日曜日、時間が15時から18時完全終了。バンド構成はヴォーカルを入れた四人以上の編成。曲目自由。演奏時間12分で2〜3曲。転換5分。オープニングMCは最初のバンドに組み込み、クローズのMCもラストMCに組み込みで最大出場枠が11組。軽音楽部のメンバー固まってる正式なバンドが今9組。って残り2組しか出れへんやん」

「残ってるんは?」

「ヴォーカル以外全部募集が六人と幽霊部員が三人」

「ユーリ」

「たまちゃん」

 二人は顔を見合わせると、「無理やん……」と言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る