第8話 現役勇者、絶望する
「さすがにそんな甘くねぇか……」
俺の靴に仕込んであった魔法針の不意打ちを回避し、距離をとったルークがぶつくさなにかをつぶやいている。
「ケガさせちゃあ奴隷としての使い勝手が悪くなっちまうからな。さっきの攻撃で仕留めたかったが、仕方ねぇ」
そう言って、ルークは自身の腰の後ろに手を回す。なにかを取り出す所作だ。
今度はなんだ。また得体の知れない魔道具か?
「……『銃』って知ってる?おっさん」
「!!」
ルークがゆっくりとした動作で装備した『銃』を構え、照準を俺の胸元付近に合わせている。
不吉な輝きを放つ漆黒のメタルで作られたその物体。
俺自身、現実で『銃』を使用したことはなかったが、転生前にハマっていたバトルロワイヤル形式のオンラインゲームでその形状や性能なんかは経験していた。
「ああ。おっさんは転生者だから当然知ってるか」
なるほど。それもお見通しか。
俺が転生者ってのは結構限られた人しか知らないはずなんだけどな。それも当たり前のように調査済みってことね。
「あっちの世界の技術ってすげぇよな。この引き金ってヤツにちょっと力を入れただけで……」
「!!」
どん、と破裂するような激しい音と同時に放たれる凶弾。考える間もなく、俺の胸に風穴を開け、派手な血飛沫とともに膝をつき、地面へ突っ伏す。
と、ルークはちょっと先の未来を想像していただろう。
だが、そうはならない。
「……あれ?」
「話の途中で撃つなよ。あぶないだろうが」
銃弾は、観客席を守るために張ってある結界の天井付近に突き刺さっていた。
角度的に、だいたい俺の後方斜め上辺りに飛んでいる。
銃弾が突き刺さった箇所は結界を侵食し、さっき俺の防御魔法を剥がしたようにドロドロと溶け始めていた。
やっぱりその銃も銃弾も魔改造してやがったな。
「……てめぇ。なにしやがった」
さすがに今回は決着をつけられると思ったのか。ルークが少し焦っているのがわかる。
「別に。抑えられている魔力リソースを銃弾の進行方向に集中して、直撃を避けただけだ」
簡単に言ってやったが、この芸当。大変危険が伴うあまりお勧めできないやり方だ。なんせ集中した箇所以外はノーガードになるからだ。
魔力の制限を受けていない防御魔法なら、普通に張っていれば銃弾ぐらいどうということはない。簡単に守れる。だが今はルナの地縛装置によって相当量の魔力が抑え込まれている状況。
多少リスクをとらなければ防げないと思った俺は、ルークの目線や銃口の向きから攻撃範囲を予測。銃弾が放たれた瞬間に防御魔法を狙われた箇所に一点集中し、攻撃を後ろへ流した。
ただの銃弾ではないと思っていたので、やっぱりはじいて正解だった。ああいうのはまともに正面で受け止めてはいけない。
「おおっとなんとぉ!ゼタがリシェル戦と同じようにまた攻撃を弾き飛ばしたぞぉ!」
「彼の防御・回避テクニックは本当に凄いですね。逃げるのが得意なんでしょうか」
「たまにはダメージを受けてボロボロになった姿も見てみたいものですね!」
……あいつらにも呪印押してやろうか。マジで。
「さて、ルーク・アイズ。そろそろ俺も反撃していいかな?」
再び、今度は両手に銃を装備し銃口を向けるルークに対し、不敵な笑みで見つめ返す俺。
ただ、目は笑っていない。
もう遊びは終わりでいいだろう。そろそろわからせてやる時が来たようだ。
俺は笑顔に乗せてはっきりと威圧感を同時に示していた。
「う、うわぁぁぁぁ」
さっきので実力差を察してしまったようだ。ルークは慌てふためき、狙いも定めずただやみくもに両手持ちした銃を乱射してきた。
「きゃああ!!」
「ちょっとルーク!そんな適当に攻撃しないでよ!!」
「いやぁ!!結界、溶けてるよぉ!!」
観客席から悲鳴が上がる。
俺は当然、銃弾をすべて弾き飛ばしていた。跳弾と狙いの定まらない散弾は結界のあらゆるところに当たり、そして着弾部はいずれも融解を起こしている。
このままだと穴の開いた結界部分に銃弾が飛び、いずれ観客のだれかに当たるだろう。
まぁむかつく女どもではあったが、当たって怪我したり死んだりされても寝覚めが悪いので、とっとと終わらせようと思う。
「はあああああ!!」
別に声を上げる必要もないのだけど、ちょっと気合を入れるために発声した。
……俺の悪い癖だ。スマートに対処しようとしすぎていた。
駄目だね。若いころの格好つける習性が抜けていない。もういい年なんだから、なりふり構わなくていいだろ。
ここは、力業だ。
「うおおおおりゃああああ!!!」
銃口がこっちに向いていない一瞬を確認し、俺は使える魔力のすべてを拳に乗せた一撃を自分の足元、バトルフィールドの石畳にくれてやった!
「!!!」
強烈な破壊音と共に、至る所にひびが入り始めるバトルフィールド。
パキパキと音を立て始め、そしてある程度頑丈に作られていたであろう石畳の地面は不規則に粉砕されていった。
なにが起こったかわからないルーク。当然態勢は崩れ、銃撃が止む。
「めんどくさいから全部壊したわ。おかげで魔力、戻ったみたいだ」
さっきまでの違和感が消えている。どうやって仕掛けられていたかはもうどうでもいい。とにかく、地縛装置は破壊した。
「さて、と」
瓦礫の山を越え、ルークへ向けてゆっくりとした足取りで歩みを進める俺。
万全の状態。もう、ヤツは俺の敵ではない。
「ああ……」
地面にしゃがみこむ現役勇者ルーク。いや、なかなかいい準備してたよ。キミ。
でもひとつ大きな勘違いをしている。
勝負ってのは、始まる前の準備で勝敗が決するのではない。
「ルーク・アイズ。お前が冒頭言っていたセリフをそのまま返してやる」
「あ……」
歩みを止める俺。目の前にはすでに抜け殻のような勇者の姿があった。
懇願の眼差しで見上げるルークに、俺は決着の意味も込めて最後にこう言い放ってやった。
「勝負の結果ってのはな!生まれる前からすでに決まってんだよ!」
ふっ。俺、かっけー。
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