2回戦 VS 現役勇者 ルーク・アイズ

第6話 現役勇者、黄色い声援が飛ぶ

「きゃあああ!ルーク様ぁ、今日も素敵ですわぁ!」


「相手おじさんなんでしょ?ルーク、楽勝じゃない?」


「なんでも元勇者らしいわよ、あのおっさん。あんなに弱そうなのに」


 観客席から黄色い声援と甲高い罵声が飛ぶ。


 異世界デスマッチ『バトルヘブン』2回戦。戦いの会場は前回と同じ王都ベルハイム特設闘技場。その中央ですでに戦いの準備を終えた俺、ゼタ・アライアントと現役の勇者らしいルーク・アイズが相まみえている。


 ……今日の対戦相手はひと際やりにくい。いや、ルークがリシェルをパーティから追放した張本人で、彼女の復讐を果たさないといけないから、というのが理由ではない。


 戦いにくさの理由。それは……。


「いやぁ、本日のメインバトルは観客が女性ばかりですなぁ」


 前戦同様、解説席にはヤス・マッキン太郎が座っているようで、会場のメインモニターに映し出された彼が今日の会場の様子を語っている。


「そりゃそうですよ!なんせルークはルックスも最強がウリの勇者で、しかも今日の『主役』でもありますからねっ!」


 実況もまたボジョレーヌ・ハビラが務めている。


 そうなんだ。ルークは今をときめく現役バリバリの勇者。しかも超がつくほどのイケメンで女性ファンがここ数か月で激増しているらしい。


 当然観客は女性ばかりで、お目当てはルークただひとり。


 しかも先日の戦いで『悪役貴族』などという汚名を着せられた俺なので、この2回戦は、まさに主人公が悪役貴族を打ちのめすという構図になっていて、普通ならどうあがいても回避できない、破滅の展開になっていたのだ。


 俺が勝っても炎上必死。正直戦う前からかなり萎えている。


「はぁ。めんどくさ」


 思わずため息が漏れる。やる気なし。とっとと終わらせて家でゆっくりしたい。


「おいおっさん。今この超絶イケメン最強勇者、ルーク・アイズ様をチラ見してため息ついただろ」


 バレた。めんどくせ。


「いや、緊張しててね。つい……」


 適当な返事をする俺。


「ああ、それならしょうがねぇな。あんたみてぇな萎びたおっさんがこの俺様と戦えること自体名誉なことなんだからよ」


 イキる現役勇者様。


 ……なんだコイツ。めちゃくちゃ腹立つ奴だな。


 リシェルの言っていたとおりだ。いい男かもしれないが、性格がクソすぎる。


 ああそれと。昨日リシェルから教えてもらって初めて知ったのだが、1回戦を勝つと2回戦からは希望すれば送迎サービスがつくそうで、先に頼んでおけば次の対戦に間に合うよう時間になったら迎えがくる特典があったそうで。


 当然その方が楽なので、昨晩の内にリシェルにオンライン予約してもらい、迎えの『車』で今日は王都の特設闘技場まで来ている。


 そう。『車』でね……。


 そして何故か運転手はフラムだったので、リシェルの時と同じようにある程度敵の概要を教えてもらっていた。


「爽やか系自意識過剰男子。若い女性に大人気。SSS級冒険者パーティのリーダーで最強の仲間たちと旅を続けているようですが、勇者自体が活躍した姿を見た者はなく、真の実力は不明。異世界各地を巡り様々な依頼をこなして街や村を助けているので権力者に好かれていて、いつしか周りが勝手に『勇者』と称えるようになったそうです」


 ちなみにリシェルには屋敷の片づけと洗濯、夕食の準備をお願いしていたのでついてきていない。スマホでリアルタイム視聴するそうなので問題ないとのことだ。


 ……ほんとにここ、異世界なのか?ちょっと疑問に思ってしまう。


「そういえばおっさんさ。リシェルと夜のバトルヘブンはもう楽しんだのかい?」


 顔はいいくせに笑い方は下品な勇者ルークが、この俺にとても下世話なことを聞いてくる。


「さあな」


「あのバカ女、顔と身体だけは一級品だろ?まあ俺はタイプじゃないけどな」


「おまえ、フラれたんだろ?」


「なっ!んなワケねぇだろ!タイプじゃねぇんだよっ!」


 冗談のつもりだったんだけど、どうやら本当っぽい。


 こんな些細な挑発で激高するとか。底が知れるだろ。


 ちなみに夜のバトルヘブンはありませんでした。いやマジで。


 ちょっとおじさんらしい、のっぴきならない個人的事情がありまして……。


 まぁその件は置いておいて。そもそもコイツ自身の活躍を誰も見たことないっていうのは、おそらく今の勇者は弱いからだろう。仲間たちに戦わせて手柄だけパーティとしてもらう。リーダーは自ずと崇拝され、勇者と言われる。と、こんなところか。


 権力者に取り入るのはうまいのかもしれない。いわゆる政治家勇者だな。


「さあ!いよいよバトル開始の時間が迫って参りました!両者、準備は整ったかい?」


 大型モニターに映る実況のボジョレーヌが待ちきれない様子で俺たちに問いかける。


 俺はいつでもいいのだが、ルークは何故かてのひらを大型モニターにかざし、「待て」の合図を送っている。


「まぁ焦んなよ、ボジョレーヌ。知ってるだろ?俺は争いごとが嫌いなんだ」


 おいおい何言ってるんだコイツ。ならこんな大会出てんじゃないよ。


 いや、そうか。たぶん実力のない勇者、ルーク・アイズ。この男が勝つための戦略。それはおそらく……。


「なぁおっさん。悪いことは言わねぇ。大人しく呪印押させてもらえるとありがたいんだが」


「大人しく押させるつもりはないんだが」


「実はな、俺のパーティにラグナっていう他人の屋敷を吹っ飛ばすことを趣味にしてる化物みたいな大賢者がいてね。“ルークが負けたらソイツの家をケシズミにしてやるよ!”ってここに来る前息まいててな。あ、もちろん俺はそんなこと望んでないんだぜ?」


 さっきより余計にニヤついている。感情を抑えることが苦手なクソ勇者。


 予想通りだな。こいつはこうやってのし上がってきたのだろう。


 まったく。そんな脅し、このゼタ・アライアント様に効くわけが……


「ああそれと。俺はおっさんが昔一緒に魔王を倒したお仲間の女性たちと、実は結構仲が良かったりするんだよね」



 ……えっ?



「話聞いてると、皆おっさんのところに戻りたがってるみてぇだぜ」



 ……な、なんですとぉぉぉ!!!

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