第50話
廣谷の足音以外なんの音もしない道を進む。
己の音以外聞こえない状況に不安を覚え、廣谷は顔をしかめる。そして思う、こんな時にシロがいてくれたらーー。
長くシロとダンジョンを探索していたからか、廣谷はそんな思いを、心細さを感じていた。
「好ましい状況のはずなのに」
思わず口から思考が零れ出る。望んだ一人の時間、人がいない己だけの空間。外に出るのに嫌気がさしてきていた今の状況、好ましいはずなのに、廣谷は心が開いているような感覚に至った。
違う、違う、こんな状況望んでいない。あいつがいない、あいつがいなきゃ駄目なんだ!!!!
「シロ……」
廣谷は思い入れが強いシロを求める。寂しい、廣谷はそう感じていた。
ずっと一緒だった友人、家族のようなシロ。彼がいたから一人でいるより、人といるよりずっと楽しかった。
だというのに、今はそれがない。出来ない。
廣谷は苦しさと苛立ちに壁をダンっと殴る。
予想より強く壁を殴ったせいか殴った手に痛みが走り、廣谷は「うぐっ」と呻き手をさする。
「はぁぁぁ、なんで、はぁぁ……」
深い、深いため息が廣谷から出る。沢山の事を思い返すーー主に己の行動を。
己がこの状況に陥っているのは自暴自棄になったから。それで何も情報がないここまで落ちて、本当の意味での一人。
もしもを何度も考えてから数秒立ってから廣谷はため息を吐く。そして両頬を軽く叩く。
ばちんっ! と良い音が周囲に響く。
「いっった、叩きすぎた。――よし、行こう」
気合入れで叩いた両頬は少し赤くなっていた。だが、廣谷は強く叩きすぎた以外の感情は抱かなかった。
だって、己の行動に後悔はないから。だからいつまでもくよくよ悩んでも、もしもを考えるなんてばからしい。僕は僕の思うままにやればいい。生きてさえいれば、どうとでもなる。
弱気な気持ちから前向きな気持ちになった廣谷の足取りは少し軽くなる。
廣谷の目的が一つ追加される。ダンジョンから出る。この階層で人と合うことはないだろうから、一人の時間は取れる。取れると同時にダンジョン探索もできる。一石三鳥!
「シロとも早く合流しよう。――スライムとも」
ちょっと忘れ去っていたストレス発散癒しのスライムを思い出しながら廣谷は先に先へと進んだ。
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