第二章 一人ぼっちのダンジョン探索

第49話

 ぽちゃん――ぽちゃん――。

 水の音を聞いて廣谷はゆっくりと目を開ける。目の前には先の見えない天井。


「……ぁ……れ」


 廣谷は何度も瞬きをしてから目を見開いた。そしてゆっくりと起き上がり、先程の事を思い出しながら天井を見上げてから自身の体を見る。怪我がない少し濡れた体。濡れているのは自分がいる場所が巨大な水たまりだからだった。


「あの高さから落ちたのに……?」


 怪我一つない自信の体を見て廣谷の頭は混乱する。水たまりは手が浸かるぐらいしかなく、これでは衝撃は抑えきれないのに。と廣谷は思う。

 次に周囲を見渡す。沢山の分かれ道があった。

 廣谷は立ち上がり、天井を見上げる。


「帰らないと、『宣言。僕は部屋に戻る』」


 いつものように能力を使い目を閉じる。

 だがいつまで経っても移動した感じがない。可笑しいと思い目を開くと、先程の場所だった。


「あれ……?」


 可笑しいな……と廣谷は首を傾げる。いつもならもう部屋に戻ってるはずなのに。

 廣谷はもう一度同じ言葉を言う。だが、景色は変わらない。移動しない。水たまりの中心で立ったまま。

 

「な、んで……!?」


 廣谷は焦り今度は違う内容を言う。すると手元に飲み物が現れる。

 

「あ、れ」


 能力が発動しないんじゃ……? と思いもう一度部屋に戻ることを言うが、景色は変わらない。まるで、この場所が廣谷の部屋だと言うように。

 別の言葉は発動し、部屋やお供関連の言葉は発動しない。

 その事実に気づいた廣谷は段々と顔を青ざめる。そして現状に不安が胸をよぎる。

 何も情報がないままでここを生き抜くしかないと。たった一人で。今まではシロとスライムと一緒だったから一人とは言えなかった。だけど今は一人。辺りに人の気配はない。

 一人が好きだけれど、この現状を素直に喜べない。ただでさえ能力の一部が制限されているような状況なのに――廣谷は顔をしかめ、不安を和らげようと胸元を押さえる。


「動かないと、何も変わらない。大丈夫、きっとなんとかなる」


 少しだけ声が震えたが廣谷は気にせず分かれ道を見る。全体にある十二の分かれ道。何かしら情報がないかと一つ一つ道の傍に近づく。

 

「? これ……」


 一つ一つ見ていくと、気づきにくい場所に数字が彫られていた。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ……——Ⅻ。数字以外は何もなく、今まであった看板すらもない。

 廣谷はそれに首を傾げつつ自分が落ちてきた場所に戻り水に触れる。

 見た目は普通の水。触る、掬う、飲む――のはどうなるか分からなかったのでそれはやめた。

 天井は変わらず闇が広がっていた。中央だけがぽっかりと空いた天井。その真下にある巨大な水たまり。

 そこでふと、廣谷は気づく。——目が覚める前に聞こえていた水の落ちる音が聞こえないと。天井に水があったような形跡はない。目を開ける前に水が落ち切ったのかと思ったが、天井が濡れているような様子はない。むしろ乾いている。

 なら、上の階層から水が落ちてきていた? そう考えたが、目を覚ましてからここを捜索してる間に水の音はなかった。

 

「……じゃぁ、あれは何の音なんだよ」


 目を開けてから一切なくなった水の音。幻聴? そうだとしたら何で水の音?

 廣谷は髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。むすっとした表情をしてからⅠの道に近づく。

 ここにはこれ以上の情報はなさそうだから進むしかない。武器と明かりを取り出し、暗闇の先に進んでいった。

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