第3話
あれ。
もかもしかしてこれが、デートかなにか?
ぼく、
場所は行きつけのカフェの【カフェ・ラ・フランス】。
時刻は午後19時10分。
太陽が地平線の下に沈みつつあり、あともうちょっとしたら完全に夜の帳が下りてしまう。
普段ならここでコーヒーでも啜りながら小説などを読んで時間を潰すが、しかし今回は珍しく1人ではない。
手前にはとても可愛らしい女の子が座っている。
名前は
ぼくの後輩である。
ぼくと愛菜さんがテーブルを挟んで向かい合っている。
ちなみに愛菜さんはくったくない笑顔で目をキラキラさせながらメニューを見ているのだ。
もう何度言っても言い切れない。
可愛い。
超可愛いんだけど。
とまぁ、そんなくだらないことを考えていると、店員さんがいつのまにテーブルまで来ていた。
ん?
今日は明里さんがいないのか?
なんか珍しい。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
と、新しい店員さんがやさしく微笑みながら言ってくると、さっきまでメニューを楽しそうに見ていた愛菜さんが声に反応し、メニューから目を逸らして顔を上げる。
まずはぼくを見て、そうすると店員さんを見る。
「えっと……じゃあフラペチーノでお願いします」
「かしこまりました」
店員さんが手にあるノートに手早く愛菜さんの注文を書いて、そして次にぼくに視線を移す。
「あとこちらのお客様もご注文はお決まりですか?」
そうだな。
そういえば全然メニューを見ていないな。
まあ、見なくてもここの常連だから丸暗記はしているけど。
とりあえず愛菜さんと同じものでいいのかな。
決めると、店員さんに伝える。
「かしこまりました。彼女さんも彼氏さんもフラペチーノで……あとはなにかお召し上がりますか? 本日はカップルがなんでもデザートメニューから半値で買えますよ」
…………はい?
カップルってもしかして、ぼくと愛菜さんのこと?
まさかそんなふうに見られているとはな。
…………とふと思ってみたが、やはりピンと来ないっていうか、あんまり響きがよろしくないか。
……と言っても、さっき店員さんが……あもっ!
頭が混乱している。
確かに彼女に告白はされたんだけど、あとそもそも断る理由があるというわけでもなくて……ただ、なんか不安だなって。
まるで、愛菜さんの告白を受け入れたらなにかヤバいことでも起こりそうな、そんな気分だ。
なんかもう嫌だなぁ。
なにがなんだかわからなくなっちまった。
もう考えるのをやーめた。
余計に頭が痛くなるので。
で、なんだ?
質問は……あ、はいはい。
思い出した。
何食うかって聞かれてた。
そうだな。
とりあえず、愛菜さんに聞こうか。
「じゃあ、愛菜さんはなんか食べるか?」
聞くと、愛菜さんは頰を紅潮させ、そわそわし出す。
「や……いやわたしは…………」
と、小さな声で何かを言おうとするが、そのとき愛菜さんのお腹からきゅ――んと可愛らしい音が鳴り始めた。
もちろん聞こえたのは本人とぼくと、店員さんの3人だけ。
まあ、そりゃそうだな。
この時間だともうお家で夕食を食べているもんね。
正直ぼくもちょっと腹が減ってて、なに食べようかけっこう迷っていたんだけど、それならいいのか。
量もちょうどいいと思うし。
「じゃあ、デラックスパンケーキセット2人前でお願いします」
言うと、店員さんが手にあるノートに書いて、書き終えたら満足そうに小さく頷いた。
「かしこまりました。トッピングとかはいりますか?」
トッピングね。
えっと……
あ!
「そうね。上に泡立てたクリームとチェリー1個で」
「はい」
と、にこにこしながら書き留める店員さん。
「それじゃあ、いまからお客様はご注文なさったものを用意しますので、しばしお持ちを」
するとそれだけを言い残して去る。
「………………」
「………………」
しばらく続く、2人の間の沈黙。
なんか妙に緊張するなぁ。
何を言って話を切り出せるかな。
か……髪がとても綺麗とかか?
…………いやいや。
どう考えてもキモすぎだろう。
難しい。
――非常に難しいなぁ、これ。
愛菜さんをそもそもカフェに連れてきたのは、あの告白について話し合うためだ。
陰キャのぼくがこんな綺麗な人に告白されるわけがないと思ってたからだ。
ってことは、やはりいきなり本番から入ったほうがいいか。
ぼくと彼女のちょっと変わった関係 鏡つかさ @KagamiTsukasa
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