第39話 近づく死

 それから、静香の恋バナを永遠と聞きながら、ビールを少しずつ飲み続けた。僕を好きになったきっかけや好きな所を永遠と話し続けていた。


 自分のことを言われると、少し恥ずかしいが、嬉しさもあった。次第に口調が強くなり、ビールも一気に進み始める。


 4杯ぐらいビールを飲んだ静香は、顔を赤くして机の上に倒れ込んでしまった。


「ずっと、、すきだったんですよ」


 そう何度も言っていた。僕が会計をしようとすると、腕を無理やり引っ張ってくる。


「まだ、、飲めます……」


 もうこれ以上は体を壊す可能性もあるのに、、。自分と過ごす時間が嬉しいのだろう。水を一気に飲み干し、僕の腕を強く引っ張って隣の席に座らされた。


「わたし、、先輩となら何でもできますよ」


「でも、僕には付き合ってる人が居るから」


「つらいなあ。わたしは、、まいにち、まいに、、ふぇんぱいのこと、おもってるのに……」


「ありがとう……」


 手を握り返すと、静香の顔が赤くなり、「やめて下さいよ」と言いながら、また倒れ込んでしまった。


 その隙を見て、急いでレジで会計を済ませて、居酒屋を後にした。タクシーを呼ぶまでの間、ずっと「まだ、のれますよ、、まだ、、」と回ってない呂律で何度も言っていた。


 僕には帰る家がある。明美が居る以上、僕と静香は付き合うことは出来ない。


 タクシーに静香を乗せ、スマホに書かれていた住所を運転手に伝えて帰らせた。僕も早く戻らないと……。


 家に戻ると、「お帰りなさい」と明美がエプロン姿で迎えてくれた。


「ただいま」


 何気ない会話でも、明美が近くに居てくれることが嬉しかった。手作りのカレーを食べながら、今日あったことを明美に楽しく話した。


 静香との会って飲んできたと言っても、明美は何も怒ることなく笑顔で受け入れてくれた。






 ――――

 6月5日

 中学校で静香と再会した。彼女は、僕の事をずっと好きで僕を追いかける形で中学校の教師になったらしい。この10年後の未来では何もしてあげれないが、、明美が居ない本当の未来で……。明日は同窓会。明美が何を書いたのか楽しみだな。





「明日の同窓会服装何にする?」


「普通に私服で良いんじゃない?」


「分かった」


 明日は2人で行く初めての同窓会。初めて10年後の未来に来た時、明美が死んだ世界線の同窓会を行った。あの日、辛い思いをしてから、やっと2人で行くことが出来る。どんな同窓会になるんだろう。明美は手紙に何を書いたのだろう。


 この日の夜、寝る前に僕は1つ違和感を持ち始めた。明美の体が薄くなっている事に……。


 でも、怖くて本人に言うことはできなかった。次の日、目が覚めると、明美の体は更に薄くなっていた。


「私、、もうすぐ死ぬかもしれない」


 突然、明美がこんな言葉を言い始めた。


「急にどうしたの?」


 明美の体が震え始め、何度も何度も「怖い……」と言い続けていた。何か死ぬ時の夢を見たのかもしれない。僕は、明美の体を抱きしめ、「大丈夫だよ」と伝えた。


「私、死にたく無い……」


「大丈夫。僕がそばにいるから……」


 気持ちを落ち着かせる為、トランプのババ抜きをしたが、全然盛り上がらなかった。


 もう時間が無いのかもしれない。この夢が終われば、現実世界の明美は死ぬ。最期に……プロポーズをしないと。タイミングがずっと掴めないまま、、この夢の世界で1週間経ってしまった。


 空が暗くなると同時に、明美の気持ちは落ち着き始めた。同窓会の服装へと着替え、2人で同窓会が行われる尾道国際ホテルに向かった。

 

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