第38話 学校
――――
6月4日
今日はみんなで飲み会で盛り上がった。僕はまだ気持ちは高校生だけど、めちゃくちゃ楽しかった。ビールは苦かったけど、いつか美味しいと思える日が来るのかな。東京から帰ってきて、これから何をしようかな。
いつも通り日記を書き終えて、スマホを見ると、1件の着信が届いていた。見覚えのない電話番号だった。恐る恐る着信ボタンを押した。
「もしもし……」
「あんた、何してるの?学校無断で4日間も休んで」
どこか聞き覚えのある可愛らしい女の人の声だった。まだ全然状況が理解できていない。
「どういう事ですか?」
「どういう事って!!あんた、何言ってるの?生徒達心配してるよ」
「あ……」
自分が中学の教師になっていた事を完全に忘れて、平日なのに思いっきり遊んでいた。
「明日は絶対に来てね」
「はい……」
電話を切り、どうしようか考えていると、明美が部屋に入ってきた。
「ゆうくん、明日何する?」
「ごめん……。仕事に行かないと」
「そっか。そういえば、明後日同窓会あるらしいけど、行くの?」
同窓会……。心の中で小さくガッツポーズをした。初めて10年後の未来に来た時、明美の居ない同窓会を行った。明美が隣に居てくれる同窓会。それが嬉しかった。
「うん。行くよ」
「じゃあ、明日頑張ってきてね」
明美が軽く頬にキスをしてくれた。あの日、ホテルで2人きりになってから、少しずつ距離が縮まり、同じベッドで寝るようになった。
次の日。初めて10年後の未来に来た時と同じようにスマホの地図を頼りに学校に向かった。10年経っても変わらない尾道の景色。
それを肌と耳で感じながら、歩いて向かう。
「先生、おはようございます」
生徒達が僕に声をかけてくれた。その笑顔に癒されながら、歩いて10分、学校に到着した。
「久しぶりだな……」
ここは僕の母校の中学校。4年前、何度も通っていた場所。高校生になって、中学の文化祭や体育祭に行く事が無かった。
玄関を抜け、職員室に入ろうとした時、チャイムが鳴り響いた。
懐かしい音だ。職員室に入り、
「おはようございます」
と言うと、みんなが暗い顔をして僕を睨んでいた。
「岡本先生、この4日間何してたんですか?」
僕の元に1人の女教師が近づいてきた。ショートカットの髪型にスーツを着ている彼女は、僕の目の前で突然泣き始めた。
「事故に巻き込まれたかと思いましたよ……」
そう言って、彼女は自分の席に戻っていた。自分と彼女の関係性が少し気になったが、空いている席に座って、クラス名簿を開いた。
これからどうすれば良いのか……。初めて10年後の未来に来た時、僕はパニックを起こしてしまった。絶対、今回はやり抜かないと……。
「岡本先生、頑張ってくださいね」
そう言って彼女は、職員室を出て行った。その後を追って、僕が担任している1年2組の教室に向かった。教室が近づくと生徒達の賑やかな声が聞こえてくる。
そして、僕は教室の前で深呼吸をして、扉を開けた。それから、1日。数学の授業を詰まりながら、焦りながらも何とかやり切ることが出来た。
放課後、職員室に戻って帰る準備をしていると、近くに彼女が来て、
「今日、飲みに行きませんか?」
と誘われた。断ろうとしたが、彼女がどうしても行こうと言うので、仕方なく行くことになった。明美には友達と飲みに行くと言って、帰りが遅くなることを伝えた。
夜19時を回った頃、尾道駅に水色の薄い服に黒いドレスを着た彼女が僕の方に近づいてきた。
「岡本くん、早く行こうよ」
そう言って、僕の腕を引っ張りながら、近くにある居酒屋に連れて行かれた。
「ねえ、、どうして僕に寄り添ってくれるの?」
「え、岡本くんの事が好きだからに決まってるじゃん」
「僕の事を好き?」
「昔からずっと……。岡本くんに高校2年生の時に告白したけど、振られたんだけど、、諦めきれなくて……」
高校?僕のことがずっと好き?その2つのキーワードと彼女の顔に見覚えがあった。
「もしかして、、静香?」
「そうだけど、何?急に改まって……」
僕と同じ中学校で働いていた人は大野静香だった。10年後の未来の同棲相手であり、ずっと好きだと言ってくれた後輩。
偶然、出会えた事に驚きを隠せない僕は、机の上に置かれたビールを飲み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます