第35話 婚約指輪
近くにあったジュエリー店に入ると、月光のように光り輝く指輪が並んでいた。値段は30万を超えている物もあり、踏み入れては行けない領域に来てしまったような感覚に陥っていた。
「すいません……。婚約指輪を買いたいんですけど」
拓海が店員に尋ねると、店員が笑顔で「わかりました」と言い、オススメの婚約指輪を何個か紹介してくれた。拓海と店員さんの話が盛り上がってる中、僕は1人で店内の指輪を見て回った。
明美はどの色が好きなんだろう……。どんな物が好きなんだろう……。
僕達は恋人同士なのに知らない事だらけだ。普通のカップルなら何回もデートを行う事で、それぞれの良さや可愛さに気づいていくんだろうなあ。
僕達は、恋人同士なのに、一緒に寝るのも緊張してしまう。明美の事も何も分かっていない気がする。もうすぐ明美は死ぬのに……。
金色の真珠の婚約指輪が目に入った。値段は20万を少し超えていた。あまりの値段の高さに驚きながらも、その真珠の婚約指輪に見惚れてしまった。
確か……6月の誕生石は真珠だったような。
「わたし、たんじょうびが6月15日なんだよね」
ふと、頭の中に幼少期の明美の声が響いた。そういえば、、6月15日は明美の誕生日か……。明美の誕生日が近づいていることに気がついた。
誕生日にプロポーズとかしたら、、最高だろうなあ。
「裕介、これとこれどっちが良いと思う?」
金色の指輪とプラチナの指輪を見せて、どっちが良いかと僕に聞いてきた。値段はどちらも30万を超えている。
「お金あるの?」
「まあ一流のサラリーマンだからね」
明美だったらどっちが良いんだろう。プラチナの方が綺麗で美しいけど、金色の方が派手で豪華だし……。
「どっちでも似合うと思うよ」
1番良くない答えをしてしまった。拓海は困ったような顔をしていたが、すぐに頷き、「じゃあこれで……」と言った。
小さい紙袋を持って嬉しそうな顔をしている拓海が店の外に出てきた時、23時を過ぎていた。
「今日はありがとう」
「何もしてないけど……」
「一緒に来てくれるだけで心強かったよ。そういえば、LINE見た?」
LINE?そういえば、東京スカイツリーに行った時ぐらいから1回もスマホを見ていなかった。スマホのロック画面を開いてLINEを見ると、3班のグループLINEに4件の通知が来ていた。
シュウ 「明日の夜なら、俺は大丈夫だよ」
ハルハル「明日の夜にする?」
たっくん「良いよ」
明美 「私も大丈夫よ」
自分が見ていない間に勝手に話が進んでいた。明日の夜、みんなで飲み会をするらしい。
「裕介も行けるよね?」
「うん」
ゆうすけ「OK」
たっくん「じゃあ、明日の夜18時に東京駅に集合で」
LINEを送って、僕は近くのコンビニで酒とお菓子を買って、明美が待っているホテルに戻った。部屋に入ると、明美が顔を赤くして待っていた。怒っているように見えた。
「こんな夜遅くまで何してたの?」
「コンビニに……」
「何買ってきたの?」
机の上に缶のチューハイを4個並べ、スナック菓子も開けた。明美が不思議そうな顔をしていた。
「何してるの?そんなに酒買って……」
「これから酒を飲みながら勝負しようよ」
「勝負?」
「トランプのババ抜きで勝った人は、負けた人に命令できる。負けた人は勝った人の命令に従わなければならないとかどう?」
もっと明美の事を知りたい。僕が勝ったら、明美の事を色々と聞くつもりだった。
「楽しそう!!」
チューハイの缶を開け、飲み始め、ババ抜き1回戦が始まった。お互いに手持ちを減らしていき、僕の枚数が1枚、明美の枚数が2枚で、僕が明美のトランプを引く所まであっという間に辿り着いた。
「どっちだろう……」
明美のポーカーフェイスを楽しみながら、適当に左のトランプを取ると、ハートの7同士で上がることが出来た。
「よっしゃー勝ったー!!」
「負けた……」
「じゃあ、質問なんだけど。明美のお母さんとお父さんってどんな人なの?」
「え、、そんな真面目な質問なの?もっと責めた質問を期待してたけど……。うーん。お母さんは、いつも私のことを心配してくれていたけど、有名女優だから、家に帰ってくるのはいつも夜遅くて、小学生の時は中々会えなかった。お父さんは、近くの会社に勤めてたから、夜ご飯を作ってくれたけど……。こんな答えで大丈夫なの?」
「うん」
初めて明美のお父さんとお母さんの事を知った。もっと色んなことを知りたい……。そして、、酔いが回った所で、、、なんて無理だよね。色々な妄想をしていると、
「2回戦始めようよ」
明美がノリノリで言い始めた。チューハイを半分まで飲み、ババ抜き2回戦が始まった。スマホの画面に表示されている時間は0時。いつの間にか日を跨いでいた。
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