第34話 思い出の景色

 東京駅から電車に乗ったが、どこに向かっているか分からなかった。拓海に「どこに行くの?」と聞いても「秘密」と言い続けていた。


 電車で僕達は、拓海の思い出話で盛り上がっていた。僕達にとってはつい最近の事だったり、まだ知らない未来のことも沢山言っていた。


「そういえば、、タイムカプセル埋めたよな?」


 拓海がタイムカプセルの話を始めた。病院から退院してすぐの夏休みに学校に集まってタイムカプセルを作った。1人1枚未来の自分に向けて手紙を書いた。


 明美も何か書いていたような気がしたけど、、結局明美は何を書いたのだろう。


「うん」


「なんか、来週の同窓会でタイムカプセル開けるらしいよ。何書いたか何も覚えてないから……めっちゃ楽しみ。裕介は何書いたか覚えてる?」


 つい最近の出来事だからはっきりと覚えているが、全部言ってしまったら、変に思われるかもしれない。


「覚えてないかな……」


 適当に返事をした。


「村上さんは?覚えてる?」


 拓海が明美にタイムカプセルについて聞いてくれた。何を書いていたのだろう。何を書いていたのか少し気になるなあ……。


「うーん。将来の夢について書いた気がする」


「村上さんって今何してるの?」


「うーん……専業主婦かな。将来の夢を実現しようなんて考えようともしなかったわ」


「高校の時の将来の夢って何だったの?」


「私は――」


 体育祭の日、弁当を食べながら5人で将来について話していた。僕は、教師に……。拓海はサラリーマンになることをみんなの前で言った。


 明美が言った将来の夢に僕は衝撃を受けた。この10年後の世界なら、、その将来の夢も叶うかもしれない。


「明美、、将来の夢挑戦しなくて良いの?」


「いや……私には無理だよ。」


「出来るよ。一緒に頑張ろうよ」


「……うん」


「次は――東京スカイツリー駅」


 東京スカイツリーか……。東京スカイツリーの中には1回も行ったことが無かった。でも、東京スカイツリーを見ると懐かしく感じる。


 体育祭の日、拓海の夢の世界に行った。東京スカイツリーの前で2人で話した記憶が鮮明に蘇る。


「うわあーー高いなあ」


 明美が嬉しそう顔をしながら見上げていた。東京スカイツリーの中に入り、4階からエレベーターに乗り、フロア350まで登っていく。途中、体が浮くような感覚があったが、あっという間に高さ350メートルまで辿り着いた。


「うわーー凄い!!」


 明美が走り出し、窓から東京の景色を見下ろしていた。僕も付いて行った。人がアリのように小さく見え、空が少し近くにあるように見える。


「綺麗だなあ……」


 明美は嬉しそうな顔をしていた。その幸せな顔を見ているだけで嬉しかった。


「村上さんは、東京来たことないの?」


「無い……。もう見れないと思ってた。もう東京に行けないと思ってた。この世界で見れて、、嬉しいよ」


 明美の目に光る物を感じた。


「この世界?どういうこと?」


「ううん。何でも無い」


 高さ450メートルのフロアにも行き、下を見下ろした。さっき見た景色と全然違った。高所恐怖症では無いはずなのに、、少し怖くなってきた。


「マジで、、幸せだわ」


 拓海が空気を読んで2人きりにしてくれた。2人で見る東京の街……。


「ゆうくん、、私、今幸せだよ……」


「それは良かったよ」


「東京なんてもう行けないと思ってたから、めちゃくちゃ嬉しいよ……」


「僕も明美とこの景色を見れて嬉しいよ」


「私、このままずっとゆうくんと一緒に居たいよ。いつか東京に引っ越して、結婚して子供産んで幸せな家庭を作りたいよ」


「僕も……そうだよ」


「何で、、私だけ……。死ぬのが私じゃ無かったら良かったのに」


 それは自分もそう思う。神様は、僕達を見放したのかもしれない。でも、この夢の世界で出会えて本当に良かった。


 東京スカイツリーでお土産を買うことになった。


「私、これが欲しい」


 青と赤の東京スカイツリーのボトルストラップだった。僕とお揃いで買うつもりらしい。お揃い、、嬉しいな。


「僕も青のボトルストラップ買うよ」


「初めてのお揃いだね」


「うん」


 拓海は、東京スカイツリーのメルヴェイユを買っていた。


「水野さんに渡すの?」


「うん。きっと喜ぶだろうな……」


 レジで購入し、僕は鞄につけ、明美は財布に付けていた。近くにあるホテルに着いた後、3人分の部屋を取ろうとしたが、2人分しか空いていなかった。


「2室しか取れなかったけど、どうする?」


「じゃあゆうくんと一緒に寝るよ」


「え、、マジで?」


「分かった。じゃあ僕は1人で寝るよ」


 この世界に来てから、僕達は別々のベッドで寝ていた。付き合っている筈なのに、、大人姿の明美に緊張している自分がいる。


 部屋に入り、荷物を置いてノートを取り出した。


「また日記書いてるの?」


「うん。この世界が終わったら、夢のことを忘れてしまうかもしれないから。少しでも覚えてたら……」


「私の事も忘れないでね……」


「忘れないよ。絶対に」


「約束だよ」


「うん」


 ――――

6月3日

今日は明美と東京のスカイツリーに行った。街の景色は綺麗で美しかった。明美も嬉しそうな顔をしていた。お揃いのストラップを買えて本当に嬉しい。10年後の拓海ともまた会う事が出来た。明日は何をするんだろう。2人で初めてホテルに泊まる。少しだけ緊張する。




 日記を書き終えた僕のスマホに拓海からLINEが来た。

 

「これから指輪買いに行こうよ」


 日記を鞄に入れて、僕は


「これからコンビニで飲み物買ってくるわ」


 と明美に行って、1人で外を出た。ホテルの外で僕と拓海は合流した。


「本当に行くんだね……」


「うん」


 僕達は夜の東京を歩き始めた。

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