第33話 東京

 新幹線に乗っている間、明美はずっと寝ていた。スマホの地図アプリを開くと名古屋駅近くまで来ていた。朝早く、新尾道駅を出発してから2時間近く経っただろうか。乗ってすぐにトランプをしようと言い始め、2人でババ抜きを1時間ぐらいやり続けた。


 2人でやるババ抜きは全然面白くない。どちらかがジョーカーを持っているか一瞬で分かるし、すぐにゲームも終わるし……。でも、明美は楽しそうな顔で盛り上がっていた。


「ゆうくんと旅行の合間にトランプしてみたかったんだよね」


 やりたいことリストにトランプも書かれていたような気がする。1時間ぐらいやり続けた後、やっと飽きたのか、鞄からUNOを取り出した。


 UNOも2人でやっても楽しくないだろ……。そんな事を心の中で思いながらも明美のわがままに付き合った。


 中々、終わらずずっと増えていくカードに痺れを切らした明美が「もうやめたーー」と言って、目を擦り始めた。そして、大阪駅ぐらいからずっと寝ている。


 まだ新幹線の中なのに……。もう東京に行ったぐらい楽しい。東京には2泊3日でみんなに会いにいく予定らしい。


 拓海と水野さんに会えるかな……。昨日の夜、3班のグループLINEで連絡をしたが、既読は1人もつかないまま。もう忘れられてるのかな。不安な気持ちが強くなっていく。


「もう、、いっかい、、ババ抜き……」


 寝言を言っている。この世界は不思議で、夢の世界であるはずなのに、、この世界で寝ても現実と同様に夢を見ることが出来るが、起きた時には完全に忘れていることが多い。




 

「次は東京駅――東京駅。お出口は――」


 アナウンスの合図で、僕は意識を取り戻した。隣の席に座っている明美はまだ眠っていた。


「明美、、起きて。東京着いたよ」


「トウキョウ?トウキョウってどこ……?」


 まだ寝ぼけている。明美の腕を無理やり引っ張りながら、揺れる新幹線で何度も倒れそうになりながらも扉の前に向かった。


「あ、、東京駅着いたの?」


 明美がやっと目を覚ました。


「うん」


「思ったより早かったね。東京駅でお昼ご飯食べようよ」


「うん」


 新幹線がゆっくりと停まり、東京駅の地面を踏みしめた。なんだか少し空気が違うように感じる。尾道よりも遥かに人混みも多く、長い列が沢山出来ていた。


「東京って凄いね……」


「明美は東京に来たことあるの?」


「無い!!初めてだから凄い楽しみ。ゆうくんは?」


 僕は、家族で1回東京スカイツリーには行った事があるが、最近は行っていない。拓海の夢の世界で1回行ったぐらいだけど、あれはカウントして良いのかな。


「2回ぐらいかな」


「じゃあ色々と教えてね」


「まあ教えれるほど詳しく無いけどね」


 東京駅の改札口を通り抜けると、ローマにありそうな天井の下に来ていた。人混みも多いため、一瞬、上を見上げ、人混みに続いていった。


 ピロリン


 LINEの着信音が鳴り響く。スマホの電源を入れると、3班のグループLINEから1件来ていた。


「明美、、行くぞ!!」


 明美の腕を引っ張りながら、東京駅の地図を見て、LINEで送られてきた洋食店の場所を必死に探した。


 東京駅の人の多さに少し酔いそうになるが、地図を何度も確認しながら目印の場所を探した。


 それから10分ぐらい歩き回っただろうか。漸く、その店を見つけた。


「ここだ……」


「ここに何があるの?」


「良いから付いてきて……」


 僕達は、その店に入り、奥の方に進むとカウンター席で見覚えのある顔が1人座っていた。


「おお。裕介、久しぶりだな……」


 拓海がカウンター席に座ってトンカツを食べながら、ビールを飲んでいた。昼からビールかよ……。


「拓海君……」


「うん?どこかで見たことのある顔だな。えっと……。もしかして、、村上さん?」


「うん。久しぶりだね……」


 僕達はつい最近まで高校生の拓海を見ていたから、大人の姿の拓海を見ると不思議な感じになる。でも、拓海が明美の事を覚えてくれていた事が嬉しかった。


「なんか、、イメージと違う……」


 明美は戸惑っているように感じた。拓海の髪の色が金髪になっている事に驚いているのだろう。


 今日は6月3日。体育祭当日、水野さんに貰ったチョコレートで拓海の夢の世界に行った時が2033年6月1日。その次の日、拓海はお見合いに向けて金髪に染めた。そのお見合いで水野さんと再会した。


「昨日のお見合いはどうだったの?」


「え、、何で知ってるんだよ。僕がお見合いに参加した事を……」


「何となく……」


「菜奈ちゃんと10年ぶりに再会したよ。LINEも改めて交換して、連絡取り合ってるよ」


 体育祭の日、水野さんは東京の大学に行く事を拓海に伝えた。それ以降、拓海は水野さんに会えなかったのだろう。東京で会おうという約束は10年越しに叶ったのか。


 僕と明美は、オムライスを頼み、拓海はトンカツを食べ終えた。僕達の頼んだ物が来るまでの間、トランプのババ抜きが何故か再び始まってしまった。


 3人でもあまり盛り上がらないトランプ。拓海は楽しそうに遊んでいた。明美が急に立ち上がり、トイレに行った間、拓海が僕に


「ねえ、今日の夜……指輪買うの手伝ってくれない?」


「良いけど……。まだ再会したばかりだけど、プロポーズするの?」


「高校生の時に再会した時に結婚しようみたいな事を言ってて、昨日やっと再会できたから……。行ける気がする。そんなに高いのは買うつもり無いけど、どのデザインが可愛いか一瞬に考えて欲しい」


「良いよ」


「2人とも何話してたの?」


 明美が席に戻ってきたが、適当に話を誤魔化した。


「それより、2人ともこれからどうするの?」


拓海が僕達に聞いてきた。


「東京観光するつもりだけど、どこに行けば良いか分からなくて……」


「じゃあ僕が案内しようか?」


「拓海君、忙しく無いの?」


「今日は暇だから……」


 オムライスを食べ終わった僕達は、東京駅を出た。そこには何度見ても信じられない程、高いビルがたくさん並んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る