第3章 理想の世界で結婚を

第32話 理想の世界

 明美が生きている10年後の世界は、僕の理想の世界だった。


「ねえ、ゆうくん。遊園地一緒に行こうよ」


 突然、明美が言い始めた。遊園地に一緒に行くこともやりたいことリストにあった。明美が倒れた日、もうこのやりたいことリストは全てできないと思っていた。


 でも、ついに……。


「うん。良いよ」


「じゃあ今から、私服着替えるから、絶対に覗かないでね」


「分かってるよ」


 明美は隣の部屋に行って服を着替え始めた。ここは、1回来たことがある明美の家だった。


 運命の日が迫っていたあの日、明美に誘われて僕は初めて異性の家に行った。緊張している僕を部屋に残し、明美は先に風呂に入って行った。その間、部屋を見て回っていると机の1番上の引き出しに何か手紙のようなものが入っていた。



 あけみちゃんへ

また、あおうね。ぼく、あけみちゃんのことだいすきだから。おとなになったら、けっこんしよう。

 ゆうすけより


 懐かしい気持ちになり、その手紙をずっと眺めていると、明美が風呂から出てきた。引き出しを開けたことに少し怒っているように感じた。何か見られたら嫌なものでもあったのかな。


 そんな事を思い出しながら、僕は再び机の引き出しを1番上から順番に開けて行った。1番上には、あの時と同じ日記と手紙が入っていた。2番目の引き出しを開けると、中には何も入っていなかった。


 何も入って無いのか……。


「服着替えてきたよ、、って何してるの?」


「あの時、引き出し開けたら少し怒ってたから、、何が入ってるのかなって少し気になって……」


「ああ、、。あの文化祭の映画撮影した後、一緒に泊まった日のことね。あの時は、引き出しの中には大量の薬が入っていたの……。だから、気づかれたくなかったの」


 あの日、僕は運命の日を変えようと行動していた。運命の日、交通事故から助ける事が出来れば、明美と結婚できるかもしれない。そんな思いで文化祭を迎えようとしていた。そんな時に病気のことを知ったら、、僕はどうなっていただろうか。


 心の中の霧が少しだけ晴れたような気がする。


「ねえ、早く行こうよ」


「うん」


 外に出るといつもと変わらない景色が広がっていた。尾道は10年後も変わらないなあ。そんなことを思いながら、尾道駅に歩いて向かった。その途中、文化祭や体育祭の思い出話で盛り上がっていた。そんな楽しい話をしていた中、明美が突然下を向いて、涙を流し始めた。


「ねえ、、この夢が終わると私は死ぬんだよね……」


 突然、明美が涙を浮かべながら、小さな声で僕に言った。あまりの話の急変についていけなかった。きっと、、明美もこの夢が終わる事が怖いんだろうなあ。


「もしかしたら治るかもしれないよ……」


「いや……無理だよ。体育祭の日、本当は胸がずっと痛かった。でも、これ以上、ゆうくんを心配させたく無かったから、私は……黙ってたの。今も現実の私はずっと眠っている。この夢の世界でゆうくんと再会できた事は本当に奇跡だと思ってるよ」


 チョコレートを食べずに夢の世界に行けたのは、僕達の強い願いが起こした奇跡だったのかもしれない。


「やっぱり、、私は死ぬのが怖い。死んだ時、ゆうくんと思い出を全て忘れそうで怖い。人って死んだら、忘れるのかな?」


 明美がもうすぐ死ぬ事実を受け入れることが出来ない僕は、下を向いて小さな声で言った。

 

「いや……。心の中に残り続けると思うよ。死ぬのは怖いのは分かるけど、この世界で再会できたんだから、今を思いっきり楽しもうよ」


「そうだね……。尾道駅見えてきたよ」


「早く行こう!!」


 僕は、明美を置いて尾道駅の改札口に走り出した。これから沢山楽しい思い出を作って……。電車に乗って10分。松永駅に着き、そこからバスでみろくの里に向かう。みろくの里にはアトラクションが沢山ある。


 入場してすぐに僕達は観覧車に乗った。空から見上げる景色は最高だった。


「綺麗だね」


「うん」


 明美の嬉しそうな顔を見るだけで、僕も顔が赤くなる。


「私、東京に行きたいなあ」


 観覧車の頂上付近で明美が突然、空を見上げながら言った。あまりにも突然過ぎて、理解が追いつかなかった。


「どうして東京に?」


「大人になった拓海君と周平君と菜奈ちゃんと春ちゃんに会いたいから!!」


 そういえば、、10年後の世界で拓海と水野さんは東京に上京していた。周平と春香は何処にいるか分からないけど、拓海と水野さんには会えるかもしれない。


「じゃあ明日、行ってみる?」


「うん」


 ――――

6月2日

今日は遊園地に行って、観覧車やメリーゴーランドに乗った。明美が楽しそうに遊んでいて、見てる自分も嬉しかった。観覧車の頂上で明美が突然、「東京に行きたい」と言い始めた。明日は東京に行って、拓海達と再会したいらしい。そんなに上手くいくかな……。


追記

東京に行った時に、指輪の値段とデザインを明美に気づかれないように確認する。




 日記を書き終えた僕は、明美の部屋で寝転がっていた。スマホのメモ欄に明美のやりたい事リストが何個も書かれていた。その1番下に


 ゆうくんと結婚したい(無理だと思うけど笑笑)


 と書かれていた。明美と結婚する事もこの世界なら、、出来るかもしれない。






____

更新、遅くなってすいません。ここからは作者の後書きです。色々と忙しくて更新が遅れました。これからは2日に1話、もしくは1日1話投稿を繰り返していきます。17時から18時の間に投稿する予定ですので、よろしくお願いします。コメント、星、ハートもよろしくお願いします。

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