第31話 余命
それから、1日。明美は目を覚まさなかった。明美の家族も病院に来た。そこで、医者から改めて余命宣告を受けた。
「意識不明の状態が続いてます。このまま心臓が止まる可能性も考えられます……。長くても1ヶ月だと思います」
あの10年後の未来では、3月に死んだはずなのに、、どうして未来が変わったのだろうか。医者が嘘を言っているのでは無いか。
担当医が病室から出て行った後、明美のお母さんと少しだけ話した。
「病室で寝込んでいれば、1年は生きられたのに、、彼女が突然、ゆうくんの学校に行きたいと言い始めて、、仕方なく転校させたのです。1つだけ、聞いて良いですか?明美は楽しそうでしたか?」
「はい……」
「本当にありがとうございます」
そう言って、明美のお母さんは病室を出て行った。僕と明美2人だけの病室。
「明美、、目を覚ましてよ……」
そう言っても幸せそうに眠り続けている。心臓は動いているが、目を覚まさない。
どんな夢を見ているのだろうか……。
「明美ちゃん!!」「村上さん」
拓海と周平と春香と水野さんがお見舞いに来てくれた。僕は状況を全て話した。明美が病気を持っていたことと、もう余命が少ないこと、全てを話した。
「明美ちゃん、、死んじゃうの……」
春香が言いながら涙を流し始めた。周平も拓海も下を向いて黙って明美を見つめていた。
――それから1週間が経った。
毎日、病室に行き、明美の横で祈り続けた。
お願い、、目を覚ましてくれ……。
「まだ、、やりたい事リスト全然出来てないよ……」
やりたい事リストに書かれた50個。結局、体育祭で走りたいという願いしか叶えられていない。東京にデートで行くとか話してたけど……。
「裕介、、今日も学校来なかったじゃん」
拓海が病室に入ってきた。
「ごめん……。明美の事を考えてしまって……」
「お前が心配する気持ちも分かるけど、、ずっと病室に居ても何も変わらないよ。近くの自販機でジュース飲みに行こうよ」
「うん」
病院の外にある自動販売機に行き、適当にコーラを買って、近くのベンチに座って飲み始めた。
「そういえば、、体育祭2年生が優勝したよ。なんか、僕の元に1人の女子が来て、岡本先輩知りませんかって言われたけど、知ってる?」
体育祭2年生が勝ったのか……。
『あと、この体育祭で2年生が勝ったら、私のお願い1つ聞いてくださいね』
静香の言葉が蘇る。静香にも1週間会っていない。きっと心配してるだろうな……。でも、、今は明美が――。
「知ってるよ。それより、水野さんと付き合ったの?」
「うん。あの後、やっぱり好きだって言われて告白された……」
「そうなんだ。あの約束って何だったの?」
「菜奈ちゃんは、大学は東京に行くらしいから、またいつか東京で会おうみたいな約束だった」
東京で水野さんと会う約束か……。だから、10年後の夢の世界で水野さんと拓海が再会したのか……。
「そうだったんだ……」
もっと話がしたいのに……。会話が全然続かない。ずっと、、明美のことが気になって気になって……。
「村上さんなら大丈夫だよ。絶対に治るよ」
「……無理だよ。僕は明美のことが好きなのに、、付き合っていたはずなのに、、、何も出来なかった。まだ、死なないと思い込んでいた……」
「チョコレートで村上さんの夢の世界に行けば良いんじゃないの?」
明美が見ている夢を共有できれば、良いかもしれないと思い、水野さんに頼んだがチョコレートを渡してくれなかった。
夢の共有目的でチョコレートを食べた場合、その人の寿命を減らす効果があり、2回食べると死んでしまう可能性もあると言われた。
別に僕は、、死んでも良い、、。明美にもう1度会えたら、、。そんな事を言ったら、水野さんに顔をビンタされた。
「明美ちゃんの為に死ぬなんてバカじゃないの?」
その言葉で漸く目が覚めた気がする。ただ、何も出来ないまま、体育祭から1週間が経ってしまった。
「じゃあ……帰るね。明日は学校来いよ!!」
「うん……」
拓海がジュースを飲み終わり、帰ってしまった。僕はどうすれば良いんだろう。明美に、、何も出来ていない。
もう1度だけ、、もう1度だけで良いから、、最期に会いたいよ……。病室に戻り、明美の幸せそうな顔を見つめていた。
「明美、、目を覚ましてくれよ……」
そう願い続けていると、眠気が襲ってきた。少しだけ、寝るか……。明美の手を握りながら、僕も目を閉じた。
その日、僕が見た夢は10年後の明美と結婚する夢だった。
――それから、更に1週間が経った。
「裕介、起きろよ……」
拓海の声でやっと目を覚ました。ここは、、どこだろう?周りを見てすぐに病院の中だと分かった。
病室のベッドで何故か僕は寝ていた。
「何で……ここに?」
「やっと目を覚ましたか……。お前、あの日から1週間ずっと目を覚まさなかったんだよ」
1週間も!?1週間眠り続けるなんてあり得るのか?何かの病気かもしれないと不安になる僕の右手に1冊のノートが握られていた。
「このノートは……」
「なんか、昨日からずっと持ってたよ。僕も見てみたけど、何にも書いてなかった」
その右手に持っていたノートの表紙には、「未来日記」と書かれていて、1ページ目を捲ると、2033年6月1日と1番上に書かれていた。
拓海には見えなかった文字が何故か、、僕には見える。他のページにも見覚えのある内容の日記が書かれていた。
「これは、、あの時の――」
「お前、そのノート読めるのかよ」
「うん。ハッキリと文字が見える。それより、明美は?」
「隣の病室でずっと意識不明のままだよ」
体を起こした僕は、隣の病室に日記を持ったまま、向かった。隣の病室では、明美は意識不明のまま眠っていた。
明美の左手の薬指に指輪が付いていた。体育祭の日、指輪なんて付けてなかったのに……。その指輪に見覚えがあった。僕が夢の中であげたものだ。
僕が、この1週間の間で見た夢は、明美が見た夢と全く同じで、10年後の明美が生きている未来だった。
日記を読みながら、僕が見た夢を思い出し始めた。1行目に書かれていた言葉は――
「これは、明美が生きている10年後の未来の物語」
――――
目覚まし時計のアラームが部屋中に鳴り響く。ここはどこだろう?僕は辺りを見渡した。
ここは……明美の家!?
「ゆうくん、、やっと会えたね」
大人の明美がエプロン姿で立っていた。
「え、、ここはどこなの?」
「ここは……私の夢の中だよ。どうやら10年後の世界らしいよ。それより、夜ご飯、何食べたい?」
状況が掴めない。僕は、、拓海と別れた後、明美の事をずっと見ていたら、、突如眠くなって……。
でも、チョコレートは食べてないのに……。どうして夢の世界に来れたんだ!?
「どういう事?」
「私も分からない。でも、この夢の世界ならゆうくんと何でもできるね」
「体、大丈夫なの?」
「めちゃくちゃ元気だよ。多分、病気治ってるみたい。それより、10年後のゆうくん、カッコいいね」
僕の姿も10年後に!?急いでトイレの鏡で確認すると、本当に見た事のある自分の顔が写っていた。
でも、この世界ならやりたい事リスト全てできるかもしれない。この世界なら――。
「明美が作るカレーライス食べてみたい」
「分かった……」
カレーライスを食べ終えた僕は慣れない机で明美から赤いノートを借りて、日記を書き始めた。表紙に「未来日記」と書いた。
「何書いてるの?」
「もし、現実世界に戻った時、忘れないようにこの事を書いとこうと思って……」
これは、明美が生きている10年後の未来の物語
2033年6月1日
なぜか、10年後の夢の世界にチョコレートを食べずに来てしまった。意味が分からない。でも、10年後の明美の姿は可愛く、美しかった。明美と会えて良かった。明美の作ったカレーライスは少し辛かったけど美味しかった。この夢の世界がいつまで続くか分からないけど、、。
一生続いてほしい。この世界なら、明美のやりたい事を何でも出来るかもしれない。
【第2章 未来を進む覚悟】完
第2章がこの話で終わり、次から第3章に入ります。投稿頻度は2日に1話程度で更新を頑張っていきます。これからもハート、応援コメント、星をよろしくお願いします。特に応援コメントが少ないので、少しでも欲しいです。
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