第30話 体育祭③ 僕達の夢

 長縄跳びが終わり、明美が3年テントに戻ってきた。


「明美、惜しかったね。体は大丈夫?」


「うん。でも、楽しかったよ。応援、ありがとう」


「ねえ、久しぶりにみんなで、弁当食べようよ」


「うん」


 体育館の中に入ると、拓海と周平と春香が待っていた。僕と明美も合流し、5人で円になって弁当を食べ始めた。


 5人で弁当を食べるのは、初めて話した時以来だ。いつも周平と春香、拓海と水野さん、僕と明美のカップル同士で食べることが多かった。


「なんか、5人で食べるの久しぶりだな」


 周平がみんなが思っていることを言ってくれた。まだ、10年後の未来の姿しか知らなかった僕が周平と春香と初めて話す事が出来た大切な日だ。


 あの時から、毎日が更に楽しくなった。周平はいつも明るく話しかけてくれる。春香はその姿を笑いながら、見守ってくれる。


「みんな、受験勉強してるの?」


 拓海がみんなに話のテーマを振ってくれた。そういえば、、僕達は3年生だった。明美と過ごすことに頭がいっぱいで、そんなに勉強していなかった。


「私はちゃんとしてるよ」


 春香が言った。春香は真面目でテストの成績もずっと高い。国立の大学に行くと聞いた事がある。


「春香は将来何になりたいの?」


 拓海が春香に聞いた。


「私は……医者かな。拓海君は?」


 医者って1番大変な気がするけど、、。真面目で成績の良い春香なら何とかなりそうな気がする。


「僕は、、特に考えてないな。まあ適当な大学に行って、サラリーマンかな」


 拓海は真面目そうなのに、、将来の夢を特に持っていない。サラリーマンでお金を稼げたらそれで良いと思っているらしい。


「拓海君らしいわ」


 春香が笑いながら言った。


「じゃあ、周平は?」


 僕が周平に将来の夢を尋ねると、


「俺は、消防士でみんなを助けたい」


 周平も拓海と同じサラリーマンとかだと思っていたけど、消防士という素晴らしい職業に就こうとしていることに驚きが隠せなかった。


 周平の体力なら何とかなるかもしれない。


「じゃあ裕介は?」


 やっぱり僕にも聞かれるか……。中学生の頃は、将来の夢を聞かれた時、サラリーマンと答えていた。


 10年後の世界で、僕は中学の教師になっていた。その夢通りなら、、いつか教師を目指すきっかけがあるのかもしれない。


「僕は……まだ決めてない。とりあえず、大学は進学する」


 でも、今は特に将来の夢は無い。近くの大学に行けたら良いなと思ってる。

 

「明美ちゃんは、何になりたいの?」


 春香が明美に聞いた。明美にはもう時間は無い。将来生きている可能性も少ない。でも、僕は1回も明美の将来の夢を聞いた事が無かった。


「私は――」


 明美の夢を聞いた瞬間、僕は持っていた箸を落としてしまった。


 もし、10年後も明美が生きていたら……。きっと、、その職業につくんだろうなあ。


「高校卒業したらみんな離れ離れになるね」


 春香が涙目でみんなに向かって言った。全員違う進路に行く。また、いつか会えるかどうかもわからない。


「大丈夫だよ。LINEで繋がってるから。いつかみんなと酒を飲んで盛り上がりたいね」


 拓海がそう言ってくれた。実際、10年後の同窓会で僕達は必ず会える。お昼ご飯を食べ終えた僕達は、体育館を出た。


 午後の部が始まり、応援団による応援合戦は盛り上がりを見せ、午後の競技が始まった。2学年が少しリードしたまま、気づけば最後の種目となった。


 最後の種目は、学年対抗リレー。全学年点数が混戦のため、この勝負で勝ったチームが学年優勝に近づくだろう。学年対抗リレーには、水野さんが出る。


 拓海と僕は3年テントの1番前で応援する。


「さっき、菜奈ちゃんに、、体育祭で優勝したら付き合ってほしいって言われた」


 拓海が顔を赤くしながら、そう言った。


「良かったやん」


「だから、、この勝負絶対に勝ってもらわないと……」


 


 勝負を見届けようとした時――


「裕介、、大変だ!!明美が……」


 周平が息を切らして走ってきた。明美に何かあったのか?僕は、急いで周平に付いて行った。


 グラウンドの外に救急車が来ていた。


「付き添い人として来てくれますか?」


「明美は、、大丈夫なんですか?」


「突然、倒れて意識不明です……」


 僕は救急車に乗り込み、病院に向かった。

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