第29話 体育祭② 静香の物語
入場口に着いた私の後ろで、女子達が何か話していた。
「初恋の相手と付き合ってるの?」
「うん……」
「羨ましいーー。良いなあ」
「でも、、初恋の相手と結婚できる確率は1%らしいよ」
体育祭の最中になぜか、後ろで恋バナをしている女子達の会話が聞こえてきた。初恋の相手と結婚できる確率は1%。
初恋なんて成功するはずがないんだよね。村上先輩の病気がもし治れば……。私は、、岡本先輩と結婚する事は出来ない。
そんな気持ちのまま、入場曲が流れ、岡本先輩の前で縄を解き、みんなで飛ぶ準備を始めた。
「静香ちゃん、頑張ろうね」
「うん」
琴ちゃんが私に声をかけてくれた。ずっと孤独だった私は、応援団に立候補した。何か自分を変えたくて……。新しい自分に出会いたくて……。
最初の応援団だけでの会議で、自己紹介をした時、周りの目が冷たく鬼のような怖い目をしていた。
やっぱり私には無理かもしれない。応援団を辞退しようとした時、1人の女の子が声をかけてくれた。
「静香ちゃん、これからよろしくね」
「う、うん」
「私は、
「ことちゃん、、、よ、、よろしく」
こんな私に声をかけてくれるなんて……。高校に入ってみんな同じ中学校同士で固まって話していたため、私はどのグループにも入れなかった。
琴ちゃんは、地獄の底にいたような私に救いの手を差し伸べてくれた。その日の放課後、琴ちゃんと2人で帰った。意外と家も近い事が分かり、少しずつ打ち解けていった。
友達と話すとこんなに楽しいんだ……。どうでも良い話や流行りのメイクについて話す事が出来て、毎日が楽しくなっていった。
「私、長縄跳びの競技出てみたいんだよね。琴ちゃんも一緒に参加しようよ」
「うーん。私、運動神経悪いし、みんなに迷惑かけたら申し訳ないから……」
「大丈夫だよ。琴ちゃんなら出来るよ。私と一緒に練習しようよ!!」
「ありがとう。じゃあ参加してみるよ」
それから、琴ちゃんの友達の2人と一緒に4人で長縄跳びの練習を始めた。練習を始めた頃は、琴ちゃんはよく引っかかっていたけど、次第にコツを掴み始め、30回近く余裕で飛べるようになった。
2人で練習している時間が楽しかった。躓いて、引っかかっても琴ちゃんは笑顔で「もう1回しよう」と言ってくれる。
いよいよ本番……。練習での最高記録は3分間で70回。もっと多く飛ばないと……。私達は縄の中に入り、いつでも飛ぶ準備は出来た。
「よーいスタート!!」
合図と共に、縄が大きく回り始めた。リズムよく飛んでいく私たち。ミスする事なく、60回を超えた。歓声が昂り始める。もっと……もっと……行ける!!
そう思った時、縄が足元で止まった。琴ちゃんの足が縄に引っかかってしまった。隣見ると、村上先輩は必死に飛んでいた。他のチームより圧倒的な速さで飛んでいる。
「明美、頑張れ!!」
岡本先輩は、村上先輩の方ばかり見ている。やっぱり、、私の事なんて……。
『初恋の相手と結婚できる確率は1%らしいよ』
その言葉が蘇る。やっぱり岡本先輩には、村上先輩が1番似合ってるんだ。私なんて……。
「みんな、、ごめん」
「まだ行けるよ!!」
それから、私は飛ぶリズムを崩し、2回引っかかってしまった。その度に何度も謝った。
あっという間に3分が過ぎ、記録は40回で止まった。
「残り2分です」
放送部の声が聞こえてきた。残り2分……。私も集中しないと……。そう思っても集中出来ない。頭の片隅に岡本先輩が居る。
「静香ちゃん、、、本気でやってよ!!私達頑張って練習してきたじゃん!!」
その言葉でふと我に返った。今は競技に集中しないと、、。
「ごめん……。みんな、最後まで頑張ろう」
再び力を合わせて、飛び続け、60回を超えた。この調子なら行ける!!
ピーーー
「競技終了!!」
競技終了の合図で、縄は飛ぶ寸前で止まった。記録は90回、1年チームは70回、3年チームは――80回。
「優勝は、、2年チームです!!」
2年テントが大盛り上がりを見せる。岡本先輩も私の方を見て笑顔で拍手してくれた。
「静香ちゃん、、やったね!!」
琴ちゃんとハイタッチをして、抱き合った。琴ちゃんの涙で肩が濡れる。本当に勝てて良かった……。
退場した後、村上先輩に声をかけた。
「村上先輩、、」
「何?」
「あの……岡本先輩の側にずっと居てあげてください」
「、、君は誰なの?」
「私は……大野静香です。岡本先輩の事が好きでした。でも、村上先輩の方がきっと岡本先輩を幸せに出来ます」
「静香ちゃん、、お弁当一緒に食べようよ!!」
琴ちゃんに呼ばれている。私は、軽く礼をし、琴ちゃんのいる2年テントに走り出した。
『初恋の相手と結婚できる確率は1%』という言葉、、、やっぱり1%には選ばれない。私も多くの中の1人なんだ。
諦めようとしているけど、、諦めれない。これが恋というものなのかもしれない。
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