第28話 体育祭① リレー

 僕がグラウンドに着いた時、体育祭は既に始まっていた。次の競技は……僕たちの学年種目の全員リレー。


「ゆうくん、、こっち!!」


 明美に呼ばれて、僕は入場口の方に向かった。拓海も無事戻ることができ、やっと僕達の高校生活最後の体育祭が始まるんだ。胸を躍らせながら、入場口に並んだ。


「裕介、どっちのチームが早いか勝負だな!!」


 隣の列に並んでいた周平が僕に声をかけてきた。


「僕達のチームには、団長も副団長も居るから絶対勝つから!!」


「甘いな……。俺たちのチームには、陸上部のエースが居るから、、絶対勝つよ」


 全員リレーのチーム分けは、1回体育の授業で行ったチーム分けと同じで、お互いのチームに他のクラスも入っている。1チーム40人の4チーム対抗リレーだ。


 周平と春香はAチーム、僕と明美と拓海と水野さんがBチーム、その他CとDチームがある。


 優勝すれば、トロフィーと賞状がそのチームの代表者に渡される。絶対に勝たないと……。


 音楽が流れ始め、入場を始める。スタートラインに第1走者が全員並び、チーム紹介が始まった。


「ゆうくん、頑張ろうね」


 後ろに居る明美が肩を少し叩いて、声をかけてきた。


「うん。でも、少し緊張する……」


「私も体育祭で走るの初めてだから緊張する……」


 明美は、小学生の時から体育祭の日も休んでいた。明美にとって今回の体育祭が最初で最期になるんだろうか。


「大丈夫だよ。僕が必ずリードして渡すから!!」


「頼りにしてるよ」


「うん。任せて!!」


 チーム紹介が終わり、ピストルの合図で第1走者が走り始めた。僕の少し後ろで拓海と水野さんが何か話していた。


 第2走者にバトンが渡った時、僕のチームが少しリードしていた。このまま行けば……。周りの歓声で白熱したリレーは更に盛り上がりを見せる。


 今回の走る順番は、前の練習よりも理論的に拓海が考えてくれた。遅い人と早い人を交互に入れる事で、上手くリードを保ちながら、アンカーの水野さんが一気に突き放すと言う作戦だ。


 アンカーの水野さんにバトンを繋ぐのは、拓海になり、拓海と水野さんは、あの練習以降、毎日放課後にバトンの受け渡しの練習をしていた。


 僕は前回の練習と変わらず第15走者で、明美にバトンを渡す。絶対にリードを作らないと……。


「ここで、Aチームのバトンが落ち、少し差が出来てしまいました」


 放送部の実況がグラウンド中に響き渡る。周平と春香のAチームがバトンを落としてしまい、3チームと半周近く差が出来てしまった。


 これは……もう無理かもしれないな。そんなことを考えていると、僕の出番が来た。僕たちのチームは、他の2チームより少し遅れている。


 ここでリードを作らないと……。


「祐介、勝負だな」


 周平が僕と同じスタートラインに立っていた。


「え、、アンカーじゃないの?」


「予定変更だ。アンカーは、陸上部の友達に任せてる。今はこの差を詰めないと面白くないだろ?どれだけ差がついていても、必ず俺が取り返す」


 僕にバトンが渡り、スピードを少しずつ上げ、全力で走り続けた。絶対にリードを奪って……。


 でも、、前のランナーに追いつかない。無理だ……。その時、後ろから足音が聞こえてきた。


 このままじゃ……追いつかれてしまう。


「ゆうくん、頑張れ!!」


 明美の声でスピードを1段階、上げ、ギリギリ前のランナーに追いついてバトンを明美に渡した。


「明美、頑張れ!!」


 小さく頷き、明美が走り始めた。僕がバトンを渡してすぐに周平がバトンを繋いだ。半周もあった差を一気に縮めてきた。やっぱり周平は凄いな……。


 明美は、Cチームの女子を抜き、2位で次のランナーにバトンを渡した。


「はあ、、はあ、、」


「明美、大丈夫?」


「うん、、頑張ったよ……」


「2位は凄いよ!!このまま行けば勝てるかもしれないよ」


「うん、、」


 そして、全員リレーはクライマックスを迎える。スタートラインに拓海が立ち、深呼吸を始めた。


 全チーム横並びの大混戦。拓海と水野さんに全てが掛かってる。お願い……。勝ってくれ!!


「拓海、勝てよ!!」


「当たり前だろ」


 バトンを受け取った拓海の前に2チーム、陸上部が一気にリードを離していく。拓海の速さじゃ……陸上部には勝てないか。


 5メートルぐらい離れ、観客は、1位2位の大混戦に注目している。僕たちのチームなんか誰も見ていない。


「たっくん、、負けるな!!」


 水野さんの大きな声が響き渡る。たっくん?そんな呼び方聞いた事が無かった。


 その声で拓海はギアを2段階上げ、陸上部の2人に喰らいついている。距離は少ししか縮まらなかったけど、、バトン渡しが上手く行けば……。


 バトンを最速で渡す方法――


 それは、日本代表が行っているアンダーハンドパスだ。スピードを落とさずにバトンを渡す事が出来るが、日本代表も失敗するぐらい難易度が高い。


 そのアンダーハンドパスを2人は毎日放課後に練習していた。その成果が実るかもしれない。


「菜奈ちゃん、、行くよ」


 拓海の言葉で水野さんが徐々にスピードを上げ始める。そのスピードを落とさずに、下からバトンは綺麗に渡された。前の2チームよりスピードが落ちなかった事で、一気に距離を詰めていき、、遂に2人を抜かした。


 お願い……。勝ちたい。そう強く願いながら、水野さんを応援した。




 1番にゴールテープを切ったのは——水野さんだった。その後にAチーム、Dチーム、Cチームと続いた。


「ゆうくん、、勝ったよーー」


 明美が嬉しそうに僕に抱きついてきた。初めて抱きつかれた僕の胸に柔らかい感触を感じた。少し温かい……。


「よかったね」


「うん。めちゃくちゃ嬉しい」


 拓海と水野さんが嬉しそうな顔で何か話していた。2人のおかげだな……。全員リレーが終わり、その後の競技も盛り上がっていた。




 昼前、僕の競技も終わり、3年テントでゆっくりお茶を飲んでいると、


「岡本先輩、、」


 と後ろから声が聞こえた。振り返ると、静香が立っていた。


「どうしたの?」


「村上先輩、居ませんか?」


「明美?明美は次に出る長縄跳びの準備に行ってるけど……」


「そうなんですね。私も長縄跳び出るんで、応援してくださいね」


「、、分かった」


「あと、この体育祭で2年生が勝ったら、私のお願い1つ聞いてくださいね」


 そう言って、静香は入場口の方に走って行った。静香のお願いって何だろう?


「長縄跳び始まるぞ!!」


 拓海に言われ、僕はテントの1番前に座った。午前中最後の競技、長縄跳びが始まろうとしていた。



————

追記

 投稿が少し遅れましたが、これからも投稿続けていきますので、引き続きハート、星、コメントをよろしくお願いします。

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