第27話 あの日の約束

 夢の世界に来た僕は、髪を金色に染め、お見合いに参加する事にした。未来の結婚相手が見つかるかもしれない。高校生の僕にとって、、お見合いは初めて。不安が大きかった。


 遊園地で始まったお見合い。周りの人が男女のグループを作って話し始めていた。僕も早く行かないと……。焦りながら、人混みの中を進んで行った。


 誰か、、僕と話してくれるの人は居ないかな。僕と相性の良い人は居ないかな。


 空は少しずつ曇り始め、いつ雨が降ってもおかしく無い。早く、、誰かと話してLINEを交換しないと……。


 焦る気持ちが次第に強くなり、いろんな女子に話しかけに行ったが、話が全然続かず、気まずい顔をされ続けた。


 やっぱり僕には……結婚は無理なんだ。裕介と村上さん、周平と春香。周りはみんな付き合い始めてるのに……。


 僕だけずっと1人。花火大会も1人でハートの花火を見た。寂しい気持ちが強かった。もうこのまま帰ろうかな。


 遊園地の出口の方に向かおうとした時、


 「久しぶりだね……。拓海君」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。誰だろう……。顔を挙げると、高校生の時から全然変わっていない菜奈ちゃんが目の前で笑っていた。


「菜奈ちゃん……どうして、、」


「べ、、別に彼氏が欲しくて、、来たわけじゃないから、、誤解しないでよ!!」


 相変わらず、ツンデレな所は変わってない。10年後の未来で久しぶりという事は……。高校生の間で付き合うことが出来なかったのかな。


「ねえ、、、あの日の約束――」


 隣のグループが盛り上がっている為、小さな菜奈ちゃんの声が聞き取れなかった。


「ねえ、少し移動しよう」


 人混みを抜け、菜奈ちゃんの腕を引っ張りながら、観覧車の方に向かった。大人の菜奈ちゃんは僕の好きなタイプと殆ど一致していた。


「もしかして、、観覧車に乗るつもりなの?」


「うん。菜奈ちゃんと2人きりで話せるから……」


「べ、別に拓海君には会いに来た訳じゃないから、、その手、、、離してよ……」


 そう言われた僕は、手の力を少し弱めた。菜奈ちゃんは僕の手を振り解き、僕の隣を歩き始めた。


 脳裏に占い師の言葉が再生され始めた。


『未来を左右するキーワードは、好きな人に対して深追いしすぎない事ですね。距離を縮めようと努力すると、逆効果になるかもしれません。付き合っても程よい距離感を保った方が良いですね』


 ここは10年後の未来……。体育祭の前、僕は菜奈ちゃんに振られた。もしかしたら、、菜奈ちゃんは僕の事を嫌いかもしれない。今回のお見合いも、僕よりも良い人を見つけるために参加したのかもしれない。


「拓海君は、、、あの約束忘れたの?」


「約束?」


「うん」


 約束を忘れてしまった僕に少し苛立ちが見えた。


「体育祭の日、、私が言った事覚えてないの?」


「うん、、、ごめん」


「まあ私の事なんてもう忘れてるよね、、。今日、会えて嬉しかったよ。拓海君も東京に来てたんだね。また、いつか会おうね」

 

 今までのツンデレから、少し変わった表情と性格に戸惑い始めた。これが、、菜奈ちゃんの本当の気持ちなのかもしれない。


 菜奈ちゃんは、涙を流しながら、遊園地の出口の方に走り始めてしまった。菜奈ちゃん……。


 体育祭の約束って何の事なんだろう。僕から遠ざかっていく菜奈ちゃんの背中が恋しかった。




 突然、空が光り始めた。これは……雷!?お見合いを突如、豪雨が襲い、僕は急いで出口の方に走って行った。

 

 ゴロゴロ ゴロゴロ


 空に閃光が何度も走る。僕は、裕介と合流した。


「拓海、お見合いはどうだったの?」


「菜奈ちゃんと再会した……」


「水野さん?お見合いに来てたの?」


「うん……。体育祭、行かないと、、。菜奈ちゃんの言っていた約束の意味を分かってあげたい」


「じゃあ戻ろうよ……」


「うん」


 僕は、体育祭に行かないといけない。菜奈ちゃんとの約束が何なのか知るためにも……。


 お願い、、夢から覚めて……。お願いします。そう願い続けていると、この世界が暗闇に包み込まれた。



 


「拓海、拓海!!起きろ!!」


 裕介の声で目が覚める。ここはどこ?見覚えのある部屋のベッドで寝ていた。


「ここは……」


「お前の家だよ。それより、体育祭行くぞ!!」


「う、うん……」


 すぐ、服を着替えて、急いで家を出て行った。幻覚だとしても……最後に菜奈ちゃんが言いかけた言葉は何だったんだろうか、、。


 学校に着くと、4番目のプログラムまで終わっていた。


「次の競技は、3年の学年種目の全員リレーです」


 ギリギリ間に合った……。応援団長として、しっかり任務を果たさないと……。僕は、3年テントに走って向かった。

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