第26話 未来の結婚相手

 辿り着いた場所は、高いビルが沢山並んでいる都会だった。ここはどこだろう。辺りを見渡すと、東京スカイツリーが見えた。


 ここは東京!?どうして、東京に居るのか1つも分からなかった。もしかしたら拓海は東京に居るのかもしれない。少し歩き回ってみたが、高いビルと沢山の人が行き交ってる中で、拓海を見つけ出すのは難しい。


 どうすれば良いんだろう……。近くにあった居酒屋を覗いてみると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「少しクセになりそうな酒だなあ……」


「拓海、もうやめとけよ。明日、お見合いだろ?」


「そうだった、そうだったわ。あと1杯だけ飲みたい」


 拓海と見たこのない人達が数人、居酒屋で酒を飲んで騒いでいた。10年後の世界に来て、早速お酒を飲んでるのかよ。少し呆れていた。


 そういえば、、拓海の10年後の姿で印象的だったのは、金髪。今の拓海の髪の色はまだ黒髪。


 今日は何月何日なんだろう。持っていたスマホを確認すると、2033年6月1日と書かれていた。僕が初めて10年の世界に来る夢を見た時も確か……6月1日だったはず。


 同窓会の時には金髪に染めていたから、この2週間のどこかで髪を染めるのか……。僕は、拓海に夢から覚めるように言うため、少しずつ近づいて行った。


「拓海!!」


「お、、おお。裕介、どうしたんだよ、、」


「おい、誰と話してるんだよ……」


 そうか。夢の共有を行った僕の姿は、拓海にしか見えないのか……。


「え、、見えてないの?」


 拓海が頭を抱えて、怖そうな顔をしていた。きっと、パニックになったのだろう。


「裕介、何しに来たんだよ」


「そろそろ夢から覚めろよ」


「夢?ああ……この世界は夢の世界なのか。完全に忘れてたわ」


「体育祭始まってるぞ」


「ごめん。この世界があまりにも楽しすぎて……」


「早く帰ろうよ」


「待って。明日、お見合いがあるから、お見合いだけは参加してみたいんだよ」


「お見合い?」


「僕の結婚相手がどんな人か見てみたいんだよ」


 この世界の1日が現実世界でどれだけ時間が経っているかは分からないが、まあこのまま言い続けても無理かもしれない。


「分かったよ。お見合いが終わったら必ず帰るぞ」


「うん」


「ずっと1人で何話してるんだよ」


 近くに居た男の人が聞いてきた。


「いや、、何でもないよ」


 これ以上、話し続けると周りの人に怪しまれるかもしれない。飲み続けている拓海に20時に東京スカイツリーの前で少し話そうとだけ言って、別れた。




 夜、20時。スカイツリーのライトアップが始まり、綺麗に輝きはじめた。そのスカイツリーの前で拓海を待っていた。夜空には綺麗な星が輝き始めていた。


「裕介!!」


 170cmぐらいの大人の拓海が僕に近づいて来た。あの時は自分も大人だったからあまり身長差が気にならなかったけど……。自分が高校生のままだからだろうか。拓海がいつもより遥かに大きく見える。


 近くのカフェに行って、2人席で向かい合い、改めて現実世界に戻ってくるように伝えた。


「拓海、体育祭どうするつもりなの?」


「そりゃあ……戻らないといけないのは、分かってるけど、、。この夢の世界があまりにも楽しすぎて……。それより、裕介はどうして高校生の姿でこの世界に居るの?」


「水野さんにチョコレートを貰って夢の共有を行ったからだよ」


「夢の共有?どういう事?」

 

「まあまた後で話すよ。それより、明日のお見合いにはどうしても行きたいの?」


「うん。未来の結婚相手を確認したい。あと、今のままだとモテない気がするから、明日の朝髪を染めに行こうと思ってるんだ」


「もしかして、、金髪?」


「正解!!よく分かったね」


 だから、同窓会の日、拓海は金髪だったのか……。明日のお見合いが終わる頃、現実世界の時間はどれだけ進んでいるのか。早く帰らないといけないのに……。その夜、拓海の家に泊まった。





 次の日の朝。拓海と僕は、近くにある美容室に向かった。僕は、拓海が金髪に染める様子をずっと見ていた。偶にゲームとか、漫画を読みながら、時間を潰した。1時間ぐらい経って漸く拓海は金髪に生まれ変わった。


「おおーー!!かっこいいなーー」


 拓海は自分の髪型に惚れていた。あの真面目な拓海が金髪に染めるなんて……。でも、少しだけ似合ってるような気がした。


「カッコいいじゃん」


「ありがとう」


 そして、11時ごろ、お見合いの会場の遊園地に向かった。少し空が暗い。スマホのアプリで天気予報を見ると、降水確率80%と書かれていた。雨が降ったらどうしよう……。


 遊園地のステージの前には、多くの人で賑わっていた。可愛い女子も何人か集まっていた。


「それでは、まずは目と目が合ったら、積極的に話していきましょう!!」


 拓海は早速人混みの中に入って行ってしまった。僕は、お見合いに参加していない為、遊園地の入り口付近で待っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る