第25話 チョコレートの秘密

 体育祭、当日。3年のテントでは、重い空気が漂っていた。


「みんな……頑張ろうよ!!」


副団長の水野さんがみんなに向かって言うが、チームが上手く纏まらない。やっぱり応援団長の拓海が居ないと。


「拓海はどうしたんだよ!!」


 周平が僕に聞いてきた。拓海の家に行ってから1週間、学校に来ないどころか、LINEの既読も付かない。何かあったのか、少し不安になっていた。


「分からない……。どうしたら良いんだろう」


「拓海君に何かあったのかな……」


 明美もそんな事を言い始めた。このまま、体育祭が始まったら3年のモチベは上がらず、負けてしまう。拓海を連れてこないと……。


「僕、拓海の家まで行ってみようか?」


 僕が3学年全員に向かって、震えた声で言った。みんなの圧力を感じる……。


「お願いしても良い?」


「必ず連れて来ます」


 そう言って、僕は近くに居た担任の先生に外出の許可を貰い、急いで拓海の家に向かおうとした時、水野さんが


「岡本君」


 と名前を呼んでくれた。水野さんの所に行くと、見覚えのあるチョコレートを持っていた。


「そのチョコレート……」


 明美が転校して来た日、食べて眠ってしまったチョコレートに形が似ていた。


「これは、睡眠薬の入ったチョコレートなの」


「それ、明美が転校して来た日に家にあって、それを食べたら10年後の未来の夢を見たんだけど……」


「うん。このチョコレートは、私の両親が作ったの。このチョコレートを食べると、10年後の未来を誰でも見ることが出来るの」


 10年後の未来を見ることが出来るチョコレートなんて、そんな物作れるのかよ……。


「本当なの?」


「うん。更にもう1つ効果があるの。それは、近くにいる人の夢を共有する事が出来る」


 夢を共有?どういうことか意味が分からない。


「どういう事?」


「近くにいる人の夢の中に入る事が出来るの。夢を共有するときは、今の姿のまま夢の中に入る事になるの。岡本君は1回、夢の共有を経験してるはずだよ。明美ちゃんと一緒に」


 夢の共有……。明美と一緒に?そんな事、あったっけ?

僕の夢に明美が来たのか、明美の夢に僕が行ったのか。


 1回目、10年後に行った世界では明美は死んでいた。明美とは会っていない。


 2回目、意識不明の状態で見た10年後の世界でも明美は死んでいた。明美に会ってなんか……。


 


『久しぶりだね。ゆうくん』


 


 ふと、脳裏に見覚えのある明美の顔と声が浮かんできた。


 そうだ!!あの日、墓参りに行った日、僕は高校生の明美と会って話をしたんだ。あの時、僕は幽霊だと思い込んで居たけど、夢の共有で繋がっていたとしたら……。


「2人は繋がってたの?」


「うん。岡本君が意識不明の時、明美ちゃんが泣きそうな顔をしながら、私に睡眠薬の入ったチョコレートが欲しいって頼んできて、渡したの」


 そんな事があったなんて……。2人が仲良かったことも知らなかったし、僕が意識不明の時にそんな事が起きてた事も明美から聞いた事が無かった。


「そうだったんだ……」


「私、石原君に告白された時、理想の人と付き合って欲しいと思って、そのチョコレートを渡してしまったの。きっと、石原君は食べてしまったんだと思う。だから、このチョコレートを石原君の近くで食べて、夢の世界に行って、石原君を目覚めさせて欲しいの」


 何となく分かってきたような気がする。拓海は、今チョコレートを食べた事で、10年後の世界に行っている。その世界から僕が現実世界に連れて来ないといけないって事か……。


「水野さんは行かないの?」


「うん……。私は副団長だから。ごめんだけど任せても良い?」


「分かった。体育祭が始まるまでには拓海を連れて来るよ」


「ありがとう」


 僕は、チョコレートを受け取り、拓海の家に走り始めた。

 

 拓海の家に走っている途中、何故か、占いの言葉が脳内で再生され始めた。


『あなたは今年人生で1番試練の年ですね。大切な人を1人にしない事が大切ですね。友達も恋人も……』


 大切な人を1人にしない……。僕が1番明美の側にいてあげないといけないのに、、もし、何かあったらどうしよう。


 でも、周平と春香が居るから、何とかなるかもしれない。それより、今は拓海の家に行く事が最優先だ。


 走り始めて10分、漸く拓海の家に着いた。拓海の家は学校から意外と近い。


「はあ、、はあ、、」


 息を整えながら、拓海の家のインターホンを鳴らした。玄関に拓海のお母さんが出てきた。


「あの、、拓海を、、体育祭に」


「それが、何度も起こしても起きないの……。どうしたら、、良いの?」


「家の中に入っても良いですか?」


「良いですよ」


 僕は、拓海の部屋に直接向かった。拓海は気持ちよさそうな顔で寝ていた。どうにかして、現実世界に連れて来ないといけない……。


 僕は、チョコレートを1口で食べた。明美が転校して来た日と同じような眠気が急激に襲って来た。僕は、床に倒れるように寝転がった。

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