第23話 行きたい場所

「明美、大丈夫?」


 保健室で目を覚ました明美は、辺りを見渡して


「大丈夫」


 と言ってくれた。生まれつき、心臓が悪く、余命が少ない明美にとって全力疾走は無茶すぎたかもしれない。


「ごめん……。明美の事、何も分かってなかった」


「大丈夫だよ。元気だから!!私、ずっと体育祭もした事なくて……。文化祭は出来なかったから今度こそは体育祭してみたいの。学年リレーで全力で走りたい」


「でも……」


「私は大丈夫だから。心配しないで!!それより、やりたい事沢山言っていい?」


「そんなにあるの?まあ1つずつ叶えていこうよ」


「やっぱり、1番したい事はゆうくんとデートかな。どこでも良いから行ってみたい」


「分かった。考えとくよ。体育祭が終わったらデートに行こうね」


「うん」


 デートの約束をした僕は、保健室から出て6時間目の授業に合流した。数学の時間の間、ノートにデートの構成を書いていた。


 水族館とか……。でも、魚見るだけじゃ楽しくないか。じゃあ動物園かな。でも、動物見るだけも楽しくないかもしれない。明美と一緒に行って楽しいと思える場所ってどこだろうなあ。


 やりたい事リストには、遊園地と水族館ってあったけど……。どっちが良いのかな。


「岡本君、聞いてますか?」


 急に名前を呼ばれて冷や汗をかいた。


「は、はい」


 ノートを閉じ、教科書を開いて数学の授業に集中した。その日の放課後、拓海とデートの行く場所を聞いた。


「ねえ、デートどこが良いと思う?」


「うーん……レストランとか?」


 聞く相手を間違えたような気がした。レストランならいつでも行けるような気がする。もっと特別な場所に行きたい。欲を言えば、東京とか外国とか……。


「まあ自分で考えるわ」


「それより、僕、今日告白しようと思ってるんだ……」


 それはあまりにも突然で早かった。まだ水野さんと話し始めて1週間も経っていない。


「早くない?」


「僕も周平と裕介みたいに、青春を早く楽しみたいんだよ。もうすぐ受験も始まるし……。大学に行ったらもう会えなくなるかもしれない」


「成功する自信はあるの?」


「20%ぐらいかな。菜奈ちゃんって呼んだらいつも怒られるし、もしかしたら僕のこと嫌いかもしれない」


「大丈夫なの?」


「いや……不安だよ。もし、失敗して話さなくなったらって考えたら怖いし、足も震えてる。でも、覚悟を決めたんだ」


「頑張って」


「うん」


 次の日、学校に行くといつも居るはずの拓海の姿がどこにも無かった。水野さんはいつもと変わらず本を読んでいた。振られたのかな……。


 その日、学校に拓海は来なかった。LINEで何か慰めようと考えたけど、どんな言葉をかけたら良いのか分からなかった。こうなったら……直接会いに行こう。


 拓海の家に行き、インターホンを鳴らした。


「裕介君、こんにちは」


 拓海のお母さんが扉を開けて出てきた。中学の時から何回か拓海の家に行った事があった。拓海のお母さんとお父さんも共働きで、平日は殆ど家にいない事が多いと聞いた事があったが……。


「拓海は大丈夫ですか?」


「拓海、裕介くんが来てるよ」


 お母さんが呼んできてくれた。パジャマ姿の暗い顔をした拓海が外に出てきた。


「おはよう……」


「大丈夫?」


「昨日、菜奈ちゃんに振られた……」


 どんな言葉を返せば良いか分からない。重い空気が辺りを包み込む。どうすれば……良いんだろう。


「このまま、ずっと休み続けるの?」


「気持ちの整理が出来るまで……。ごめん。もう来ないで……」


 拓海は家の中に入って行った。体育祭当日まで残り1週間だったが、拓海は学校に1回も来なかった。LINEを送っても既読が付かない。

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