第22話 繋ぐバトン

 昼休憩が終わり、体操服に着替えた僕たちは、校庭に集まった。今日からいよいよ体育祭の練習が始まる。僕が出る競技は3つ。100メートル走、障害物競走、そして3学年全員で行う全員リレーだ。


「今日は全員リレーの練習をします。AチームとBチームに別れて作戦を立ててください」


 体育の先生の言葉で、僕たちは2チームに分かれた。明美と僕、拓海、水野さんは同じAチーム。周平と春香はBチーム。周平と春香に勝たないといけない……。周平は学年トップの速さらしく、50メートル走は6秒前半と噂で聞いた。きっとBチームは周平をアンカーにするはず。


 その周平に対抗できるアンカーは、自分のクラスには居ないような気がする。


「よし、じゃあ走る順番決めていくよ」


 このAチームを仕切るのは、団長である拓海だった。副団長の水野さんは隣で黙って見ていた。


「まず、アンカーなんだけど、菜奈ちゃんいけそう?」


「みんなの前でその呼び方やめてよ!!……まあどうしてもっていうならアンカーでも良いけど」


「ありがとう、じゃあアンカーね」


「はい、はい。分かったよ」


 いつのまにか水野さんのことを菜奈ちゃんと呼んでいたことに驚きが隠せなかった。アンカーを水野さんに任せても大丈夫なのだろうか。


「なんか、あの2人良い感じだね」


 隣の明美が僕に言った。偶に言い争いになることもあるが、やっぱり相性良いのかもしれない。


「うん」


「じゃあ、後の順番はくじ引きで決めるよ」


 小さな箱に数字が書かれた紙が入っていて、その紙の番号が走る順番らしい。走る速さとかその辺を考慮せずに決めるあたり、拓海らしいなと思った。


 くじ引きの結果、僕は15番目、明美が16番目だった。てことは……僕のバトンを明美が受け取るという事か。


「ゆうくん、頑張ってね」


「うん。必ずBチームに勝ってバトンを渡すよ」


 お互いのチームの走る順番が決まり、


 「位置についてよーい……」


 ピー


 笛の合図で第1走者が走り始めた。スタートダッシュは僕たちのチームの方が早い。僕たちのチームが少しリードしたまま、第2走者にバトンが渡った。それから、お互いのチーム順調にバトンが渡っていき、第10走者で拓海の番が来た。


「頑張れ、あと少しよ」


 走っている同じチームの人に声をかけながら、拓海はスタートラインに立った。走力の差もあってか、僕達のチームが10メートルぐらい負けていた。ここで追いついて欲しい。


 拓海は50メートル走で7秒前半を出した事があり、意外と速い。この差を詰めてくれるかもしれない。


「よし、いくぞ」


 バトンを貰った拓海は全力でBチームを追いかけた。相手のチームは前半に遅い人を置き、後半に一気に速い人で勝ちに行く作戦だった。この第10走者から少しずつ速くなっていく。


 ここで追いつかないと……。負けるかもしれない。一気に自分たちのチームの応援が盛り上がった。


「いける、いける」「頑張れ!!」「追いつけー」


 拓海はBチームのランナーに追いつき、次のランナーにバトンが渡った。まだ勝負は分からない。お互い良い勝負のまま、僕の番が来た。


 スタートラインに立ち、深呼吸をする。大丈夫。


「自分は速い……自分は走れる」


 そう言い聞かせ、バトンを貰った。少し前に相手チームが居る。追いつかないと……。追いついて、明美にバトンを繋げる。


 後半、一気にスピードを上げ、相手チームの隣に並んだ。これは勝てる……。


「ゆうくん、頑張れ!!」


 その声で僕の中のギアが1段階更に上がった。5メートル近く差をつけ、明美にバトンを渡した。


「全力で走って来い!!」


「うん……」


 明美は、慣れない走りで全力を尽くしていた。でも、相手チームの女子の方が圧倒的に速く、差が一気に開いてしまった。走り終わると僕の所に来て


「はあ……はあ……。ごめん」


 と何度も言っていた。


「大丈夫だよ。まだ副団長が居るから」


 そして、先にBチームのアンカーの周平にバトンが渡った。圧倒的スピードで差を一気に付けていく。水野さんがどれだけ頑張っても追いつかないよ……。


「菜奈ちゃん、頑張って」


 水野さんにバトンが渡った。


「だから、その呼び方やめろって言ってんだろ!!」


 足にエンジンが付いているかのような圧倒的なスピードだった。女子の速さとは思えない……。


「すごい……」


「菜奈ちゃんは中学で陸上部だったらしいよ」


 拓海が隣でそう言った。アンカーはグラウンド1周の200メートル走らないといけない。水野さんの走りは凄かったが、周平には勝てなかった。


 差は少し縮まったけど、圧倒的な差で負けてしまった。


「はあ……はあ……」


「菜奈ちゃん、凄いね。カッコ良かったよ」


「……べ、べ、別に嬉しく無いから」


 小さな声でそう言ったのが聞こえた。水野さんと話して、陸上部だと分かってアンカーにしたのか。


「ゆうくん、、助けて……」


 突然、明美が倒れた。僕は急いで明美の元に行き、保健室に連れて行った。

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