第21話 占い

 9月10日、土曜日の朝方。尾道駅で待っていると、黒い服を着た拓海が来てくれた。昨日の夜、尾道駅の近くにある占いの館に1人30分コースで1時間予約していた。


「おはよう、今日は何するの?」


 拓海にはまだ何も言っていない。「明日遊ぼう」とLINEで誘ったらすぐに「良いよ」と返事が来た。拓海はゲームが大好きだから、土日も予定を入れてないのだろう。


「占いに行こうと思って」


「占い?」


「うん。拓海、ジャンケンで負けて運無かったから、一緒に運勢を占ってもらおうよ」


「確かに……。でも、本当に当たるん?」


「自分も初めてだから、分からない」


 予約の時間になり、占いの館の中に入った。占いの館といえば、真っ暗な所で水晶玉だけが真ん中にあり、それで占うみたいなイメージを持っていた。


 でも、実際は違った。入ると、小さな部屋が沢山あり、そこに番号が書かれていた。入り口にその番号の部屋にいる占い師の特徴や名前が書かれていた。


「なんか想像と違うね」


 拓海が言った。こんなに占い師居るんだ……。予約した占い師のいる5番の部屋の前に来た。


「どっちから先に入る?」


 拓海が聞いてきた。僕も拓海も占いは初めてで不安の方が強かった。少し怖い人だったらどうしようか。いつ死ぬとか言われたらどうしようか。


「拓海が先に行ってよ」


「いや、提案したのは裕介だから……」


 自分が先に黒いカーテンを潜り、中に入った。


「こんにちは……」


「こんにちは」


 そこには、髪の長い明るいお姉さんが座っていた。恐る恐る椅子に座った。拓海も隣に座り、占いが始まった。最初に拓海の運勢を占ってもらうことにした。


「まず、こちらの紙に生年月日を書いてください」


 拓海は生年月日を紙の下の方に書いた。その紙をお姉さんに渡すと、タブレットで何かを確認した後、拓実の特徴を次々に言い始めた。


「あなたは、真面目で少し不器用ですね。でも、そのせいで、好きな人に対してずっと一途ですね」


 確かに拓海はいつも真面目で不器用な所が多い。ずっと一途なのも少し可愛いなと思いながら、話を聞き続けた。


「あなたの相性の良い人は、頑固で相手の意見を聞かない、自分の事は自分でするような人ですね。少し大変そうですね」


 頑固で相手の意見を聞かない人……。僕の頭に1人該当する人が浮かんだ。


「もう運命の人には出会ってますか?」


「うーん……。でも、今年は試練の年だから運命の人に出会えても大変な思いをするかもしれないね」


「そうなんだ……」


「未来を左右するキーワードは、好きな人に対して深追いしすぎない事ですね。距離を縮めようと努力すると、逆効果になるかもしれません。付き合っても程よい距離感を保った方が良いですね」


「分かりました」


 拓海の占いが25分ぐらいで終わり、僕の番が来た。拓海と同じように生年月日を書いて、お姉さんに渡した。


「あなたは、1つに対してのこだわりが強いですね。1つ絶対にやり遂げると決めたら最後まで諦めない。完璧主義というか、1つの事をしないと次に行きたくないみたいな感じですかね」


 その言葉を聞いて、僕の口角が少しだけ上がったような気がした。夏休みの宿題も宿題が全て終わらないと遊びたくない派であり、完璧主義な所はどこかあったのかもしれない。


「あなたの相性の良い人は、いつもノリで生きているような明るいタイプの女の子だけど、ずっと一途にあなたの事を思い続けてますね。1人が寂しいから、ずっとそばにいて欲しいと思ってる少し可愛い女の子ですね」


 それが、明美の事を指しているのか、静香の事を指しているのかよく分からなかった。


「もう少し詳しく教えて欲しいです」


「あなたが苦しい時や悲しい時に、一緒に寄り添ってくれる人であり、一緒にいて楽しい人ですね」


 明美も一緒にいて楽しい。そういえば、静香の事をまだよく分かっていない所があった。運命の人はどっちなんだろうか。


「あなたは今年人生で1番試練の年ですね。大切な人を1人にしない事が大切ですね。友達も恋人も……」


 1人にしない事か……。確かに大切かもしれない。


「ありがとうございます。次は、彼女と一緒に来ます」


「その時は相性を占いますのでいつでも来てください」


 そして、1時間の占いはあっという間に終わった。外に出て感想を話し合った。


「どうだった?」


「僕、最近、水野さんと話す時に胸がドキドキするんだけど、今日占い聞いて分かったよ」


「何を?」


「僕、水野さんの事好きだ。きっと僕の運命の人かもしれない」


 次の日、拓海はいつも通り、水野さんに声をかけ続け、昼ごはんを一緒に食べていた。2人とも相性良いのかもしれない……。


「ゆうくん、占い行ったの?」


 明美が僕に聞いてきた。


「なんで知ってるの?」


「拓海くんから聞いた。それで占いどうだったの?」


「秘密。また今度2人で行こうよ」


「うん。行きたい」


 その日の5時間目の体育の時間、ついに体育祭の練習が始まった。

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