第18話(閑話) 孤独
2023年8月25日、花火大会当日。私は1人で尾道駅に来ていた。空は薄暗くなっていた。
「今年も1人か……」
そんな独り言を言いながら、私はゆっくりと歩き始めた。
高校2年生の私には友達は殆ど居ない。授業中もいつも1人で受けている。寂しさはあるけど、別に……。
小さい頃は、人と話す事が好きだった。お母さんと色んな話をして盛り上がっていた。小学生の時も友達は沢山いて、毎日遊んで楽しんでいた。
小学校からそのまま同じ中学校に行った人が多く、中学生活も楽しかった。
こんな日々がずっと続けば良いのに……。そう思っていた。でも、私には1つの大きな夢があった。その夢に向けて、みんなと同じ高校には行かず、少し離れた高校に行く事になった。
誰も友達が居ない状態で迎えた入学式。始まる前に一列に並んだ時、後ろに居たメガネをかけた女の人に話しかけようと思ったが、緊張で声が出なかった。
今までずっと一緒に居た人が居ない。不安と緊張で身体中が震えていた。
入学式を終えた後のホームルーム中に自己紹介をしたが、知らない人だらけで頭が痛くなった。もう友達が出来ないかもしれない。
ホームルームが終わると、周りの女子達が集まって何か話していた。その輪に私も入りたかったけど、勇気が出なかった。もし、同じ中学同士のグループだとしたら、違う中学の私は場違いかもしれない。
そして、月日が流れた6月、私は勇気を出してそのグループの女子達に声をかけた。
「あ、あの……私も」
「ごめん、今忙しいから」
私が自分の席に戻ると、そのグループから笑い声が聞こえたような気がした。私の居場所はもう無いのかもしれない。不安になりながら、窓の外を見ると、見覚えのある人が体操服を着てグラウンドを1人で走っていた。
「あの時の……」
私がまだ小学2年生だった頃、困っていた男の子と話した思い出が頭の中を過った。間違いない、あの人だ。でも、名前も学年も分からない。
次の授業の間、ずっとグラウンドを見ていた。あの人の事を調べていくと、2年生の岡本裕介先輩だという事が分かった。話しかけることは出来なかったけど、ずっと見ているだけで幸せだった。
気がつけば、岡本先輩を見ていると、身体中が熱くなってくる。
そこで初めて私は気づいた。これは恋だと……。少しずつ孤独感も消えていき、先輩が外にいる時はずっと見続けていた。
自分から行動しないと……。ずっと私達の距離は変わらない。花火大会に行けば会えるかな。去年の夏も私は1人で花火大会に行った。
でも、結局、岡本先輩とは会えなかった。
今年こそは会いたいなあ……。そんな事を思いながら、1人で花火大会に来た。スマホで今の時間を確認すると、18時50分だった。そろそろ始まるかもしれない。
でも、お腹も空いている。ひとまず、屋台を見に行くことにした。焼きそばやポテトなど色んな食べ物がある中、まず最初に焼きそばを買った。
1人、花火が見える位置で立ちながら焼きそばを食べ始めた。ソースが濃くて美味しかった。周りを見ると、女子同士で浴衣を着て歩いている人達やカップルしか居ない。
1人で来る人なんて珍しいのかな……。カウントダウンのアナウンスが始まり、夜空に花火が打ち上がり始めた。
「綺麗だな」
1人で呟きながら、再び屋台の方に行った。ポテトを買って食べながら、歩いていると見覚えのある2人が歩いていた。
あれは確か……。岡本先輩の同級生だったような。
「春ちゃん、大事な話があるんだけど」
「何?」
「俺と付き合ってください」
花火大会で告白か……。なんかロマンティックだな。自分も告白されてみたいな。
「はい」
これで、2人はカップルか……。羨ましいなあ。ポテトを食べ終えた私は、椅子に座って花火をずっと見続けていた。
今年もハートの花火を1人で見るのかな。毎年、ハートの花火が終盤に打ち上がる。このハートの花火を見た人が将来の結婚相手という言い伝えがある。
私にはそんな良いパートナーが居ない。毎年、1人で見ているが心細かった。こんな気持ちになるぐらいなら、帰ろうかな……。そう思い、立ちあがろうとした時、1人で歩いている岡本先輩を見つけた。
これはチャンスかもしれない……。
「岡本先輩」
と声をかけた。その夜、ハートの花火を2人で見る事が出来た。久しぶりに最高の花火大会になった。
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