第17話 花火大会②

 予想外の再会だった。花火大会終盤、静香と2人で花火を見ることになった。海側に行き、1番綺麗に見える場所で花火を見ていた。


 静香とは、LINEを交換して以降、少しだけ話したが、会話はすぐに途切れてしまった。もしかしたら、将来結婚するかもしれない人だけど、まだ明美の事で頭が一杯だった。


「先輩、付き合ってる人がいるんですよね?」


「うん」


「先輩の好きな人ってどんな人なんですか?」


 答えにくい質問をされた。どんな答えを言えば、静香を悲しませないように出来るだろうか。一瞬の間に色々と考えたが、やっぱり正直に言うのが良いだろうと思った。


「明美は、優しくて可愛くて、でも病気を持っていてもうそんなに長くは生きられない。だからこそ、僕は明美が死ぬまで寄り添ってあげたい」


「明美さんもこんな良い人に愛されて嬉しいと思いますよ」


「そうかな……」


 少し褒められた僕は顔を赤くした。


「私はそういう優しい岡本先輩を好きになったんです」


「ありがとう」


「こうやって花火を見ていると、あの日の事を思い出しますね」


「うん」


 小学3年生の時、明美と転校することが寂しくて泣いていた僕を励ましてくれたのが静香だった。そういえば、翌年の花火大会の日に再会した気がする……。ふと、頭の中に映像が流れ始めた。



 

 明美と別れた翌年の花火大会。僕は、親と一緒に花火大会を見に来ていた。お母さんがレジャーシートを引いて席を確保してくれたお陰で、1番花火が綺麗に見える位置を取ることが出来た。


 お父さんとかき氷を買いに屋台に行った時、1人で歩いている静香とすれ違った。あれから、1回も会っていない筈なのに……。すれ違った時に一瞬であの時の彼女だと分かった。


 かき氷を買った僕は、お父さんに友達に会いに行くと言い、静香の元に向かった。


 静香は花火が見えない建物で囲まれている場所で1人黙ってスマホを触っていた。


「ねえ、これいっしょに食べようよ」


 僕は持っていたかき氷を静香に渡した。


「良いの?」


「うん。ぼくたちともだちだから」


「ありがとう」


 かき氷を一緒に食べていると、カウントダウンが始まり、空に花火が咲き始めた。でも、肝心の花火は見えず、音しか聞こえない。


「ぼくたちのせきに行こうよ」


「でも……」


「いいから、いいから」


 僕は静香の腕を引っ張りながら、人混みを掻き分け、自分たちの席に案内した。


「うわあ……綺麗」


 空に無数の花火が綺麗に咲いていた。その景色に静香は感動していた。


「ありがとう」


 そして、最後に大きな花火が夜空に上がり、花火大会は終わりを迎えた。


「本当にありがとう。また会おうね」


「うん」


 そして、僕達は別れた。また、翌年会えると思っていたが、それ以降会うことは無かった。





 あの日と同じ場所で花火を立って見ていた。いよいよクライマックスに入り、沢山の色の花火が一気に空に上がり始めた。


「私、学校でもずっと1人で……。お母さんもお父さんも仕事で帰ってこない日が多くて、花火大会も正直行きたく無かった。だけど、先輩に会えて、綺麗な花火を見せてくれて本当に嬉しかったです」


「自分の方こそ、あの日励ましてくれなかったら、僕はもっと落ち込んでいたかもしれない。本当に感謝してるよ」


 その時、夜空に大きなハートの花火が打ち上がった。

 

『そういえば、この花火大会では、終盤に大きなハートの花火が上がるんだけど、その花火を一緒に見た人が将来結婚する相手みたいな言い伝えがあるんだって』


 拓海がそう言っていたのを思い出した。やっぱり未来は変わらないのか……。隣を見ると、静香が嬉しそうな顔でハートの花火を見つめていた。


 最後に大きな花火が上がり、急に真っ暗な夜空になった。


「今日はありがとう」


 静香と別れ、1人になった僕は再び空を見上げた。静寂な夜空に無数の星が輝いていた。

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