第15話 それぞれの想い
明美の家に着くと同時にインターホンを押した。息切れが激しく、呼吸が乱れていた。少し落ち着かないと……。大きく深呼吸をすると、少しだけ落ち着いたような気がした。
「ゆうくん……どうしたの?」
明美が外に出て来た。白いTシャツにジャージを着ていた。少しの間、私服姿に見惚れていたら、明美が
「大丈夫?」
と心配してくれた。その言葉で我に返り、
「大丈夫」
と言った。
「中に入って休んでいく?お母さんもお父さんも居ないから……」
「いや、大丈夫。ただ、尾道の花火大会に誘おうと思っただけだから……」
「花火大会?」
「今週の日曜日の19時からあるらしいけど、一緒に行きませんか?」
心臓の音が早くなったのを感じたが、これが走った後だからなのか、好きな人の前だからなのか、緊張しているからなのか、よく分からなかった。
ほんの一瞬の沈黙が長く感じた。
「良いよ」
「本当に?」
「うん。でも、20時までね。20時30分から用事があるから……」
本来、花火大会は21時まである。その中の1時間、明美と過ごすことが出来る。それだけでも嬉しかった。
「じゃあ18時30分に尾道駅前で」
「分かった」
「じゃあ帰るね」
「花火大会に誘うためだけに来てくれたの?」
「うん」
「ありがとう。じゃあね」
明美が家に入っていくのを見届け、心の中でガッツポーズをしながら、ゆっくり歩いて家に帰った。
歩いて家に帰っていると、ズボンのポケットからLINEの通知音が聞こえて来た。歩道の端の方で止まり、LINEを確認すると3件のLINEが来ていた。まず、1番上に拓海と周平と僕で作ったLINEグループの「3班男子組」から2件来ていた。
たっくん「明日、裕介の家で遊ぼう」
シュウ「良いね。賛成!!」
明日、自分の家で遊ぶことが勝手に決まっていた。LINEグループの下に見覚えのあるアカウントから2件LINEが届いていた。
しずか「岡本先輩、花火大会一緒に行きませんか?」
静香からLINEがつい1分前に届いていた。嬉しさと罪悪感が僕の心を満たしていた。
ゆうすけ「ごめん」
という3文字を送って、また歩き始めた。今は、明美との日々を楽しみたい。もう18時を過ぎていたが、空はまだ明るかった。家に帰って、グループLINEの方に適当に「良いよ」と送った。
次の日の朝、周平と拓海が僕の家に来てくれた。
「遊びに来たよーー」
と拓海の声が聞こえた。拓海は何度も自分の家に来たことがある。家に来てずっとゲームをしていた日々が懐かしい。
「ここが裕介の家か」
周平は、文化祭で初めて仲良くなったから、自分の家に来るのは初めてだった。お母さんもお父さんも仕事のため、帰ってくるのは夜遅い。今日は思いっきり遊ぶことが出来る。早速リビングでテレビゲームを始めた。
「うわーまた負けたー」
「俺、このゲームの天才だわ」
周平と拓海がパーティーゲームをしながら遊んでいた。僕の家にはコントローラーが2つしか無いため、2人しかゲームが出来ない。負けたら交代という条件で仲良く遊んでいた。
「そういえば、裕介は誰と花火大会行くん?」
周平がゲームをしながら聞いて来た。退院して、3人で遊ぶことも増えたが、話す内容は殆ど恋バナだ。
「明美と行くことになったよ。周平は?」
「俺は……春ちゃんと」
春ちゃんというのは、春香の事だ。周平と春香は、シンデレラ役と王子様役をやった後、2人でカフェやレストランに行ったらしい。確か、10年後の未来でも良い感じだったなあ。
「お前、いつ告白するん?」
拓海が周平に聞いた。いつもは強気な周平が顔を赤くして、コントローラを床に置いて
「花火大会で告白するよ」
と言った。花火大会で告白か……。ロマンティックだな。そういえば、小学3年生の時の花火大会もお互い「好きだよ」と言い合ったけど……。あれは、本当に恋だったのかな。
今、思えば、自分は明美にちゃんと告白したことが1回もないことに気がついた。
「頑張れよ。そういえば、この花火大会では、終盤に大きなハートの花火が上がるんだけど、その花火を一緒に見た人が将来結婚する相手みたいな言い伝えがあるんだって」
最後に大きなハートの花火か。明美と見たいなあ。でも、明美は20時で帰ると言っていた。1人で見るのも寂しいなあ。
「そうなんだ。拓海は誰と行くん?」
周平が拓海に聞いた。拓海は下を向いて、
「1人で行く」
と小さな声で言った。
「まあ大丈夫だよ。花火大会で良い人が見つかるかもしれないよ」
周平が拓海を励ました。僕も
「運命の人はいつか見つかるから」
と言い、拓海を元気付けた。空気が悪くなった所で周平が別の話題に切り替えてくれた。再びゲームに熱中しながら、楽しんでいたら時間があっという間に過ぎて行った。
8月25日、尾道の花火大会当日。駅前に多くの人が集まっていた。尾道駅前で明美を待っていると、
「裕介ー」
と周平の声が聞こえて来た。周平は、白い変なマークが入ったTシャツに黒のズボンを履いていた。いつも通りの少し派手な服だった。
「周平もここで待つの?」
「うん。ここが1番分かりやすいからな」
18時30分、明美と会う約束の時間は訪れる。
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