第14話 タイムカプセル

8月22日、僕達3年1組は、全員教室に集まっていた。これから何が始まるのか。みんなが色々と予想していた。


「体育祭のリーダー決めとか?」


「夏休み中にする事かよ」


「それな」


 1週間前、まだ僕が病院で入院していた時、クラスのグループLINEに8月22日、教室に集まるように言われた。その時はまだ何をするのか分からなかったが、教室に来て何となく分かった。


 夏休みにクラス全員でする事……。あの10年後の未来の通りなら……。10時になり、学級委員が大きな箱を持って教室の中に入ってきた。そして、黒板にチョークで文字を書き始める。



 タイムカプセル作り



 10年後の同窓会で回収することになるタイムカプセル作りだった。その文字を見た瞬間、周りの人達が騒ぎ始めた。


「タイムカプセルって何するんだろう」


 拓海が後ろを振り向いて、僕に話しかけてきた。


「10年後の僕達に手紙とか書くんじゃない?」


「えー……。何書こうかな」


「ゆうくんはどんな事書くの?」


 明美が僕に聞いてきた。明美が交通事故で死んだ10年後の未来では、僕は暗い内容しか書いていなかった。あんな手紙書きたくないな。


「理想の自分になれているか聞こうかな。明美は?」


 僕は無意識に明美に聞いてしまった。明美は下を向いて、


「私の未来か……」


 と小さな声で呟いた。病院に入院していた間も、明美から自分が病気であることを言ってくれなかった。


 きっと誰にも言わないつもりなんだろう……。明美に残された時間は少ない。タイムカプセルを開ける時も明美は居ない。


 明美に聞いてしまったことを反省しながら、僕は前を向いた。


 明美が病気で死ぬ未来を知ってから、未来を進める覚悟は持っているが、まだ心の片隅で震えている自分も居る。明美も僕が目を覚ましてから、少し距離を置くようになった。


 LINEは1週間に1回話し、1日ずっと家で過ごす事も増えた。何か行動をしないといけない。思い出を作らないといけないのは分かっているが、この距離感を縮める事が出来ない。


「これから、紙を配っていくので、そこに10年後の自分への手紙を書いてください」


 学級委員がA4の紙を全員に配り始めた。明美も紙をもらうと、何かを書き始めた。何を書いているのか気になりながらも、自分の手紙に集中した。


 何を書こうか……。僕は、ボールペンで未来の自分に向けて書き始めた。10分ぐらい経って、漸く完成した。この手紙を10年後の自分がどんな気持ちで読むのだろうか。


 そして、手紙を学級委員の前にある箱に折って入れた。後は、自由に何でも入れて良いと言われたので、僕は家から明美から貰った手紙をタイムカプセルに入れた。


 箱に色んな絵や文字、みんなのコメントが書かれたタイムカプセルを校庭の大きな木の下に埋めた。


 明美がどんな手紙を書いたのか少し気になるが、それは10年後分かるだろう。タイムカプセルを埋め終わり、みんなが帰り始めた。


「祐介、また2学期に会おうね」


 拓海が手を振りながら僕に声をかけてくれた。


「うん」


「あ、そう言えば、今週の日曜日に花火大会があるらしいよ。村上さんと行って来たら?」


 そう言うと、拓海は走って帰って行った。花火大会か。僕達の関係性、明美の病気の事、色々と話すのには、良い機会かもしれない。


 明美を花火大会に誘おうと思ったが、もう校庭に姿は無かった。家に帰って、自分の部屋でスマホを開き、明美を花火大会に誘う言葉を考え始めた。


「今週の日曜日の花火大会一緒に行こうや」


 いや……違うな。こんな馴れ馴れしい文章だと嫌われてしまうかもしれない。20分ぐらい考え、色んな言葉を考えたが、LINEでは伝わらない。やっぱり直接言いたい。


 空がオレンジ色に染まり始めた頃、僕は家を出て、明美の家に走って行った。大きな歩幅で、息を切らしながら、無我夢中で明美の家に向かった。

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