第2章 未来を進む覚悟
第12話 現実逃避
タオルで顔の汗を拭きながら、僕達は、明美の墓まで歩いた。結局、この世界で2ヶ月が経ってしまった。やっぱり僕はもう死んでいるのだろうか。胸に手を当てると、微かに心臓の動く音が聞こえてくる。
やっぱり僕は、現実世界でも生きているのかもしれない。でも、現実世界に戻って、明美に会うのが怖い。僕は、この夢の世界で生きていく事を決めた。
「周平、まだー」
「あと少しだから。頑張ろう、春ちゃん」
春香と周平が前の方で仲良く話しながら、歩いていた。明美の墓は、駐車場から30分歩いたところにあるらしい。僕も隣にいる拓海も暑さで顔が死んでいた。
「何で、こんな昼間に行かないといけないの?」
拓海が、死にそうな声で僕たちに言った。今の時間は、13時。最も暑い時間帯だ。同窓会の後、みんなでLINEグループを交換していた。
そのLINEグループで、墓参りに行こうとなったが、中々予定が合わず、結局この地獄の時間帯に決まってしまった。
歩き始めて30分、漸く明美の墓の前に着いた。村上明美と大きな文字が書かれていた。この墓を見て、改めて明美が死んだと実感した。
みんなで墓をブラシや雑巾で拭き、草刈りを始めた。
「ねえ、明美ちゃんが私達の学校に転校してきた理由知ってる?」
突然、春香が僕たちに聞いてきた。
「親の都合とか?」
拓海が言った答えに春香は首を横に振った。親の都合じゃ無いのか……。高校3年の6月、明美は突然、転校してきた。この時期に転校してくるのかと疑問に思ったが、結局聞くことが出来ていない。
「じゃあ、俺たちに会いたかったから?」
「そんな訳無いでしょ。でも、少し惜しい」
僕たちに会いたかったという答えが惜しい。明美が転校してきた理由……。なんだろう。僕も答えようとした時、
「正解は、ゆうくんに会うためでしたー」
春香に正解を言われてしまった。僕に会いたかったから?意味が1つも分からない。僕に会うために転校してきたのか?
そういえば、明美が転校してきた日は6月。高校3年の6月に転校してくるなんて、どういう意味かよく分からなかった。
『君が好きだからだよ』
誰かの可愛らしい声が聞こえてきた。その声は、春香ではないとすぐにわかった。辺りを見渡しても、拓海と周平、春香の3人しか居ない。
「裕介、どうした?」
「誰かの声聞こえなかった?」
「春香の声じゃない?」
拓海がそう言ったが、明らかに違う。
『ねえ、早く気づいてよ』
また、女の人の声が聞こえてきた。どこに居るんだろう。辺りを見渡すと、僕の後ろに異様な気配を感じた。後ろを振り向くと、少し背の低い女性が立っていた。
もしかして……幽霊!?怖くなった僕は、後ろにゆっくり下がって行った。
「裕介、どうしたんだよ。急に……」
「え、、幽霊見えないの?」
「幽霊なんて居るはずないだろ」
「裕介君、疲れてるんじゃない?」
拓海達に笑われた。みんなには、あの幽霊が見えてないらしい。少しずつ僕の方に近づく幽霊。その姿に既視感があった。
『何で逃げるの?ゆうくん』
名前を呼ばれた瞬間、思い出が一気に蘇ってきた。いや、ありえない。死んだ人が現れるなんて……。
『久しぶりだね。ゆうくん』
目の前に、いつも見てきた高校生の明美が立っていた。どういう事だろう。
「何で……」
『ゆうくんに大事な話があって来たの』
大事な話?
『ゆうくん……元の世界に戻ってきて。お願い』
元の世界?2ヶ月過ごしたからだろうか。この世界が本当の世界だと思い始めていた。
そういえば、僕はあの日、トラックに轢かれて……。
でも、元の世界に戻る方法も分からないし、元の世界に戻っても明美の死が待ち受けている。それが、怖い。
「無理……」
『私、ゆうくんに会うために転校してきたの』
明美は、全てを話してくれた。病気のこと、余命、転校してきた理由について……。
追記
引き続き応援コメント、ハートよろしくお願いします。これから、2〜3日に1話投稿するペースで行こうと思います。もし、書く時間があれば、1日1話投稿も出来るかもしれません。投稿頻度が少し落ちるかもしれませんが、完結まで付いて来て欲しいです。よろしくお願いします。
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