第11話 変わらない未来

 朝食を食べ終えた僕は、自分の部屋に戻り、ベッドの上に座り込んだ。1回目の10年後の世界とどこが違うのか、部屋中を調べた。


 机の上に青い日記が置いてあった。これは、今もずっと書き続けている日記だ。その日記の表紙には『2033年6月』と書かれていた。机の下の方を見ると、大量のノートが積み重なっていた。


 1回目の時は、6月15日の明美が交通事故に遭った日から、日記は途切れていた。それが、明美を助ける事が出来た事で、日記が今も続いているのか。


 日記をパラパラとめくると、同窓会の事も書かれていた。


 6月6日

 今日は高校の同窓会に行ってきた。久しぶりに拓海や周平、佐藤さんに会う事ができた。文化祭の時に一緒に映画撮影をした3班で色々と懐かしい話で盛り上がった。でも、やっぱり寂しい気がする。明美が居ないと……。タイムカプセルを開けると、高校3年生の時に書いていた日記と1枚の手紙が入っていた。いつでも見れるようにこの日記の最後のページに貼っておきます。



 最後のページを見ると、1枚の紙が貼られていた。



ゆうくんへ

 手紙の返事、遅れてごめんね。私もずっとゆうくんのこと好きだよ。ずっと一緒に居たかった。でも、私には時間が無いの。今はその時間を少しでも長く出来るように頑張ってるから、またいつか会おうね。結婚しようっていう約束、ちゃんと覚えてるからね

明美より



 この手紙は、転校してすぐに明美に渡した手紙の返事だった。小学6年生の時に届いた手紙。初めて読んだ時、この手紙の意味を理解出来なかった。というより、理解したく無かった。


 小学校で3年間、ずっと一緒に居た僕は、なんとなく分かっていた。


 明美は、昔から重い病気を持っていたことを……。


 机の下に置いてあった青い日記の中に2023年と2024年に書かれたノートも何冊かあった。


 適当に読んでいると、3月15日の日記に明美の死について書かれていた。




 


 2024年3月15日

 明美は、静かに天国へ旅立った。僕と会えて良かったと、明美は死ぬ直前、何度も言っていた。





 涙を流しながら、青いノートを閉じ、ベッドに倒れ込んだ。やっぱり……まだ治ってなかったのか。明美が転校してきた日、僕は明美の病気はすでに治ったと思っていた。


 だから、明美と結婚できる。明美と結婚したい。そう何度も思い込んでいた。10年後の未来が交通事故で死ぬ未来だったら、その未来を変えれば良い。そう思っていた。


 でも、結局、明美と結婚する未来は叶わない。元の生活に戻っても、3月に明美は病気で死ぬ。その未来は絶対に変えることは出来ない。


 現実世界に戻った時、明美が死ぬのが1番怖い。いつ死ぬのか分かっていても、その日が近づいてくるのが怖い。


 現実世界に戻りたくない。明美に会いたくない。このままずっと夢の世界で……。




 

 それから、僕は夢の世界で静香と僕たちの子供の翔平と過ごし始めた。何だか少し寂しい気がした。でも、案外楽しかった。このままでも良いかもしれない。






 時は流れ、8月。


 拓海と周平、佐藤さんと僕の4人で明美の墓参りに行くことになった。


 その日から、現実世界に戻り、未来を進める覚悟を決めることになる。





【第1章 未来を変える覚悟】完

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