第10話 運命の日
6月15日、午前1時を過ぎたにも関わらず、僕はスマホのライン画面をずっと見つめていた。
「明日の朝7時に明美の家に行くから、一緒に学校まで歩いて行きませんか?」
昨日の放課後に送ったLINEに既読が付かない。もし、このままこのLINEに気付かなかったら、、明美がいつ家を出るか分からない。朝早く家を出て、車に轢かれるかもしれない。
不安が頭の中を過ぎり始める。緊張で眠れない僕は、ベッドの上で、スマホゲームを始めた。LINEだけ見てても時間は進まない。少し気分転換しよう。
スマホゲームのログインボーナスを貰っていた時、LINEの通知が来た。ゲームのタブを閉じ、LINEの画面を開いた。明美からだった。
「いいよ。明日、楽しもうね」
その言葉を見た僕は、一安心した。あとは、明日、学校まで一緒に行ければ、未来は変わるかもしれない。
そして、運命の朝は来る。6時のアラームで目を覚まし、ベッドから起き上がり、洗面所で顔を洗った。いつもなら8時までは寝ているが、今日だけは完全に目が覚めていた。リビングに行くと、お母さんが弁当を作っていた。
「ゆうくん、もう起きたの?」
「今日、少し早く行くから」
「分かったわ。パンは冷蔵庫にあるから、自分で取って」
冷蔵庫にあったクリームパンを食べ、服を着替え終わり、急いで鞄に必要な物を入れて、家を出た。
「行ってきまーす」
お母さんの「行ってらっしゃい」は微かにしか聞こえなかった。明美の家は思ったより近かった。走って5分で着くだろう。少し早く明美の家に着いた僕は、家の周りを歩き回りながら、明美が出てくるのを待った。
「おはよう」
いつもの可愛らしい声が聞こえてきた。いつもは気楽に返事できるのに、今日は少し震えた声で
「おはよう……」
と言った。
「緊張してるの?」
「うん……」
2人で学校までゆっくり歩き始めた。車の通りも少なく、静かな朝だった。2人で文化祭の話をしながら、ずっと歩き続けた。
「ねえ、僕達ってどういう関係なの?」
少し心に余裕が生まれ始めた僕は明美に聞いた。
「うーん……」
歩行者の信号は青で点滅していた。
「この信号渡ろうよ」
行けると思って僕は明美を置いて走っていった。ふと、後ろを振り向くと明美が横断歩道の真ん中でしゃがみ込んでいた。
明美がしゃがみ込んでいる理由が分からなかった。僕は、急いで明美の元に走っていった。信号は赤に変わっていた。
「明美、明美、大丈夫か?」
「う……うん」
どこか体調が悪いのかもしれない。どうしたらいいんだろう。この時、僕には明美しか見えていなかった。
「――!!」
誰かの声が聞こえた気がした。ふと、顔を上げると、遠くの方からスピードを上げながら僕達の方に向かってくるトラックが見えた。
早くどうにかしないと……。このままだと明美が死んでしまう。トラックはもう僕達の目の前まで来ていた。もう時間がない。
横断歩道を1人の男の人が走ってきた。倒れた明美を持ち上げ、
「早く逃げるぞ……」
と言ってくれた。僕も逃げようとした時、地面に落ちていた小さな石に足が躓き、転けてしまった。
大きなブレーキ音が響き渡った。目の前に迫り来るトラックは、自分よりはるかに大きく、まるで怪獣のように感じた。
明美は何とか助かったし……。もう良いや。
死を覚悟した僕の頭の中に明美の顔が浮かんできた。そういえば、明美は今日が誕生日だったな。明美を助けるのに夢中で忘れていた。
「たんじょうび……おめでとう」
僕が目を閉じた瞬間、体が宙を舞い、地面に強く叩きつけられた。
痛い……。声にできないくらい痛かった。
そして、僕は意識を失った。
____
「あなた、早く起きて。今日は遊園地に行く日だから」
暗闇の世界に聞こえてくる女性の声。その声に聞き覚えがあった。その言葉でやっと目を覚ました僕の目の前には、静香の顔が映っていた。
僕はトラックに撥ねられて意識を失ったはずなのに。もしかしたらこれは夢の世界なのかもしれない。
でも、夢の世界だとしても、この部屋、ベッド、静香の顔に見覚えがあった。ふと、体を起こし、カレンダーを見ると2033年6月20日と書かれていた。
このカレンダーと部屋を見て疑惑が確信に変わった。僕は、10年後の世界にまた来てしまった。
静香が自分の部屋から出ていき、僕は立ち上がり、本棚にあった赤いアルバムを取り出した。あの文化祭の日、もし、運命を変える事が出来ていたら……。明美は助かっているかもしれない。
アルバムのクラス写真に明美の写真があった。前に来た時には写真はどこにも無かった。やっぱり明美は生きてるんだ……。あの日、助ける事が出来たんだ。
でも、明美を助ける事が出来たのに、何故、静香と同棲しているのか。明美と結婚すると約束してたのに……。
もしかしたら、明美は別の人と結婚しているのかもしれない。色々と考えていると、隣の部屋から
「パパーー」
という可愛らしい声が聞こえた。少し嫌な予感がした。自分の部屋から出て、リビングに向かうと、小さな子供が椅子に座って食パンを食べていた。
「ゆうくんの朝ごはんも準備してるから、早く食べてね」
状況が理解出来なかった。静香の左薬指に指輪が見えた。もしかして、僕達は結婚しているのか!?
前に来た時はまだ指輪を付けていなかった。子供なんて当然居なかった。それが、明美を助けた事で未来が変わってしまった。
一体どういう事なのか、理解が出来なかった。
追記
ハート、応援コメント引き続きよろしくお願いします。これから、毎日投稿が難しくなり、少し日にちが空くかもしれないので、小説のフォローもよろしくお願いします。
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