第9話 未来を変える覚悟

2人で自転車を押しながら、歩く夜道に沈黙が走っていた。これから、明美の家に行って泊まると考えるだけで頭が真っ白になりそうだ。何か話さないといけないのに、、いつもより緊張していた。


「文化祭、楽しみだね」


 明美が僕に話しかけてくれた。


「うん」


「私、文化祭初めてなんだよね……」


「中学とか高校で文化祭行った事ないの?」


「うん。いつも予定があって行けれなくて……」


 今回が明美にとって初めての文化祭。もし、文化祭の当日の朝に交通事故に遭って死んだら……。文化祭を楽しむ事が出来ない。


 明美を守らないといけない。その責任がさらに重く僕の背中にのしかかる。


「ねえ、私達、LINE交換して無いよね?」


 LINEを交換していない事をふと思い出し、僕達はQRコードを使ってLINEを交換した。クマのスタンプを送信すると、明美もウサギのスタンプを送ってくれた。


 これからはいつでも話したい時に話す事が出来る。


「もうすぐ、着くよ」


 横断歩道を渡った先に大きなマンションが見えてきた。


「あのマンションが私の家」


 明美が駐輪場の位置を教えてくれて、僕も奥の方に自転車を置いた。明美は手前の指定の場所に自転車を置いて、僕が自転車を止めるのを待ってくれた。


 中に入り、階段を登り、4階の奥の部屋で明美が止まった。鞄の中に入っていた鍵で扉を開け、


「入っていいよ」


 と言われ、中に入った。玄関を抜け、広いリビングの周りを見ながら、明美の部屋に入った。明美の部屋には、ウサギや猫のぬいぐるみが沢山ベットの上に置いてあった。


 女の子らしい可愛らしい部屋だ。床に座り、カバンを置いて周りを何度も見渡した。


「先に風呂入ってくるね」


「うん」


「絶対に勉強机の引き出しは開けないでね」


「分かった」

 

 明美は、部屋を出て風呂場に向かった。明美の部屋に1人残された僕は、勉強机の椅子に座った。絶対に開けないでと言われると、開けたくなる。


 今は風呂に入ってるから、大丈夫なはず。罪悪感は少しあったが、好きな人が持っている物に興味があった。細い目つきをし、ニヤリと笑う犯罪者のような僕は、1番上の引き出しを開けた。


 中に入っていたのは、1冊のノートだった。「日記」というタイトルが表紙に書かれていた。日記には、特に何も書かれていなかった。


 日記の中に1枚の紙が入っていた。



 

 あけみちゃんへ

また、あおうね。ぼく、あけみちゃんのことだいすきだから。おとなになったら、けっこんしよう。

 ゆうすけより




 

 この手紙は……。小学3年生の時に明美と行った花火大会が終わって、すぐに書いた手紙だった。この時から、僕は結婚しようとか言っていたのか。


「風呂から上がったよ……って引き出し開けたの!?」


 引き出しを開けて、手紙を読んだ事がバレてしまった。明美は少し顔を赤くしていた。隠し通していても、怒られるかもしれない。僕は、仕方なく本当の事を伝えた。


「うん。1番上だけ」


「はあ……良かった。その手紙、ずっと大切にしてたんだよ」


 意外と明美は怒らなかった。2番目と3番目の引き出しに何か見られたくない物があったのかな……。


「大切にしてくれて、ありがとう」


「あの日、急に転校するとか言ってごめんね。本当はもっと早く伝えたかったけど……。転校するとか言ったら嫌われると思って言えなかったの」


「言ってくれただけ、嬉しいよ」


 あの日、僕達は約束した。いつか結婚しようと。




 

 僕がまだ小学3年生だった頃、明美と2人で花火を見にきていた。屋台の金魚すくいやくじ引きで盛り上がりながら、かき氷を食べ、花火が打ち上がるのを待った。

 

「かき氷、めっちゃおいしい」

 

彼女が美味しそうにかき氷を食べている姿が可愛かった。かき氷を食べ終えた彼女が突然、涙を流し始めた。

 

「わたし、もっとゆうくんといっしょにいたかった」

 

その言葉の意味が一瞬理解できなかった僕は、

 

「まだらいねんもさらいねんもあるよ」

 

と言った。何で泣き始めたのか分からなかった僕に彼女は、


「わたし、てんこうするんだ」

 

 と震えた声で言った。

 

ヒューー ドーン

 

花火が打ち上がり、涙を流す彼女の横顔が花火よりも強く印象に残った。花火が終わり、僕は彼女を抱きしめた。

 

「ぼく、あけみちゃんのことすきだよ」

 

「わたしも」

 

予想外の答えに少し動揺しながらも、抱きしめ続けた。

 

「ぜったい、またあえるよ」

 

「うん……。わたし、ゆうくんのことだいすきだよ。ねえ、しょうらいぜったいにけっこんしようよ」

 

「うん。やくそくするよ」






 それから、僕も風呂に入り、僕はベットの下で、明美はベットで寝る事になった。部屋の電気が真っ黒になった。


 もう0時を過ぎているのに、何故か寝れない。心臓の音がまだ聞こえてくる。


 もうすぐ文化祭……。明美を助ける事が出来なかったら、どうしよう。こんな僕に助ける事が出来るのか?そもそも交通事故がいつ起きるかも分からない。


 こんな僕に……。不安が一気に頭の中を駆け巡る。僕には無理かもしれない。


「だい……じょうぶ」


 明美が寝言でそう呟いた。どんな夢を見ているのか分からないが、少しだけ気持ちが温かくなった。まだ、僕は明美に自分の気持ちをちゃんと伝えれてない。


 文化祭で告白する。いつか結婚するために……。覚悟を決めた僕はゆっくり目を閉じた。

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