第6話 昼食

「大丈夫だったの?」


 隣の席に座った明美が僕を心配してきた。


「大丈夫だよ。寝込んでいただけだから」


「良かった……1日中心配したよ」


「心配させてごめんね」


 明美が自分のことを心配してくれたことがめちゃくちゃ嬉しかった。


「今日、朝のホームルームで文化祭の班を発表するらしいよ。私達一緒だと良いね」


 僕が休んだ金曜日に決めたのは、活動内容だけで、文化祭の班は今日発表されるのか。あの未来が本当に起きるのなら、僕達と拓海、桐生君と佐藤さんが同じ班だ。男装姿の明美はどれだけ可愛いのだろうか。


「うん」


「明美ちゃん、おはよう」


「おはよう」「おはよう」


 いつの間にか明美の周りには数人の女子が集まっていた。まだ転校して2日しか経ってないのに……。小学生の時も明美の周りにはいつも友達が沢山いた。友達が少ない僕とは正反対のように感じた。


 明美の周りの人たちを見ていると、1人だけ見覚えのある人が居た。長い髪、整った美しい顔、体型も細く、プリンセスのような見た目をしている彼女は……。でも、もしかしたら違うかもしれない。見ないふりをしながら、1時間目の準備を始めた。


 朝のホームルームの時、文化祭実行委員会から班のメンバーが発表された。1班から順番に名前が呼ばれていき、僕は10年後の未来で見た光景と全く同じ桐生君と拓海、佐藤さんと僕と明美の5人で3班だった。


「私達、同じ班だね」


「うん」


 明美と同じ班になれた事に運命を感じながら、手紙をそっと机の中に入れ、文化祭実行委員の話を聞いた。文化祭の映画に関する連絡事項が終わり、1時間目までの休憩時間の時に、


「今日、3班で一緒にお昼ご飯食べようよ」


 と明美が誘ってきた。桐生君と佐藤さんと仲良くなるチャンスだ。僕は、「うん、良いよ」と言い、1時間目の準備を始めた。


 そして、4時間目の授業が終わり、明美の席の周りに拓海と桐生君、佐藤さんが集まった。近くにあった机を繋げて大きな1つの机にして、その周りを囲んで座った。各自、机の上に弁当を置き、食べながら自己紹介が始まった。


「じゃあまず自己紹介から始めますか。僕は石原拓海です。裕介とは3年間同じクラスだったので仲が良いです。よろしくお願いします」


 拓海から時計回りに自己紹介をする流れになった。


「私は佐藤春香です。よろしくお願いします」


 さっき、明美の近くに集まっていたプリンセスのような美しい見た目をしていた彼女が佐藤さんだった。


「俺は桐生周平。よろしくな」


10年後の桐生君とほとんど性格も顔も変わっていない。人って意外と10年経っても変わらないものだなと思いながら、明美の自己紹介と僕の自己紹介が終わり、映画の配役を決めることになった。


「私、王子様したい!!」


 王子様役に最初に名乗りを挙げたのは、佐藤さんだった。


「村上さんは王子様役はしたくない?」


 拓海が明美に聞いた。明美は、


「シンデレラ役がゆうくんなら、王子様役したい」


 と顔を赤くしながら小さな声で言った。その言葉を聞いた僕は少しだけ嬉しくなった。10年後の未来を変えないためにも、僕は嫌々シンデレラ役に立候補し、佐藤さんは


「明美ちゃん、頑張ってね」


 と言って後ろで踊るモブキャラAをやってくれる事になった。拓海も桐生君もモブキャラB、Cを演じる事が決まった。


「じゃあ明日から練習しよう」


 拓海がそう言い、班の文化祭への話し合いは終わり、昼休憩が終わるまでの間、どうでも良い話で盛り上がった。少しだけ桐生君と佐藤さんと仲良くなれた気がした。


 これから女装して映画撮影か……。未来を変えないためには、仕方ない事だが、まだ抵抗感がある。




 

 そして、6時間目の授業が終わり、僕は教室で1人、休んだ時の授業の復習を始めた。家に帰ったら僕は必ず勉強をしないため、宿題や自主勉強は学校の教室で1人でやるようにしている。


 18時を過ぎ、下校時間が迫る中、扉が閉まっている孤独な教室の外から足音が聞こえてきた。誰か忘れ物をしたのかもしれない。


ガラガラ


 教室の扉が開き、扉の方を見ると、同じクラスで見た事ない女子生徒が立っていた。そして、僕の席の方に近づき、彼女は大きく深呼吸をした。彼女から出た言葉は予想外の言葉だった。


「岡本先輩……好きです。付き合ってください」


 彼女の激しい呼吸の音が微かに聞こえた。彼女は下を向いたまま、僕の顔を見ようとしなかった。


 突然の出来事に状況が飲み込めない。彼女の顔をしっかり見た瞬間、ある記憶が僕の脳に甦ってきた。


 彼女は、明美が転校してくる1日前にも僕に告白をしてきた。その時、僕は明美の事が忘れられないから無理だという理由で断ってしまった。





追記

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