第5話 新しい未来へ

 司会の合図と共に名前が呼ばれ、名前を呼ばれた人が前に出て、タイムカプセルに入れた物を受け取りに行った。

 

「岡本君」

 

 名前が呼ばれ、前に出ると、司会の人から、青いノートと1枚の手紙を受け取った。そのノートの表紙には「日記」と書かれていた。これは、僕がつい最近まで書いていた日記だった。



 

6月1日

転校生に村上明美がやってきた。まさかの再会に驚きが隠せなかった。初恋相手とこんな所で再会するなんて僕達は運命の赤い糸で結ばれているのかもしれない。明美も僕の事を好きみたいだ。初恋相手と結婚できる確率は1%と聞いたことがあるが、僕達はその僅かな1%に選ばれたのかもしれない。



 

 今、改めて見ると恥ずかしい内容だなと思いながら、次のページを捲ると、次の日も似たような内容の事を書いていた。でも、日記は6月15日で終わっていた。


 2年間書き続けた日記が途絶えるなんて……。何かあったに違いない。6月15日は、明美の誕生日の日であり、文化祭当日の日だ。


 そして、最後のページに「死にたい」と太く大きな文字で書かれていた。その言葉を見た瞬間、僕は持っていたノートを落としてしまった。

 

「大丈夫か?」

 

 拓海が心配してくれた。


 僕は「大丈夫……」と言いながら、そのノートを拾った。震えた手で手紙を読み始めた。



 

10年後の自分へ

 あなたは、村上明美という女性を覚えていますか?覚えてますよね。いや、絶対に忘れるはずが無い。2023年6月15日、村上明美は交通事故に遭って死にました。その現実を受け入れられてますか?自分はまだ出来てません。何故、自分が生きているかも分かりません。もう死にたい、明美の所に行きたい。そう何度も思っています。でも、死ぬのは怖い。なんか矛盾してますよね……。もし、6月15日に戻って未来を変えれるなら、僕は絶対に明美を助けに行く。そして、明美と結婚する。



 

 この後も暗くて辛い言葉がずっと続いている。もう読む力は残っていなかった。身体中の震えと涙が止まらない。明美が……死ぬ!?そんな事、考えた事も無かった。


 つまり、この世界は明美が死んだ10年後の世界だったのか。僕の同棲相手が明美じゃ無かった点、卒業アルバムに明美の写真が無かった点の全てが繋がった。


 スマホの暗証番号が0615だったのは、明美の事を忘れないためだったのか……。

 

「裕介、大丈夫か?」

 

「うん……」

 

「チョコレートでも食べて元気出せよ」

 

 拓海が丸いチョコレートを渡してくれた。このチョコ、何処かで見たことがあるような気もしたが、意識が朦朧としていた僕は、そのチョコレートを口の中に入れてしまった。その瞬間、視界が真っ白になり始めた。




____


「大丈夫?」「大丈夫?」

 

 慣れ親しんだ声で僕は目を覚ました。目の前には、涙を流していたお母さんの顔があった。目覚めた僕に、お母さんが心配そうな顔で見つめていた。

 

「3日間も目覚めなかったから心配したよ……。本当に目覚めてくれて良かった」


 やっぱりあの世界は、夢の世界だったのか。夢が長かった理由は、3日間ずっと眠り続けていたからか。でも、夢にしては少しリアルすぎる気もするが。

 

「うん、大丈夫。それより、今何月何日?」

 

「今日は6月3日の日曜日の午後3時よ」

 

 この夢が正夢になるのは少し怖いが、どうせ夢だから気にしなくても良いと思っていた。次の日、学校に行くと、文化祭の話で盛り上がっていた。

 

「裕介、おはよう」

 

 まだ金髪では無いいつもの拓海が声をかけてくれた。

 

「久しぶりだね」

 

「久しぶり?木曜日に僕達会ったやん」

 

 そうか……。この現実の世界は、まだ3日しか経っていないのか。

 

「ごめん、ボケてたわ。なんでもない」

 

「それより、裕介が休んだ金曜日に文化祭でウチのクラスがやる事が決まったよ」

 

「何するの?」

 

「映画撮影だよ」

 

 映画撮影のタイトルは「男女逆転シンデレラ」。あの夢は、本当なのかもしれない。そうなると、6月15日に明美が死ぬのも……。怖くなった僕に

 

「おはよう」

 

 何も知らない明美が僕の隣の席に座った。その姿が見れて、少しホッとした。


 中学生の時に、お母さんに『初恋の相手と結婚できる確率は1%』と言われた。初恋なんて叶わないということは頭で分かっていたけど、僕は明美が大好きで諦める事が出来ない。明美と結婚する事を何度も妄想し、願い続けた。


 もし、明美が死ぬ未来を変える事が出来れば、明美と結婚できるかもしれない。僕は、明美を助けたい。


 明美が死ぬ運命の日(文化祭)まで残り12日。

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