第146話 朝のホームルームにて
「メルヴィン中隊長。首尾を教えてくれ」
「はっ」
近衛騎士団の本部、マチルダ副団長の執務室にメルヴィン-サイクス中隊長が訪れていた。
メルヴィンはエリザベスの誘拐事件の捜査の実質指揮を取っている男であり、インストスの事件の時以来、事件の捜査についてほぼ全権を預けてきた。
カイトの説得でカミーユの供述が得られた後、カミーユに指示を出していた首謀者確保に向けて根拠地の礼拝所と思われる建物を調査させていたが、今日騎士団が踏み込んだのだ。
「既にお聞きだとは存じますが、エリザベス皇女殿下誘拐の指示を出したとして、聖ビルクス修道院の元孤児院院長のテムスを捕らえました」
「ご苦労。元孤児院院長のテムス本人で間違いないか?」
「指示を受けていたカミーユに確認を取りました。間違いないとの事です」
「念の為、そいつを知っている教会関係者にも確認をとれ。
それと、その他にも捕らえた者がいるそうだが、そちらは?」
「修道士と修道女とされる者が合わせて3名確保いたしました。全員40歳前後と思われます」
「名前は?」
「男2人はコルデオとタシケント、女はキャサリンと名乗っております」
「テムスとどう言う関係か聞けたか?」
「全員修道士だとの事ですが、少し怪しいですね」
「どう怪しい?」
「どこの教会に居て、どういう経緯で礼拝所に来たのか?すぐ答えられたのはコルデオだけでしたので。
テムスから教会に依存しない礼拝所をやりたいと誘いを受けたと言うのですが、真っ当な修道士がそんな誘いに乗るとは思えませんしね」
「確かにな。彼らが首謀者だと確信できる根拠になるものが必要だ。
3人は独房に入れろ。互いに会話をさせないようにな。口裏を合わせられる可能性がある。それと独房で分ければ不安になる」
「個別には分けていましたが独房にはしておりませんでした。すぐにそのようにします」
「個別に得た情報をうまく使って誘い水にするんだ。
良い情報が揃ったら私がテムスに直接尋問しよう。報告は密にな」
***********
魔法学園の学舎は朝が一番輝く時。
朝は東向きに建てられた学舎に日差しが降り注ぎ、赤い瓦屋根と漆喰の白い外壁が鮮やかなコントラストで登校してきた生徒を出迎えてくれる。
魔法学園の学舎は綺麗だな・・・。今日もぼんやりとそんな事を思いながらこの魔法学園の学舎と寮や馬車停留場、その他の施設があるエリアをつなぐ学舎門をくぐった。
いつも一緒に登校しているルークは今日は寝坊気味だったので置いてきたので今は僕一人だ。
「カイトおはよう!」
僕の後ろからアビーの声がする。振り返ると駆け足でアビーが近づいてきていた。
「おはよう、アビー。今日は一人?」
「ウインライトとマーガレットは近頃一つ後の馬車に乗る事が多いのよ。ラブラブな感じなんだよね」
「えっ!?ウインライトとマーガレットが??マーガレットはゲイル兄様推しだったのに」
「それがね、先日のダブルデートの時に仲良くなった見たい」
「僕をずっと監視してた探偵団で??」
そういやマーガレットとウインライトの視線が気にならなかったのはそのせいかな?
「あの二人は船の上で・・・キスしてたのよ・・」
「えっ!?見たの?」
「見たのよ。望遠鏡っていう筒を使って」
マジか・・・。まああの二人はもともと仲が良かったからね。ハーレムの夢が・・・。いやそんな夢はないけど。
「だからあれから一人で登校になる事が多いのよ。カイトも今日はルークと一緒じゃないのね」
「ルークは忙しい身だからね。寝坊したみたい」
「忙しいって・・・寝坊するほどお盛んなのかしら」
僕はそこまで言ってないよ!!
お盛んなんだろうか?ルークと殿下が会うのは休みの日だけだったとはおもうのだけど・・。
「そういう事に興味があるの?」
「カイトはど、どうなのよ?キスより先・・・」
よし!話題を変えてみよう。
「そうそう。エリザベス殿下誘拐の首謀者が捕まったみたい。ただ、本当に事件に関与していたかはまだわからないから、カミーユの恩赦はお預けみたい。昨日僕に騎士団から報告があったんだ」
「そうなの!?少し前進ね。早く解放されると良いんだけど・・クラスメイトが磔とか絶対に嫌だから。」
「そうだね。あとは騎士団の手腕にかかってるね」
*****
「さて、みなさん先日お話ししたように学園祭まで1ヶ月を切りました。学園祭では屋台の飲食店と舞台での出し物をクラスの力を合わせて行うことになっていますが、それを今日は1限目を使って決めていきます。
まずは、学園祭実行長と副実行長を決めましょう。皆さんに一人ずつこちらに来て誰がクラス長に相応しいか名前を書いて投票してください」
今朝のホームルームでロビン先生から学園祭の具体的な話が出てきた。学園祭実行長とかやりたく無いなあ。僕は神奉祭に合わせて行われる剣術大会にも出たいし・・・。
「先生!学園祭実行長って何をするんですか?」
マーガレットが先生に説明を求める。確かに何をするのかよくわからないまま選ぶ事はできないね。
「実行長と副実行長には、どんな屋台を出すにするのか?どんな出し物をするのかを決めてもらいます。
また、その準備や各生徒の役割を決めていかなければならないのですが、それも最終的には実行長と副実行長で決めてもらいます。決定方法はお任せします。
最終決定者は実行長になりますので、学園祭において実行長の指示には原則従うようにしてください」
「実行長は独裁者になるわけですか?」
マーガレットがすごく飛躍した事を言い出した。
「独裁者として振る舞えばそうなりますね。しかし、独裁者的に物事を進めるには強い強制力が必要ですよね。処罰だとかクラスから追い出すとかそんな力は実行長にはありませんので、そんなことをしても裸の王様ですよ。
ですので上手くクラスが力を発揮するように導く手腕が必要になります。
そうそう。各クラスの屋台と出し物は採点され、それぞれ最優秀クラスの生徒には賞金1万セルが贈られます。
実行長がどのようにクラスをまとめ結果を残すのか?責任は重大です」
ウインライト「ええ!!1万セル!!!すげえ!槍が買えるぜ!」
リオニー「1万セルあったら美味いエール飲み放題やがな!!」
マーガレット「1万セルで特注のドレス仕立てるからね。是非ともうちの仕立て屋を利用してよ!」
シャルロット「クラス長はカイトなの。神の御心なの」
「はい。皆さん静かに。屋台と出し物の両方で学園1番になれば合わせて一人2万セルです。その成否を大きく左右するのが責任者である実行長ですので皆さんは真剣に投票するように」
**************
農村に転生してから始まる魔法学園ドラマ。 カイトとゲイル 〜悪役転生に憧れて〜 アーカムの住人 @yas862
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