第144話 面会

「ルーク。エリザベス殿下に話してみてくれた?」


次の休みの日、僕たちは近衛騎士団城の応接室に来ていた。もちろんカミーユと面会するためだ。カミーユと面会さえできれば僕の詐欺的トークでどうにかしてやるのだ。


「エリザベスは俺に任せるってさ。カミーユと話をして、俺が必要と判断すれば皇帝陛下に掛け合ってみてくれる事になった。

俺もカミーユと話してみなければ、恩赦が本当に良い事なのかはわからないしな。首謀者の話をしたとしてもカミーユが改心してないなら恩赦はさせない」


「わかった。それでいいよ。シャルロットと話してわかったんた。カミーユが何を大事にしているのか。必ず首謀者を聞き出して見せるよ」


そんなふうに2人で今日の事を話していると、マチルダ副団長が応接室に入ってきた。相変わらず艶のある黒髪を後ろで束ねているのがとても似合っている。


「待たせたね。団長からも許可が出たので、今からカミーユとの面会場所へ案内させよう。彼らを案内して」


「はっ!!」

一緒に来た騎士が僕たちを案内してくれるようだ。


そうして、僕たちはカミーユと6畳ほどの狭い部屋でカミーユと面会する事となった。


そこにはカミーユがやつれて傷だらけ状態で座っていた。

目は虚で、手首には手枷が嵌められているが、その手枷によって擦れたのだろう、手首からは血が滲んでいた。

かなり痛々しい姿だ。ここで酷い扱いを受けているのが一目でわかる。

これが日本であれば取り調べでここまで酷い状態にするなどあり得ない。もしそのような事を目撃すればすぐに裁判所に訴え出るところだが、ここは日本では無い。皇帝の治める地なのだ。


「カミーユ。僕たちがわかる??」


「・・・」

カミーユの目は虚で僕たちを捉えているはずなのに見ようとしていない。


「辛い思いをしてたんだね。今日はカミーユに話があってきたんだ」


「・・・」


やはり反応なく、虚な状態のカミーユ。


「シャルロットの事なんだ」


「しゃ、、シャルロット!?シャルロットが••シャルロットがどうしたんだ」


カミーユの目が見開く。相当シャルロットの事が気になっていたのだろう。

僕の予想通りだ。カミーユはシャルロットに惚れている。(誰が見てもわかることだけど)シャルロットの話を出せば答えてくれると思っていた。


「僕達の事はわかる??」


「カイト-ドレインと・・ルーク・・だね」


「そう。君のクラスメイトだよ。シャルロットが気になるのかい?」


「・・・シャルロットの事って、な、なに?」


「シャルロットと君のことで話をした。シャルロットは君は神の御心に従っただけだと言うんだ。君は神の御心に従って皇女殿下誘拐に加担したのかい?」


シャルロットで吊り出しておいて一気に核心に迫る!これだね。


「・・・」


あれ、黙り込んでしまった。


「神の御心は、シャルロットによると神がその意思を声として人に伝えるのだと言ってたけど、シャルロットはその声は聞いた事がないって言ってた。では神の御心はどうやってわかるの?」


「神の御心は神御心だ」


「カミーユは神の声を聞いたのかい?」


「・・・」


「聞いてないよね。僕は神の声を聞いたよ。神は頭の中に直接語りかけてくるんだ」


事実を織り交ぜつつ揺さぶりをかける。ダゴン神の声を聞いたのは事実だからね。僕に伝えた声は皇国を滅ぼすみたいなことだったけど・・。


「・・・聞いたのか?神の声を」


「そうだね。聞いた。インストスという街でね」


「神に祝福される者・・・。カイト、お前は・・僕なんかよりずっと神に愛されているんだろうな・・・」


ダゴン神から滅ぼすと言われる事が愛や祝福ではないとは思うが、勘違いしてくれてるので僕としては大成功だ。


「カミーユは聞いていないんだよね。神の声を。じゃあ神の御心は誰かから伝えられたって事だよね?」


「・・・」


「実は誰から神の御心について聞いたかは、すでに知っているんだ。シャルロットに聞きいたからね」


「シャルロットは関係ない!!!!」


「そうだね。シャルロットは皇女殿下誘拐には加わっていないよ。だけど、シャルロットがその指示を出した者の事を知っているとしたら、皆どう思う??」


「シャルロットは関係ないんだ!!僕が、僕だけがやったんだ!!信じてくれ!!」


「そうだとしても、君次第でシャルロットが疑われてしまうんだ!!」


シャルロットをお前と同じ目に合わせるぞ作戦が始動した。作戦というか脅しだね。もちろんそんな事をするはずもないんだけど、カミーユはビビってくれるだろう。


「・・・そんな。シャルロットは関係ないんだ。本当なんだ。」


「シャルロットは君を助けるために首謀者の話を僕に伝えてくれた。でもこの事を僕が近衛騎士団に話せばシャルロットが容疑者になるんだよ。

だから君から話して欲しい。君に今回のエリザベス皇女殿下誘拐の手伝いを命じたのは誰だい?」


「そんな・・・神様。僕はどうしたら」


フフフ・・これは落ちたな。嘘つき名人の僕にかかればカミーユを落とすなどわけはない。

フフッ 最後の一手はこれだ!!


「今から僕が伝える話は、君もシャルロットも救う話だよ。今日ルークが来ているのは君を救うためなんだ。

神の御心はどっちにあると思う?

二人を救うアイデアを持ってきた僕なのか?君に指示を出し君やシャルロットを使い捨てにしようとしている孤児院の院長なのか」


「それは・・・!!シャルロットは関係ないんだ!!わかったよ。話す!話すよ」


「僕に神の御心があるのは自明の理だね。だったら近衛騎士団に話をして欲しい。でも今じゃない。

僕はシャルロットに君を助けて欲しいと懇願されている。君が真実を話すというのなら僕はまずエリザベス殿下を救った英雄ルークを通じて皇帝陛下に恩赦を嘆願しようと思っているんだ。それから話すということでどうかな?」


「恩赦••僕は許されるという事??」


カミーユが僕の隣に座っているルークに視線を向けた。ルークの表情はわからないが恐らくかなり真剣な顔をしているはずだ。カミーユが恩赦に値するのかを考えているだろう。


「もし恩赦が認められたらね。シャルロットがそう願っているから僕は手伝っているだけだ」


「・・・僕は恩赦はいらない。その代わりシャルロットは捕まらないと約束して欲しい」


「何故だ!?お前は命が惜しくないのかよ!!」

ずっと僕の話を聞いていたルークが僕より先に声を荒げた。


「教会を裏切る事になるんだ。命はいらない。でもシャルロットだけは助けて欲しい。いや、カイト!シャルロットを幸せにしてやってくれ!!それだけでいいんだ!!」


カミーユの言葉には涙が混じっていた。熱い気持ちが伝わってくる。


「お前、、シャルロットが好きなんだな•••わかるぜ。その気持ち。

俺もエリザベスのためになら命を差し出してもいい。そう思ってる。

正直、俺はお前の行為を許す事はできない。でもな。誰かのために命を賭けた奴を憎む事はできない。

わかった俺がエリザベスに伝えて皇帝陛下にお前の恩赦を嘆願してもらう!任せとけ!!」


「いいんだ。僕の命なんていいんだ。シャルロットを幸せにしてくれれば」


「ルークもこう言ってるし、恩赦が出るかはわからないけど僕も近衛騎士団に掛け合ってみる。その結果がどうなろうと騎士団に首謀者のことを話して欲しい」


「シャルロット••。シャルロットさえ幸せならそれでいいんだ••」


カミーユの声は涙で濡れていた。



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