第142話 騎士の競技
コロシアムにファンファーレが鳴り響く。
「本日はこの競技大会のために皇室よりエリザベス皇女殿下が来賓されております!!では皇女殿下からのお言葉になります。皆様お静かに拝聴ください」
エリザベスは観覧席から少し進み出た場所に立ち声を張り上げる。
「グローリオン皇国の皇女エリザベスです!」
場内から歓声が響き渡る。
人々は皇女殿下の登場に大騒ぎだ。
エリザベスの精一杯の声は最初の一瞬だけコロシアムに響き渡ったが、すぐにこの歓声にかき消されてしまった。
この広いコロシアムではほとんど観客に言葉が届く事はないだろう。しかしエリザベスはそんな事は気にせず言葉を続ける。
「近衛騎士団は皇国の安全と平和を守るために日々鍛錬を積んでいます。その鍛錬の成果を披露できる場に多くの市民が集っていただけた事に感謝いたします。
そしてこの大会で競技に参加する近衛騎士団の皆さんは皇国の更なる発展と安定のために日々磨いた技と力を思う存分披露してください。良き競技を期待しております」
皇女殿下の挨拶が終わっても場内の歓声は鳴り止まない。
続けてファンファーレが鳴ると、競技スペースに準決勝の騎士達が入ってくる。
近衛騎士団の騎士たちは頭から足先まで白銀の鎧を身につけているのだが、チームがわかるように赤と青のタスキをかけていた。
そしてそのタスキにさらに黄色のタスキをつけているものがいる。勝敗に関わるエースと言う役割の者なのだろう。
レースは僕たちの席側の直線からスタートして左回りで3周して決着がつく。
直線の距離は150mほどだろうか? カーブはもっと長く200m以上ありそうだ。なので勝負の多くはカーブの中で行われるだろう。
合わせて一周は800mくらいだろうか? 1週は競馬よりかなり短い距離になる。
インコースに赤いタスキの騎士が5騎、アウトコースに青いタスキの騎士が5騎縦に並んだ。アウトコースの青チームは10mほどスタート位置が前で、両チームの列の間の距離は20mほど離れている。
※※スタートの位置は以下
イン:紅紅赤赤赤
中中:
外中:
外外: 蒼蒼青青青
※※紅は赤のエース 蒼は青のエース
突然、騎士たちの頭上に火の玉が飛び上がると、それがスタートの合図の魔法だったのだろう。騎士たちが一斉に馬に鞭を入れ走り出した。
予想通り外側の青チームが内側を走る赤チームの前に出ようと、前3騎が中央寄りに寄せにかかるが、後ろ2騎=エース(黄色いタスキ)はその外側を真っ直ぐ進む。
「おお!!すごい勢いで走り出したぜ!!!」
ルークが大はしゃぎだ。騎士が馬に跨って一斉に走り出した迫力はなかなかのものだ。
赤チームは先頭の1騎が猛烈にスタートダッシュをして青の先頭より前に陣取る事ができたが、続く2騎は外側からやってくる青の3騎に合わせるように外側によっていく。赤のエース2騎はその内側を駆け抜ける作戦だ。
※※スタート直後の位置
イン:紅紅 赤
中中: 赤赤
外中: 青青青
外外: 蒼蒼
※※紅は赤のエース 蒼は青のエース
青チームも赤チームも先頭3騎は手に長い棒を持っており、それで相手に突きを放ったり、殴りつけたりするわけだ。鋼の鎧を着ているとしてもその衝撃はかなりのものだろう。
青チームの方が駆け寄って行く分勢いがあるように見える。
騎士達が各々長棒を振りまわすが、そのうち1人の青タスキの騎士が突き出した棒をもろに受けて赤の騎士がよろけてしまい自身の長棒を手放してしまった。
いきなり武器を失った騎士は守る事しかできなくなる。
「すごい迫力だな!!槍じゃなく棒だとしてもあの棒が直撃すれば騎乗に慣れていない俺なら簡単に落ちてしまうだろうな」
ルークがそんな事を言ったからか?わからないが、コーナーに入る前に武器を失った赤チームの騎士は集中的に攻撃されて落馬してしまった。
「うわ!!本当に落ちた!!」
「鎧を着てても落下の衝撃は防げないからね。今の落ち方だと結構なダメージを負ったかもしれないよ」
「可哀想なの・・」
勢いにのる青チームが一気にエース2騎を含めてインコースに押し寄せる。
コーナーはインコースを走るほうが距離が短くなるので当然皆が良い位置取りをしようと混戦になるのだ。
赤チームのエースがその混戦から抜け出すように前に出ようとするが、青チームの先頭の一騎が前に塞がり出る事ができない。
それどころか、赤のエース達の進路を塞いだ青の騎士がスピードをゆるゆると下げ始め、逆に外側を青のエース2騎がスピードを上げて駆けて行く。
イン: 紅紅青 赤
中中: 赤青蒼蒼
外中: 青
「青のあの騎士卑怯じゃないのか??赤のエースの前に出てわざとスピードを落としてるぞ」
「相手の妨害をするのがこのレースの特徴だからね。全く卑怯じゃないと思うけど?」
「そ、そうか。そう言われればそうだな」
第1コーナーを出た時点で先頭は赤だが勝ち負けに影響するエースでは無い。その次は青のエース2騎となったので俄然青の方が有利だろう。
次の直線では青が一騎が落馬して数は同数になるが、 第2コーナーまで先頭の順位は変わらないままだ。
イン:紅紅青蒼蒼 赤
中中:青赤
外中:
外外:
「よっしゃ!!青が一騎、赤のエース騎士に棒を持たれて引きずり落とされたな」
「長棒はうまく当てないと相手に取られる危険性もあるんだね。とは言っても木剣ではリーチが短いし難しいね」
第2コーナーでは先頭に出ようとする青のエース馬と赤の先頭馬とがデッドヒートを繰り広げることになった。
コーナーに入るや否や赤の先頭馬がスピードを下げると、青のエース馬2頭は外側に膨らんで抜きにかかる。しかし、赤の先頭は長棒での牽制が上手くなかなか前に出ることができなかった。
「赤が一頭エースでもないのに逃げてたのは、青のエース封じのためか。なかなかやるなあ」
「そうだね。最初はインコースが有利かと思ったけど、インコースは前が塞がれると逃げ場がなくなるデメリットもあるんだね。赤が一騎だけ先頭を走らせたのは青が外から上がってきた時の対策だったのか」
後続は逆に赤のエースの頭を押さえていた青1騎がスピードを下げたところを赤のエース1騎が外側から見事に抜き去ることに成功した。
「おお!!赤のエースが青を外から抜き去った!!」
「これで、少しは赤にもチャンスが出てきたかもしれないね」
第2コーナーが終わった時点で先頭から、赤(普)-青(A)-青(A)-赤(A)-青(普)となった。
イン:紅青紅 蒼赤
中中:青赤 蒼
外中:
直線は速度を下げると簡単に交わされる可能性があるので、各馬スピードを上げて第3コーナーまでは順位が変わらず。
第3コーナーに入るとまた先頭の赤がスピードを緩める。その外側を青の2頭が追い抜きにかかる。
エースはスピード重視のため長棒は持っていない。青のエースは先頭を走る赤の騎士の棒攻撃を剣で応戦する。
「先頭の赤がなかなか上手いな。完璧にスピードコントロールして押さえてるぞ」
「そうだね。棒の扱いも相手を牽制するのに有効な使い方をしているね」
コーナー出口までその応戦は続き、結局コーナーでも順位は変動なかった。
イン:紅 青 紅 蒼赤
中中: 赤 蒼
外中:
しかし、直線に入ると青のエースの2騎目が俄然スピードを上げる。
そして、前の2頭を抜き去ってしまったのだ。
「うわ〜〜青の2番目のエースは今まで仕掛けてなかったのに」
「おそらく馬も良いんだと思うよ。一気に抜き去ったから赤の騎士も対応できなかったんだ」
第4コーナーは、青(A)-赤(普)-青(A)-赤(A)-青(普)と青のエースが先頭で突入した。
先頭の青のエースはコーナーでもスピードを緩めることは無い。そのまま後続の赤1騎を引き離しにかかる。
イン:赤青 紅 赤 蒼
中中: 紅 蒼
外中:
「これは決まったかもしれないぞ。青のエースの馬は他よりも明らかに早いぜ」
「そうだね。あとは逃げ切るだけだし」
第5コーナーに入って赤のエースが3番手の青のエースを捉え、次の直線で抜き去るが万事急須。第6コーナーを超えても先頭の青のエースが1位をキープして最終直線を走り抜けた。
※※ゴール時の位置
イン:青 赤 蒼
中中:赤 紅 蒼紅
外中:
青チームの勝利だ。
ルーク「すげえ!!これは楽しいぜ。馬と技と戦略の3つが必要だしな」
僕「楽しかったね!!ルークの言う通りだよ馬が早いだけではなく、騎士の技術も戦略も必要だから面白い!しかも騎士同士の実戦に直結する競技だね」
シャルロット「すごかったの。でも痛そうなの」
僕「そうだね。落馬はとても痛いと思うよ。でも騎士の本分は戦だからね。怪我は覚悟しないと」
シャルロット「シャルロットは騎士にはなれないの・・。」
ルーク「シャルロットは卒業したら何をしたいんだ?」
シャルロット「カイトのお嫁さんなの」
僕「ははは・・」
ルーク「そ、そうか・・かんばれよ」
シャルロット「うん。カイトに好きになってもらうの」
僕「ま、まずはシャルロットの事を知らないとね・・」
ルーク「でも面白いなこの競技!俺も騎士になったらこの競技に出るぞ!そのために名馬が欲しい!」
僕「頑張ってお金貯めなきゃね。あっ。もう一試合の準決勝の騎士が入ってくるみたいだよ」
コロシアムにファンファーレが響く
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