第141話 神の御心とは

船から見るロードライズ川は青い空からの光を受け青く輝き、ロンドアダマスの皇城はその青の狭間に浮き上がり幻想的な美しさを醸していた。


ルークと殿下は2人で眺めの良い船の艦尾の方へ向かったので、僕とシャルロットは船の中央付近からその美しい皇城を眺めている。


「カミーユの事なんだけど、何故、近衛騎士団に目をつけられたと思う?」


僕は皇城を眺めながらそんな問いをシャルロットに投げかけた。


「カミーユは殿下の食事に睡眠薬を入れたと疑われてるの」


シャルロットは景色を見ずに僕の腕を持ちながらそう返答する。


「カミーユが殿下の食事に睡眠薬を入れたのではと言う話を聞いて、シャルロットはカミーユが神の御心に従ったと思ったということだね?」


「うん。カミーユは神の御心に従ったの」


「どうしてそう思うの?シャルロットは神の御心を聞いた事はあるのかい?」


「シャルロットには神の声は聞こえないの」


「じゃあ何故カミーユが神の御心に従ったと思うの?」


「・・・わからないの」


「僕は神の声を聞いた事があるよ」


「!!?神様の声を? カイトはすごいの!」


僕の言葉にシャルロットは驚きの表情を見せてそして満面の笑みになる。


「その神の名はダゴンて言うんだ」


「ダゴン??」

突然知らない神の名を聞いたのだろう。困惑した声だった。


「大いなる神の僕とされるク・リトルリトル神は知ってる?」


「ク・リトルリトル神・・・その神様は知らないの」


「じゃあクトゥルフ神は知ってる?」


「クトゥルフ神!?・・・クトゥルフ神は大いなる神が御身を分けた神様なの。どうして知ってるの?!カイトはやっぱりすごいの」


クトゥルフ神の名を聞いたシャルロットはまた驚いた表情で僕を真っ直ぐに見つめる。


「シャルロットは知ってるんだね。どこで知ったの?」


「孤児院の院長先生に神様について教えてもらったの」


「クトゥルフ神にはさらに下の僕の神がいて、名をダゴンと言うんだよ。

そして、僕はダゴン神の声を聞いたんだ」


「神の声を聞けるのは・・神の申し子なの。カイトは神の申し子」


「凄くなんてないよ」


「カイトとキスがしたいの。だめ?」


シャルロットが僕の腕を引き顔を近づけてくる。

僕はシャルロットの瞳を覗き込むけどキスはしない。


「僕とシャルロットと結ばれるとすれば、それはお互いが好きになってお互いが結ばれたいと思わないとダメだと思う。神様はそんな事まで口出ししないから」


「カイトの事は好きなの」


「・・・ありがとう。僕はシャルロットの事は嫌いじゃない。でも、シャルロットの事を深く知ってるわけでもないからね。今すぐ結ばれたいとは思わないんだ」


「カイトは好きになってくれないの?」


「近衛騎士団がカミーユを捕まえた理由はもう一つあるんだよ。彼らはカミーユが修道院で知り合った首謀者にそそのかされて行動に移したと思っている。それを調べるためさ」


「修道院・・は関係ないの。神の御心なの」

シャルロットの目が少しくすんだような気がした。何か不安を感じたのだろうか。


「何か知ってるんだね?」


「・・・・」


「神様がエリザベス皇女殿下を誘拐しろと言ったの?シャルロットは神の声を聞いたのかい?」


「神の声を聞ける人は特別な人だけなの」


「シャルロットは神の御心を聞いた事がないのに、何故カミーユは神の御心に従ったと思うのかな?」


「わからないの」


「誰かが神の御心だと言って、エリザベス皇女殿下を誘拐をカミーユに手伝わせたんだね?そして、シャルロットもその人を知ってるね?」


「それは言えないの。神の御心を授けられた人の事は言えないの」


「僕も神の声を聞いている。シャルロットは僕より、孤児院の人が聞いたと言う神様の声を信じるんだね?」


「・・・そうじゃないの」


「その人の言う事は本当に神様の御心なのかな?僕が神の声を聞いたのは本当だよ。

相反する内容なら、嘘を言ってる事になるよね」


「・・・」


「その人の嘘の神の声を信じるのであれば、僕はシャルロットと縁を切るしかないよ」


「ダメ!それはダメなの・・・」


「じゃあ嘘の神の声を伝えた人を教えて」


「嘘じゃないの。カイトは神に祝福されてる・・・正しいの」


「カミーユの行動は正しい?僕はそうとは思わないよ」


「カミーユは・・・わからないの」


「僕はカミーユに嘘の神の声を伝えた人の事は許せない。そのせいでカミーユは捕まったんだからね」


「カイト・・・カミーユを助けて」


「カミーユを助けたいの?」


「カミーユは悪くないの・・・」


「カミーユに嘘の神の声を伝えたのは誰?」



**********



船は1時間ほどで出航した港に戻って来た。

そこからは騎士の先導のもとで馬車に乗り込みコロシアムに向かう。


皇都やリブストンのような大都市にはコロシアムと言って、大きな円形の闘技場がある。

この円形闘技場は石とコンクリートで出来た巨大な建物で、日本のスタジアムと良く似た構造をしている。

そして使われ方も日本と良く似ているようで、闘技も行われれば、各種のレースや馬術競技、演劇まで行われるようだ。


夏が過ぎ暑さが和らいだ今この時期は近衛騎士団が一週間ほどコロシアムを使って、1年間鍛えた騎士馬術を競う騎士馬術大会が開かれている。

今年はインストスの事件の影響で規模が小さくはなっているものの、観客の数は例年並みに多い。

馬車を降りるとコロシアムからの観客の熱気が音として伝わってくる。


今から見れる競技は騎士駿馬競争らしい。


ファレル小隊長が競技の説明をしながら皇室用に設けられた特別観覧席に案内をしてくれる。


近衛騎士団の競技という事もあり、席までの道中は大層な警備がなされていた。


「小隊長、今日の見どころは何でしょうか?」

皇女殿下がファレル小隊長に声をかける。


「今日の今からの時間は大会で2番目に人気のある騎士駿馬競争の準決勝を楽しむ事ができます。そこで、今回は皇室を代表する皇女殿下に準決勝の挨拶を頂戴いただきたく存じます」


「挨拶の件はお聞きしてますわ。私は何度も招待されていますが、初めて見るルーク達のために説明をお願いするわね」


「畏まりました皇女殿下。騎士駿馬競争とは2つのチームによるスピードを競う競技です。

ですが、馬の速さを競うと同時に騎士の強さも競う競技となります。」


「強さって、戦うって事ですか?」

ルークが目を輝かせて訊ねる。


「そうです。木剣か長棒を選んで装備していますのでその武器で相手を攻撃できます」


「死人が出るんじゃないのか?」


「皆、鎧を纏った騎士ですので、死者は出ませんと言いたい所ですが、落馬し方によっては死者が出る事もあります」


「命懸けの試合ってことか。」


「負傷者はたくさん出ますね。治癒魔法部隊が活躍する日でもあります。

あっ。馬を攻撃するのは違反となり、違反者は即刻退場ですが、悪質な場合はチームが失格となります」


「騎士道精神を持つ奴がそんな悪質な事しないと思いたいですね」


「騎士団のお披露目でもあるので悪質な行為でチームが失格になるのは稀です。

各チーム2名のエースが存在し、エースを相手エースより早くゴールさせたチームの勝ちになります。

1チーム5名で縦に並んでスタートしますが、エースは後ろからスタートとなりますので、作戦が必要になります」


なかなか興味深い競技だ。

相手チームのエースを攻撃しつつ、自チームのエースを守る。

最終的にはエースが抜け出して逃げ切れば勝ち。エースも2人いるのでかなり色々な戦法が存在しそうである。


僕たちが観覧席に着くと、皇室用の席にエリザベス皇女殿下が案内され、少し離れた来賓席にルークとシャルロット、そして僕が座る事になった。


しばらくしてコロシアム内に溢れる観衆から歓声が湧き起こり、皇女殿下が立ち上がると数歩前に移動した。


いよいよ。騎士駿馬競争の準決勝が始まるらしい。



*************

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