第140話 ロードライズ川にて

皇城の南側にはロードライズ川という巨大な川が流れている。このロードライズ川から見る皇城はとても美しい。

僕たちは夏合宿の時にも船には乗っているけど、今回は皇室が所有する船なので、豪華さが違う。何たって皇帝陛下も乗ることがある船だからね。

こんな船に乗る機会なんて今回を逃せばもうないだろうし。


皇室の船は金と銀の箔が多くの箇所に使われた豪華なもので、30-40mほどのキャラベル船(小型外洋帆船)のような形をしている。

一応オールで漕ぐこともできるので、川でも運用出来るわけだけど、川船ではないので喫水の関係からあまり奥地にはいけないらしい。


船が帆を広げ、オールが水をかく。

船がゆっくりと動き出すと、徐々に小高いロンドアダマスの皇城全体が視界に収まる様になってくる。


その姿は何度見ても美しい。特にこのロードライズ川から見る景色は最高に優雅で川辺に並ぶ建物と船も溶け込み味わいがある。


「カイト。素敵な景色なの」

カイトの腕を掴むシャルロットが濃茶色の髪を靡かせながらそう呟いた。


「そうだね。天気も良いし最高のデート日和だよ」


「私もこの船に乗るのは3年ぶりくらいかしら。その時は貴族を集めてこの上で宴会をやっていたわ」

エリザベス殿下はこの船に乗った事があるそうだ。皇女だから当然か。


「船の上で宴会なんて、皇帝陛下はそんな変わった事をするんだな」


ルークの感覚ではわざわざ船の上で宴会をするなんてよくわからないのだろう。


「皇帝の威厳を示す行事ですしね。軍船も沢山参加してたのでそれは賑やかでしたよ」


「船の上で宴会なんて優雅ですね。僕はこうやってお城を眺めるだけで十分ですけど」


「私もカイトと一緒ならどこでもいいの」


「シャルロットさんは本当にカイトさんの事が好きなのですね」


「カイトは神に祝福されてるの」

シャルロットは好きと言う言葉はなかなか使ってくれない。


「フフフッ。じゃあ私たちは船尾の方に行きましょう」

「そうだな邪魔しちゃ悪いな」


エリザベスがルークの腕を持ち船の後方に歩いていく。


ーーーーーーーーー



その頃、ウインライトとマーガレットは・・・


・・・マストの見張り台の上に立っていた。


「こ、怖いよ!ウインはあんまり押さないでよ!」


「ってもここは2人用じゃないんだからどうしても押しちゃうんだよ!」


見張り台は1人用でウインライトとマーガレットは背中合わせに立っているのだが、互いにお尻で押し合っていた。


「何のために私たちがこんな所に!?ここ高すぎるんだけど!!」


「一度、登ってみたかったんだよ。マーガレットが一緒に行くって言い出したんだろ?」


「そ、そうだけど。こんなに高くて怖い所だと思わなかったんだもん」


「仕方がない奴だな。前向いていいか?」


「えっ。それは・・・良いけど・・・」


ウインライトがモゾモゾと落ちない様にしながらマーガレットの方に向き、後ろから抱きつくような体勢になった。


「これなら良いだろ」

「うん」


「マーガレットの髪は良い匂いがするな」


ウインライトは目の前のマーガレットの栗色の髪の匂いを嗅いでいた。いや、わざとじゃ無い。目と鼻の先にマーガレットの髪が密着して嗅いでしまうポジションなのだ。


「えっ。匂い嗅がないでよ・・・」

「仕方がないだろう。こんな体勢なんだから」

「そうだけど・・・」


「すごい景色だな。ここに登ってきてよかっただろ??」

マストの上はとても高い。この位置から眺める景色は本当に絶景だった。


「うん。私も前向いていい??」


「景色見なくて良いのかよ??ここからの景色は最高だぜ」

「いいのよ」


マーガレットがモゾモゾと後ろを向くと、完全に男女が抱き合う形になった。


「ウインの体大きいね」

「何だよ急に」

マーガレットがウインライトを見上げると目の前にウインライト顔がある。


見つめ合う2人・・・


「キスしょっか??」

「えっ!!・・・・!? いいのかよ!?」

「いいのよ!」


カイトとシャルロットの事など何処かに行っている2人であった。


ーーーーーーーーー


その頃アビーとリオニーは・・・


カイト達が乗る皇室船ではなく、その斜め後方を随走する近衛騎士団が所有する軍船に乗っていた。


リオニーは望遠鏡の様な筒を片目に当てて皇室船の様子を伺っている。


「これじゃカイトとシャルロットを見張られへんやん!!」


望遠鏡を覗き込みながらリオニーがボヤく。


「その筒で遠くに居る人が大きく見れるんでしょ?どうなの?2人は?」


「あの船の方が背が高いから見えへんねん」

「ちょっと、私にも見せてよ」


さっきからアビーは何度も望遠鏡をせがんでいるのだが、リオニーはなかなか手放さない。


「あっ!!皇女殿下とルークが後ろの方にやってきたで!でもカイトとシャルロットは見当たらへん」


「えっ!?今2人っきりなの?!それはまずいんじゃない?」


「ウインライトとマーガレットはあの船に乗ってるはずなんやけど、そっちも見当たらへん」


「そうなの?ちょっと私にも見せて」


「じゃあちょっとだけやで」


「はいはい、わかったわよ。ってこれ、船員さんに貸してもらったんでしょ」


惜しそうにするリオニーから望遠鏡を受け取ったアビーはその筒を覗き込む。


「すごいわね。とっても近くに見えるわ。

あっ!いた!!

ルークが皇女殿下を後ろから抱きしめているわ。もう!私にはそんな事する素振りもなかったのに!!ラブラブじゃない!」


「ルークは奥手やと思ってたのになあ。カイトは見えへんやろ?」


「もう!腹が立つからルークは見ないわ!」


「秘密の探偵団の任務はカイトとシャルロットを見張る事やで!ちゃんと探してや」


「えっ!!!!!え〜〜〜!!!」


「どないしたんや!大きな声あげて」


「ウインライトとマーガレットが抱き合ってキスしてる!!!」


「えっ!!!!

ほんまかいな!!マーガレットはゲイル、ゲイル言ってたのにな〜。ウインは確かにカッコええんやけどな」


「うん。あの密着の仕方は凄いかも」


「どの辺におるんや??ここからは見えへんけど? アビーさんや、うちにも見せてくれへん??」


「ダメよ今、良いところ何だから。マストの上で2人きりになって抱き合ってるのよ!

あっウインライトの手がマーガレットのお尻に!!」


「え〜〜〜!!!早くうちにも見せてや!!」


「えっ!そんなことも!?・・・

・・・・これ以上は見るのは良くないわ!

それよりもカイトとシャルロットよ!!あの船は危険だわ!ウインライトとマーガレットみたいに私達もマストに上がるわよ!!」


「マストに登るの!?」


マストを見上げるアビーとリオニー。

しかし、この軍船のマストには見張り台などはなく、マストにかかっている縄梯子にしがみついて見張りをしている男が1人いるだけだった。


「登るわよ!!」

「うちにまかしき!木登りは得意中の得意やで」


「えっと、お二人は何処に行くんですか??」

騎士のドミニクが2人に声をかける。


「監視業務のためにマストに登ります。良いですよね?」


えっと、マストは危険なのでやめた方が良いと思いますが。


「カイトが見えへんねん。ちゃんと監視せんとあかんやろ?」


「・・・監視対象は不審な船なのですけど」


ドミニクの話も聞かずリオニーはマストを登り始める。その後にアビーも続いた。


「ちょっとちょっと!!勝手に登らないでください!」

マストの上にいた船の乗員が登ってくるリオニー達に声をかけるが、リオニーはどこ吹く風で登り続ける。


「皇女殿下をお守りする業務やで!!ここから見張る必要があるねん!」


「危険です!降りてくださいよ」


「じゃあこの辺でええわ。アビー!望遠鏡ちょうだい!」


「もうリオニー登るの早すぎるわよ。わかったわ先に見させてあげるわ」


アビーが首に掛けていた望遠鏡をリオニーの尻尾に触る様に差し出した。

尻尾で望遠鏡の位置を確認しつつ受け取るリオニー。


「アビーには後でたっぷり見せたるからね。

へぇ!!すごいで。甲板までよう見えるわ!」


リオニーは左手を縄梯子に絡めて体を固定すると右手で望遠鏡を持ちゆっくりと皇室船を確認する。


「ほんまや!!ウインライトとマーガレットが抱き合っとる!!なんかええ感じ何やけど。これはすごいもん見てもうたな」


「そっちじゃないでしょ!!カイトはいないの?」


「すまんすまん!ちょっと待ってや・・・

おったで!!カイトは甲板の反対側でシャルロットと向き合ってるで。なんか見つめあっとるような感じや!!」


「ど、どう言う事!キスしそうなの!?」


「キスはしてへんけど、いつしてもおかしくないで。キスはうちが先約やったんやから順番は守ってもらわな!」


「そんな順番なんてないわよ!リオニーはゲイルがいいんでしょ!?」


「ゲイルは超イケメンやけど、遊びにしかならん!カイトやったら婿さんにピッタリやろ?」


「婿さん?本気で言ってるの?ダメよカイトは!!

それにカイトもあのドレイン家の息子だからそんな簡単には行かないわよ。ってもう良いでしょ。今度は私の番よ!」


「ちょっと待って!今は目が離せへんねん」


「もう!大事なところが見れないじゃない」


「あっ、2人が海の方に向いたで。これはキスは無いな。ええで、アビーに望遠鏡を貸したるわ」

リオニーがお尻の尻尾辺りに下ろした望遠鏡をアビーが踏んだくる様に取って覗き込む。


「カイトはどこ??」


「船の真ん中らへんで向こう向いてるやろ?」


「本当ね。今は向かい合ってないわ。シャルロットは腕を絡ませてるけど」


「そやろ。何話してるんかはわからんからなあ」


「ルークと皇女殿下が戻ってきたわ。ホッ。もう何も起きないないわね。上の方ではまだでも、ウインライトとマーガレットがいちゃついてるわね。いったい何のために船に乗ってるのよ」


「ウインライトとマーガレットはすごい事なってたで!!それが探偵団最大の収穫やな!」


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