第139話 魔法具店にて
皇城の庭園を出た僕たちは礼拝を行うためにロンドアダマス大聖堂に来ている。
ロンドアダマス大聖堂は初代皇帝が法王として真聖教の頂点にある事を世に知らしめるために皇城内に建てられた大聖堂で、グローリオン皇国における真聖教の総本山である。
真聖教の意思決定機関である枢機院もこの大聖堂にあり、外郭の大きさはリブストンの聖アウグスト大聖堂よりもさらに一回り大きく、とにかく巨大で豪華な大聖堂であった。
薄暗い大聖堂を奥まで進むと、第一使徒で英雄と称されるアーノルドの大壁画の前にある祭壇では司祭と助司祭の衣装を着用した聖職者達が祈りを捧げていた。
この大聖堂はグローリオン初代皇帝が建立したと言うこともあり、祭壇のすぐ横にはグローリオン初代皇帝の像が立つと言う他にはない特徴がある。
聖職者達の祈りが終わり、助司祭の衣装を纏うものが司祭に近寄り話しかけると、司祭は振り返り皇女殿下へ頭を下げた。
「エリザベス皇女殿下。御礼拝感謝いたします。では、今日は簡単な儀式を執り行いますので、その後に殿下とお付きの方々も礼拝ください」
司祭が助司祭から渡された杖を掲げると、どこからともなくオルガンの音が響き渡る。
「大いなる神よ。我らを導きたもう大いなる神よ。我ら大地の民にその神の力を下賜くださった事に感謝いたします。その光で我らは神を讃えましょう」
オルガンの音の節目に合わせて司祭はそう言葉を投げかけたあと、杖を再び掲げる。
すると杖の先が赤く光り、大きな炎の玉が飛び出した。
炎はグローリオン陛下像が左手に持つ杖の先にめがけて進み、そこに備えられていた松明のようなものに見事に命中した。
グローリオン皇帝像の持つ杖の先・・杖の宝石を模した松明が赤々と燃え始める。
なかなか洒落た演出である。
オルガンの音がひときわ大きく響いた後、司祭と助司祭は先ほどのような大きな声ではなく呪文を唱えるようにボソボソと神々の偉業とこれまでの使徒の活躍を讃えるような文言を合唱し始めた。
10分くらいだろうか?呪文のような祈りの合唱が終わって、オルガンも穏やかに演奏を止めた。
聖職者たちがアーノルドの大壁画に向かって皆ひざまづく。
エリザベス皇女殿下もそれに倣って跪き祈り始める。
もちろん横に並んだ僕も跪いてシャルロットとともに祈り言葉を唱えた。
僕が祈りを終えても、シャルロットの祈りは続いていた。
「神の
シャルロットはかなり敬虔な真聖教徒なのだと思うけど、神の御心に囚われすぎている。
そもそも神の御心を人は知ることができるのだろうか?
・・・・・いや、僕はダゴン神の意志をこの頭で聞いた。あれが神の御心なのであれば僕は抗う。
シャルロットにもそのことを伝えるべきかもしれない・・・・。
*******
その後、僕たちは皇城の南門を出て、徒歩で商業区を散策し、有名なレストランに来たのだが、レストランの前には馬に乗った騎士が8騎ほど待機していて、僕たちが来ると全員が馬から降りて立ちながら敬礼の姿勢になった。
どうやら皇女殿下護衛は5名の護衛騎士だけではないようだ。
レストラン内は客がいなかった。正確には一組だけ食事をしていたが、それは護衛騎士のレイラさんと思われる人だったので貸切なのだろう。
レイラさんの正面には帽子をかぶってはいるが明らかにウインライトとマーガレットと思われる人物がいた。
変装しているんだろうけど、なんとなくわかっちゃうんだよね。
シャルロットはおっとりしてるから気づかないとは思うけど•••。
「ようこそおいでくださいました。順次食事をお持ちいたします。どうぞ当店の料理をお楽しみください」
レストランのオーナーと思しき老齢の男性が現れ頭を下げ、厨房に戻っていく。
よく見ると厨房の入り口にも騎士と思われる装束を着た男が見張りをしている。
かなり厳重だね。やはりアインホルンの森の事件の後、警備が強化されたのだろう。
エリザベス殿下やルークと一緒の初めての昼食は、次に向かう先が僕が先日水の魔法具を購入した魔法具店と言うこともあり、魔法のことなどで盛り上がった。
エリザベス殿下は僕の魔法が気になるらしい。
*****
次のデートコースであるランフランコ魔法具店でもレストランと同じように近衛騎士が何名か警戒をしていて、ここでも警備は万全だ。
店の中に入ると、店主と父に紹介された公証人が出迎えてくれた。
「皇女殿下、デュクラージュ卿、そしてカイト様とシャルロット様お待ちしておりました。私はここのオーナーのランフランコと申します」
全ての名前を事前に把握してたのだろう。オーナーは全員の名前を入れて挨拶をした。
「フフフッ。ここがカイト行きつけの魔法具店なのね。
私は魔法具店と言うものに初めて入ったわ。魔法具って並べるとこんなに綺麗なものなのですね」
皇女殿下は護衛の問題もあるし買い物など自分でしないのかも知れない。とても喜んでくれて良かったよ。
「こうやって蝋燭の灯りと一緒に陳列されてると綺麗だよな。俺も家を買ったら魔法具を部屋に飾るんだ」
ルークは寮を出て家を買いたいと思っているってことは聞いていた。
貴族になったのに寮にいるなんておかしいと考えているんだけど、しかし、購入する家には厩舎があって馬を飼育できる所が良いらしく、そうなるとちょっとした豪邸になってしまう。先日の褒賞金では賄えないのだ。
「綺麗なの・・・」
「シャルロットには水の魔法具をプレゼントするね」
「うん。ありがとうカイト」
ルーク「カイトも魔法具買うんだろ?」
「僕は持ち運びしやすいものがいいかな。沢山持ちたいからね」
殿下「カイトさんは5属性全て使えるのですから、魔法具が沢山必要になりますね」
「そうなんですよ。今日は沢山買い込みます!そのために公証人の方にもきてもらってますからね」
殿下「公証人ですか。契約書の作成とその契約の証人になる方ですね。では商業証書(手形)で購入されるのですか?」
「そうなんです。父から許可をいただきましたので予算もたっぷりです」
殿下「さすがドレイン方伯ですね」
ルーク「カイトはボンボンだもんな!! 俺は俺の力で方伯に上り詰めてやる!」
それは無理だと思うけど・・・・ルークは戦争でも起こすつもりですかい??
僕はこの店に在庫のあった水の魔法具2本と雷撃の魔法具2本、動魔法具3本、火の魔法具2本とファイアボールの杖1本、治癒魔法具1本を購入する事にした。どれも出来るだけ短めのものだ。
そして特注で、30cmほどの長さのアイスランス2本、指輪型で、氷の魔法具、光の魔法具、治癒魔法具と再生魔法具を作ってもらうことになった。
全て出来上がってから運んで貰う事になり、料金は値切らず公証人を交えて手形決済だ。
手形って便利だなあ。
「えっ!? そんなに購入するんですか?」
エリザベス殿下が呆れた声をあげる。
「僕だけじゃなく、友人の分もまとめて買いますので」
「ドレイン家は気前がいいのね。私もルークにプレゼントしようかしら。カイトさん。ルークにプレゼントするとしたらどんな魔法具がいいかしら?」
「それはダメだ。こんな高いものを女性に買わせるわけに行かないぞ」
ルークは庶民なのにプライドが高い所があるんだよね。ありがたく貰ったほうがいいぞ。その分を一国一城の主人になるための資金にすればいいんだから。
「カイトさんは、クラスメイトみんなにプレゼントするのよ。私は皇女ですからね。とびきりのものをルークにプレゼントしないと」
エリザベス殿下も僕と張り合っているらしい。クラスメイト全員は流石にプレゼントしないけど。探偵団メンバーとシャルロットの分だけだ。
「だったら、雷撃が良いと思いますね。ルークは火の魔法具しか持ってなかったよね?」
「雷撃なんて俺に使えるのか??」
「僕は素質を見抜くのがうまいんだよ。ルークは使えるはず」
素質を見抜くなんてもちろん出来ない。
雷撃は離れた物体に雷を導き当てる魔法で、雷と動魔法に「導」のルーンがあれば発現する。ラノベでルークは火魔法と雷撃が使える魔法使いとして活躍していたから知っているのだ。
「魔法の素質を見抜くなんて事が出来るのですか?すごい能力を持っているのね」
驚くエリザベス。
確かに見抜く能力などあれば、高価な魔法具なしに魔法発現者を特定できる超人的な能力になる。
「カイトはすごいの。カイトは神の申し子なの」
「もしかして私の魔法の事もわかるのかしら?」
「殿下はすごい魔法を隠し持ってますね!」
「えっ。本当にわかるのですか!?」
僕は鼻高々になりすぎて、思わず言ってしまった。ラノベの知識だから本当は見抜く力なんてないのに。やってしまった感。
「そうですか。カイトさんに私の魔法のことを相談しようと思ったのですが、今度個人的にお会いする事は出来ますか?」
「個人的にですか?」
僕は驚いてルークにチラッと視線を投げかける。
「いえ、ルークも一緒にですよ。3人だけで話がしたいのです」
「だったら全く問題ありません。シャルロットごめんね。あっ、このことは教会の人にも言わないようにね。皇女殿下の秘密は漏らしてはいけないんだ」
「・・うん。わかったの」
バレても良いとは思うんだけど、皇女殿下の秘密ってだけでやっぱりやばい気がする。バラしたせいで捕まるなんてこともありえない訳ではない。
結局、ルークは店にある中で1番値が高いオーク材の美しいフォルムの雷撃の魔装具をプレゼントされることになった。
もちろん使えることを確認して。
******
魔法具店の外では、店の窓に顔を貼り付けて中の様子を伺う怪しい女2人がいた。
「何を話してるんや??さっぱりわからんで」
「全然わからないわね・・・」
「シャルロットだけに魔法具買ってるんちゃうやろなっ!」
「そ、そんなことはないと思うわよ。まさかね」
その時シャルロットがチラリと2人が覗く窓の方に振り返った。
「かくれて!!」
アビーがリオニーの毛耳ごと頭を抑えつける。
「バレてないわよね??」
「シャルロットはおっとりしてるから大丈夫やって!!」
リオニーがゆっくり頭を上げる。
「ほら!気づく訳ないって!」
「ならよかったわ。シャルロットに気づかれたら負けよ!」
「この人達って・・・」
騎士のドミニクがその後ろ姿に冷たい視線を向けていた。
***********
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます