第138話 東宮殿の庭園にて

「カイトとシャルロットが殿下と別れてベンチに座ったで。なんかあるで!」

「これは注視する必要があるわね」


バラの木の影から怪しい二人の女が宮殿の庭園に備えられたベンチに座るカイトとシャルロットの様子を伺っている。

赤髪を団子にしてつば付きの帽子に隠したアビーと、麻の布を頭に巻いた変な格好で灰色の耳を隠したリオニーだ。ちなみに彼女の灰色の尻尾はつき出たままだ。


「この二人はいったい・・」

少し離れた場所で二人のお尻を見ているのは後方監視の役目を負った騎士ドミニクであった。


「あっ!!シャルロットがカイトにキスをせがんでるわ!!」

「ホンマや!!抜け駆けやん!どうするん?アビー!!」


10m以上離れているので何を話しているのかは聞こえないが、シャルロットの積極性は想像以上だ。これではカイトが仕留められる可能性がある。


「こうするのよ!」

アビーは手に持っている水の魔法具をカイト達の頭上に向けると、杖の先から水柱が勢いよく飛び出した。



「うわあ!!!なっ!なに!?」

アビーの放った水柱は空中で分裂しながら一部がカイト達に届いたようだ。

カイトが立ち上がって後ろを振り返る。


「隠れて!!」

アビーがリオニーの頭を抑える。


「雨かな??こんなに天気がいいのに不思議なこともあるんだね。はははっ・・・」

カイトの取り繕ったような声が聞こえる。


リオニーがたまらずバラの影から顔を出そうとする。

「痛たぁ!!」

バラの棘がリオニーの頬にあたって思わず声をあげる。


「もう!大きな声ださないでよ。気づかれちゃうでしょ」

「大丈夫。シャルロットは鈍感やし気づかれへんて」


「そ、そう?」

アビーもバラの影から顔を覗かせる。シャルロットと目が合った・・・ような気がする・・・。


シャルロットはすぐにカイトに視線を移し何かを話していいる。

何を話しているのかは聞こえない。

何を話してるのだろう?アビーは気になって仕方がないのであった。



******



「カイト・・濡れちゃったね。服を脱いで」

「大丈夫だよ。少し濡れただけだし」

「カイトが風邪ひいちゃう」


「シャルロットは優しいんだね。僕は神に祝福された人なんだろ?だったら大丈夫だよ」


「だめなの。このハンカチを使っていいの」

「シャルロットも頭に水がついてるよ。先に使って」


「カイトに拭いて欲しいの」

「じゃあ僕が拭いてあげる」


シャルロットが差し出したハンカチを手に取り、頭を撫でるように拭いてやると、シャルロットはとても幸せそうな顔をした。


「シャルロットがいた孤児院の話を聞かせてくれる?」

「聖ビルクス修道院の孤児院のこと・・?」


「そうだよ。どんなところで育ったのか知りたいから」

「うん・・聖ビルクス修道院は聖ビルクス様の功績を讃えてできた修道院なの」


「演劇【聖ビルクスの奇跡】の聖ビルクスだよね。あれは実際の話なの?」

「コレッタのような女の人がいたのは劇で初めてしったの・・エロチックな人だったの」


「はははっ。そうだったね。演劇だから脚色されていると思うよ。人を蘇らせる奇跡・・魔法は本当にあるのかな?」


「本当にあるの。聖ビルクス修道院には古の魔法の本が聖遺物として残されているの」


「聖遺物として残ってるんだ。そんな事を知ってるなんてさすがシャルロットだね!」


僕がシャルロットの頭を撫でてやると、シャルロットが甘えたように僕の腕にしがみついてくる。

「もっと色々聞いていいの。カイトは全部聞いていいの・・」


「孤児院ではどんな事をしてどんなことを学んだの?」

「孤児院では水汲みや掃除担当だったの。カミーユと一緒だった・・」


「カミーユとはそこで仲良くなったんだね」

「カミーユは魔法が使えるの・・私と同じ・・・」


「そっか。それで魔法学園にも来る事になったんだもんね」

「学園に来る前に神の御心に近づく勉強会にも呼ばれたの・・カイトも今度参加して欲しいの」


「神の御心に近づく勉強会??どんな事を勉強するの?」

「神様の御心を学ぶの」


「神様の御心って??」


「カイト様、そろそろ次の場所に参りましょう」

護衛の騎士キャサリンが僕に声をかけてくる。


「わかりました。いこうかシャルロット」

僕は立ち上がり、シャルロットに手を差し出す。


「うん」

シャルロットは僕の手を取り微笑んだ。



******



「前から誰か来る!」

移動のために庭園中央に移動し始めたウインライト達の前から高貴な服装をした数名の男女と護衛の兵と思われる黄金の鎧を着た者2名が現れた。


「ちっ。第二皇子殿下です。膝をついてください」


そういうとレイラは道の端に寄って膝をつく。


「第二皇子!?」

ウインライトとマーガレットもあわててレイラの横に並び膝をついた。


「お前達!!怪しいやつだな。何者だ!!!」

第二皇子の付き添いのものだろうか、一人の男が歩み寄り素性を質問してきた。


「はっ!!エリザベス皇女殿下の護衛として任務中の近衛騎士団所属レイラ-オーシャンです」


「エリザベス殿下の護衛?この先に皇女殿下はいらっしゃるのか?」


「はい。ただいま庭園をご覧になっています」


「殿下、いかがいたしましょう?」

男は赤地に黒と金が混じった高級そうな服装の小太りな男性に近寄り小声で尋ねた。


「エリザベスか。魔法学園に入学したそうじゃないか。よし私から祝いの言葉の一つでもやろう。そこの女。案内しろ」



*******



僕たちの正面からレイラさんと共に皇族とそのお付きと思われる集団が現れた。


そして、10歩ほどの距離になったところで、おそらく皇族と思われる20代半ばの小太りの男が前に出てくる。


「エリザベス。久しぶりだな」


「お久しぶりです。お兄様」

エリザベスの言葉からすると、この男はどうやらエリザベスの兄らしい。ということは第二皇子のジェイソンだろう。


「魔法学園に入学して攫われかけたそうじゃないか。隣にいるのはお前を助けたという庶民の男だな?学園とはなかなか楽しそうなところだな」


「この方は、デュクラージュ卿です。私の命を救っていただきました」


「デュクラージュ卿??ああ、父上がお前を救った褒美に男爵位を与えたのであったな。すまぬ。まあ男爵など庶民となんら変わらんがな。ハハハッ」


「皇子殿下、ルーク-デュクラージュです。以後お見知り置きを」

ルークは石畳に膝をつき苦虫を噛み潰しながらそう答えた。


「後ろにいる男と女はお前の従者か?見たことがない顔だな」


「彼等は魔法学園の同級生でカイト-ドレインさんとそのご友人のシャルロットさんですわ」


「ドレイン!?ドレイン卿に天才魔法使いの隠し子がいたと聞いたが・・・。お前か・・・」


「お初にお目にかかります。皇子殿下。カイト-ドレインです。シャルロット挨拶して」

「シャ、シャルロットです」

僕とシャルロットも石畳に膝をつき挨拶をした。


「お兄様、今日はどう言った風の吹き回しでしょうか?」


「・・・まあいい。エリザベス。お前に魔法学園入学の祝いの言葉をかけてなかったと思ってな。せいぜい庶民の男と仲良くやるがいい」


そう言うと、第二皇子一行はエリザベス達のよこを歩き去っていく・・・。


なんだかとても偉そうで嫌味なやつだったな。ラノベでも良くは描かれてなかったけど、第二皇子ってのは微妙な立ち位置だ。この性格で皇帝になれなかった場合は干されるのは確実だね。

ドレイン方伯(父)はこんな男を皇帝に推しているのか・・・。



しばらくして・・・


「怪しいやつ!!!何者だ!!!」と、第二皇子が去った方角から大きな声が聞こえた。


「私は近衛騎士団所属ドミニクです!!皇女殿下の護衛の任についています!!」

「お前はいい!!この女は何者かと聞いているのだ!!!」


「うち!!? うちは・・・・」


関西弁の聞き慣れた声が聞こえるが・・先に進もう。シャルロットにバレてなければいいけど・・。



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