第134話 アビーと・・・
昼休み、僕は食堂には向かわずにアビーを学園の庭園に連れ出した。
もちろんシャルロットの件も含めてアビーに色々と話をしておきたいからだ。
僕は朝食で多めにもらったパンをアビーに手渡す。
「ちょっと少ないけど、これを食べながら散歩しようよ」
「昼休みにカイトが私を散歩に誘うなんて初めてよね。それで?私だけに話したい事でしょ?たぶんシャルロットの事よね?」
僕を疑うようにアビーが綺麗な茶色い瞳で見つめてくる。
何故わかったのだろう。アビーに話さなければならない事はシャルロットとの出来事に他ならない。
アビーには嘘はつきたくないけど、アビーとの仲も壊したくない。
ここに来る時、いつものようにシャルロットがついてこようとしたので、アビーと2人で話す事は伝えている。
シャルロットは少し悲しそうな顔をしていたが「カイトがそうしたいなら」と、言ってリオニーと食堂に向かった。
「シャルロットの事だって何故わかったの?」
「女の感かな。あとルークとも何かあった?」
女の感凄いんだけど!!
「ど、どうしてわかったの?ルークは寮が一緒だから色々話をしていて、相談に乗ってくれたりするんだ」
「仲良く一緒に遅刻してきたんだから何かあったのかと思うでしょう?それでどっちの話かしら?」
「先日シャルロットと話をしたんだ。カミーユの事を聞くためにね」
「そう。それで、何かあったの?」
「それで・・・。シャルロットにキスをされた」
「えっ!?・・・・・
ふーん。そんな事になる気がしたわ。それを私に自慢するために呼んだの?」
アビーは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに冷静な顔に戻って僕にジャブを入れてくる。
「そうじゃない。だからアビーにだけ話したかったんだ」
「じゃあキスされて、カイトはどうするのよ!!」
アビーが少し声を荒げる。
やっぱりこうなっちゃうよね。でも仕方がない、これから僕がどうするかを説明しないと。
「どうって・・・その前に話しておかなければならない事があるんだ。
カミーユの件。シャルロットと話をして、僕はカミーユが事件に関わってるって確信した」
「?? そう・・・。理由を聞かせて」
アビーが少し不思議そうな顔をしたのは、シャルロットとのキスとカミーユの件が結びつかないのだろう。
「シャルロットはカミーユは神の御心に従っただけだと言っていた」
「神の御心に従って?? それで皇女殿下誘拐に加担したという事?何故シャルロットがそう思ったのか?気になるわね」
「そうだね。近衛騎士団がカミーユを捕らえたのは、カミーユを罰するためじゃ無く、拉致を指示した黒幕を見つけるためなんだ。
カミーユとシャルロットが同じ孤児院出身だって事は知ってるよね」
「そうだったらしいわね。カミーユとシャルロットが最初はいつも一緒だったのは孤児院の知り合いだったからだし」
「近衛騎士団は皇女殿下誘拐の黒幕と孤児院とは何らかの関係があると思っているんだよ」
「じゃあ、カミーユだけじゃなく、シャルロットも誘拐に関わっているって事?!」
「シャルロットは誘拐には関わってない!」
「何故そう言い切れるのよ?」
「事件当時は僕の班だったから。だから僕が言いたい事はそうじゃ無いんだ。
シャルロットもカミーユと同じように孤児院の関係者に操られてるんじゃ無いかって事だよ」
「シャルロットが操られてる??どう言うことよ」
「シャルロットはカミーユが神の御心に従って皇女殿下誘拐をしたと思える事を言っていた。
それにカミーユの今の状況も神の御心だから、カミーユはもう救われてるともね。」
「神の御心って何よ。神がそんな事を望んでいるはずがないわ」
「そうなんだ。神の御心とは神ではない誰かの意思だよ。そして、シャルロット自身は神の御心に従って僕と結ばれるべきだって言うんだ」
「誰かが神の言葉をでっち上げて操ってるって思えるわね」
「僕はそうだと思ってる。シャルロットは僕が神に選ばれ祝福された者で、その僕と自分が結ばれないと行けないと思ってるんだと思う」
「私もカイトは確かに神に祝福されてるとは思うわよ。5属性全て使える魔法使いは皇国始まって以来だもの。シャルロットがカイトに入れ込むのはわかるわ」
「でも僕と結ばれる事が神の御心だというのは誰かの刷り込みだよ。
シャルロットもカミーユも神への信仰心を利用されて、神の御心と言う誰かの言葉で洗脳されてるんだと思うんだ」
「洗脳•••。じゃあシャルロットは本心でカイトに近づいているわけじゃないって事かしら?」
「シャルロットは僕の事を本気で好きだと思ってる・・とは思う。
でも、神の御心だから僕と結ばれるってのは間違ってると思う」
「そうね。カイトが私を呼び出した理由もわかってきたわ。
犯人は何故カイトと結ばれるよう仕向けているのかしら?」
「それは僕にもわからない。けどゲイル兄さんが言うには、僕を利用しようと思ってるんじゃないかって」
「確かにカイトはドレイン方伯の息子だし、魔法の才能も凄いわ。再生魔法が使えるだけでも利用価値は色々あるのかも知れないわね。
カイトはもうシャルロットに近づかない方がいいわ。私がカイトを守るから」
「ありがとうアビー。嬉しいよ。でもシャルロットが悪いんじゃない。
僕はシャルロットを助けたいと思うんだ」
「シャルロットは皇女殿下誘拐犯に洗脳されて利用されているのかもしれないのよ?近づかない方が良いわよ」
「でも僕はシャルロットを助けたい。
そのためにはシャルロットの事をもっと知らないと行けないと思ってる」
「ダメ!!シャルロットはキスしてきたんでしょう?カイトと結ばれたいと思ってるんでしょう?だったらキッパリ断ってあげるべきなんじゃないの!?」
「そうだね。拒否も出来る。
でもそれじゃシャルロットの洗脳は解けない。それどころかおかしな行動に出るかもしれないよ。もしかするとアビーが神の御心を邪魔していると逆恨みされる可能性もある。そんなのは嫌なんだ」
「・・・じゃあどうするのよ」
「洗脳ってのは命令された事をする事じゃない。自分が本心からそう信じて行動するように仕向けるのが洗脳なんだ。
だからこそ、シャルロットが本心から信じている事を糸口に洗脳を解くことも出来るんじゃないかって思ってる」
「話はわかったわ。それで、どうするの?」
「シャルロットにデートで教会に行こうと誘われた。けど僕は教会には行かない」
「デートに教会なんてかなりおかしいわよ」
「でもデートはする事にしたんだ。シャルロットにも僕の考えを知ってもらってその上で距離は縮めていきたい」
「•••••」
「安心して。今は2人きりでのデートはしない。シャルロットとはそういう関係になったらダメだと思ってる。そのためにルークにも協力してもらう事にした」
「えっ?それは、ルークとダブルデートするってこと!?」
「そうだよ。エリザベス殿下はOKだってさ」
「キスはダメだからね!!!」
アビーが強い眼差しで念押しして来る。
僕はキスと言う言葉になにか熱いものを感じてしまった。
シャルロットとキスをした感覚が蘇ってくる・・いや、僕は本当はアビーとキスをしたいんだ。
アビーがシャルロットとのキスがダメだと言うことは・・僕のことが・・・?
「あれ?何故ダメなの?」
少し間を空けて僕はアビーに意地悪な返答をしてみる。
「ダメなものはダメなのよ!キスもその先もダメだからね」
アビーの顔が少しあからむ。
「その先・・もダメなんだ??じゃあ、アビーが僕とキスしてくれるならシャルロットとはしない」
「えっ!?
・・・本当にシャルロットとキスはしない??」
「こっちに来て」
「えっ!?他の生徒に見られるかも・・」
「じゃあ今は一瞬だけ」
「う、うん」
僕は隣に座るアビーの肩を抱き寄せる。
アビーの少し潤んだような瞳が近づき僕を見つめている。
・・・そしてその瞳を閉じられた。
僕はアビーと少しの時間だけ口付けをした。
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